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69話
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はぁーーーーー---ーー--っ?
……。
おっと、失礼。
思いの外、大きな声が出たみたいで、前方を歩く方達が一斉に振り返ります。
しかし、私の顔を見て、なんだ、ルイーズ様でしたか。ルイーズ嬢なら仕方がありませんね、と口々にそう述べ、行軍の列に戻って行きました。
反応そのものが腑に落ちないながらも、私は殿下に視線を向けます。
今は、それどころじゃあないからね。
殿下はぴよたろうの歩みを止め、ルフィーノさんを見つめております。
ルフィーノさんの真意を測ろうとしていらっしゃるのでしょうか。
殿下の紫の瞳が揺らいでおります。
ルフィーノさんは悪い人ではありませんが、昨日出会ったばかりであり、まだ殿下と会話すらしておりません。
そんな、昨夜ひょこっと現れたエルフ━━ルフィーノさんに忠誠を誓われたとて、次代の王━━王太子殿下が承諾する訳ないじゃありませんか。
いえ、不可能なのです。
王族を守る騎士は、様々な武勲を立てた精鋭であらねばなりません。
出自も重要視されておりますしね。
さぁ、殿下。サクッと言ってやってくださいませ。
何を言ってるんだ、この知れ者めがと━━
まずは、武功を立ててからの話だろうと━━
「ふむ……この場合、騎士の誓いでいいのか? 」
えっ?
「はい。私、ルフィーノはレイナルド殿下の盾であり、剣でありたいと願います」
はぁ?
「良かろう! 」
シュタっとぴよたろうから降りた殿下は腰に差した剣を抜きました。
そして━━
「汝、ルフィーノ。これより、我、レイナルド・ヨークシャーの騎士に任ずる」
跪くルフィーノさんの肩に剣を置き、誓いの文句を唱えられました。
…………。
「ははーっ! ありがたき幸せに存じます」
恭しく首を垂れるルフィーノさんを満足気に眺められた殿下は、さも何もありませんでした、という体でぴよたろうに跨り、「よし、遅れた分だけ飛ばすのだぞ」と指示を飛ばします。
【ココ? 】
いいの? と、ぴよたろうは私を見つめますが。
…………。
……。
呆気に取られている私と仲間達は、腕を組み、首を傾げるのに精一杯。
殿下に急かされ、渋々走り出すぴよたろうと、それを追いかけるルフィーノさんの背を見送ります。
…………。
……。
佇む事、数分でしょうか。
いつまでも呆けている私を揺さぶる者がおりました。
「ねぇ、ちょっと! ルイーズ様っ! 聞いているの? 」
イルミラさんでございます。
「ねぇってば! 」
「はいはい、聞こえましたよ。なんですか? 」
「なんなの? あれは……ルフィーノは私に誓いを立てていたはずよ」
ぷりぷりと怒ったまま、イルミラさんはこう仰いますが。
そんな事、私が知る由もございません。
「さぁ? 」
「さぁって言わないでっ。お願いだから、訳を……訳を聞いて来てよ」
美女の泣く姿は心にグサっと来ますが。
「それはご自分で聞いた方が宜しいのではなくて? 」
「何故? 」
「何故って、イルミラさんはルフィーノさんの恋人でしょう? 込み入ったお話は、まず当事者同士でするものではなくて? 私は部外者ですもの、殿下の御心も……錯乱したかの様に見えたルフィーノさんの真意も、プリプリ怒っているイルミラさんが聞くべきなのです。そして、後で教えて下さいましね」
私の言葉を聞いたイルミラさんは口をあんぐり開けておりますが、仲間達はうんうんと頷いております。
ね、皆も知りたいものね。
「は、薄情者ーーーっ! 」
真っ赤に頬を染めたイルミラさんの声が響きます。
そして、モジモジし始めました。
「だって、聞けないじゃない……ずっと、私の傍に居るって言っときながら……この国の王太子殿下に忠誠を誓ったのよ……心変わりの訳なんて……私の事、嫌いになったのかしら……もう、私に飽きたって事? ふぅ~」
イルミラさんは、ぶつくさ言った後、空を見上げ溜息を吐きました。
…………。
恋する乙女は面倒くさいわね。
「ルイーズ。聞いてきてあげなよ」
フェオドール、ニマニマして言わないの。
「そうですよ、ルイーズ。何がどうなってこうなったのかを私達も知る権利があると思うのです」
ダリウス……権利なんて無いと思うよ。
いや、あるのか? ダリウスは将来、殿下の側近になるのだものね。
「そうですわ。人は恋をすると臆病になるもの。イルミラさんでしたわね? その方が直接聞くのが怖いと仰るのなら、聞いて差し上げるべきですわ」
カリーヌ……キラキラ光る眼がすべてを語っておりますね。
この恋の行方が気になると……。
「ルイーズ、お願い。すごく気になるの。イルミラさんとルフィーノさんの恋の行方が」
ララ、貴女は本当に、正直者ね。
もう少し、歯の衣を着せた言い方ってのを学んだ方が……いえ、それが貴女の良い所だったわね。
はぁ~仕方がない。
「では、皆で聞きにいきましょう。どうせ、殿下達に追いつかねばならないですし、皆をこんな場所に残していく訳にもいきませんしね」
ここは森の中。しかも、獣道。
鬱蒼と茂った木々の隙間から、魔物さんが「こんにちわ」ってするかもしれませんし。
「それもそうだね」
そう言ってフェオドールは辺りを見渡し、垂れ下がった枝をかき分け「ここか! 」って、叫びながら剣を振り下ろした。
いや、何もいないからね。
エヘヘと笑って「かっこよかったでしょ」じゃないわよ。
面白いだけだからね。
「そうですね。魔物でも出たら大変ですし、一緒に行きましょう」
ダリウスはフェオドールとハイタッチしながら、そう言った。
ダリウス的にはかっこ良かったのね。
「そうですわね、ルイーズ不在のまま、魔物と対峙する訳にもいきませんもの」
カリーヌは不安気な声音でそう呟く。
ちなみに、ギュッと握りしめたロッドから「炎の鞭」が出たり引っ込んだりを繰り返しております。
不安な感じが、よく表れておりますね。
「うんうん、強い魔物が出たら大変だわ。私とカリーヌとフェオドールはまだ実戦経験がないもの」
そうよね。私も魔物との実戦経験はないわ。
事故の様なものは、何度かあるけれど。
「ええ~っ。僕、スライムとは戦った時あるよ」
ララの言葉にフェオドールが反論した。
それに異を唱えたのは、ララ。
「ええ~っ。スライムは動かないじゃない。ジッとしているか、ポヨンポヨンしているかのどっちでしょう。反撃もしてこない相手を一方的に切り裂くだけなんて、戦闘とは言えないわ」
ララの言い分は尤もである。
しかし、
「違うよっ! 戦ったのは、いつも見るスライムじゃなかったもん。そいつは毒々しい色をしていて、ピュっと何かを吐いて反撃してきたんだ。回避した後、その何かが落ちた場所を見たら、草が溶けていたんだよ。きっと、酸か何かだと思うんだ……動きも普通のスライムより、機敏だったし。回避していなかったら、今頃僕は……でろんでろんのお化けみたいになっていたかもしれないんだよ」
毒々しい色の酸を吐くスライムですか……ゲーム上でも見たことがありませんね……。
変異種でしょうか? これは、父様に報告しなければいけない案件ですわね。
兎にも角にも、フェオドールの話を聞いたララは沈痛な面持ちを浮かべ口を開いた。
「フェオドール、ごめんなさい……私、貴方がそんな死地を潜り抜けていたなんて思いもしなかった。ふふ、でも、ようやく分かったわ。フェオドールが前よりも勇ましくなったのは、実戦を経験したからだったのね」
はっ?
「ああそうさ、ララ。僕は死地を潜り抜けて、一回り成長したのさ」
「とっても勇ましいわ、フェオドール」
髪をフワッとかき分け、そう呟くフェオドールに、ララは両手を合わせ、賛辞を贈っております。
……えっと、コント?
理解及ばず、2人を見つめていると、フェオドールがこちらに向き直りました。
ワクワクした表情を浮かべておりますね。
賛辞を欲しているのでしょうか?
ですので、
「フェオドール、カッコイイー」
棒読みですがとりあえず言ってみました。
しかし、
「心がこもってないっ! 」
とフェオドールに叱られてしまいした。
そうか、そうよね。
見た事もない変異種であろうスライムと対峙して。
怪我をしてもおかしくない状況にもかかわらず、無事勝って帰ってきたのだから、賛辞を贈るべきよね。
ララの誉めっぷりが余りにも怪しくて、ついコントかと思ってしまった私を許して。
「フェオドール。変異種のスライムを撃退するなんて、凄いわ。でもね、格好良さや勇ましさはアピールするものじゃないわよ。男は黙って、醸し出さなくちゃ」
「えっ? どうやって? 」
「威風堂々とした佇まいを背中から滲みだすの。いえ、実戦を経験したんだもの。もう出ているはずよ」
「へへ、そう? 滲み出てる? 」
首を回し、背中を見るフェオドール。
その体勢のまま、皆に「どう? 」と聞きまわっております。
皆が一様に頷いたので、フェオドールはご満悦。
さて、よく分からない問題は片付きましたし、殿下の元へ参りましょうか。
◇ ◇ ◇
小走りする事、数分。
私達は無事、殿下達と合流しました。
そして、今。
殿下の傍らで、甲斐甲斐しく世話を焼いていたルフィーノさんをとっ捕まえて、取り囲んでおります。
「あの……なんでしょうか? 殿下の元へ赴きたいので、お話があるのでしたら、速やかにお願いいたします」
そう言って、ルフィーノさんはソワソワと落ち着きなく、殿下の様子を窺っております。
そんなルフィーノさんを見て、イルミラさんの瞳が揺れました。
「魔眼は禁止ですよ」
これは約束だからね。キチンと言っておかないと。
「わかってるわよ」
イルミラさんは、ルフィーノさんを睨みつけたまま、私に肘を押し付けました。
はいはい、わかっておりますよ。早く聞けって事ですね。
「ルフィーノさん。貴方はイルミラさんに忠誠を誓っていたのではないのですか? 」
私が問うと、ルフィーノさんは何かを察した様に「ああ」と頷きこう答えました。
「はい。忠誠を誓っていたのは間違いありません」
うん? 過去形ですね。
「ですが、それは昨日まででございます」
続けてこう断言するルフィーノさんにイルミラさんは烈火のごとく怒り、叫びました。
「どういう事っ? 私に愛を囁いたのは嘘だったのっ! 貴方の愛を信じ、貴方が傍に居てくれるって思ったから、私はこの国で罪を償い、暮らしていこうと決めたのにっ! 私もリーヌスも貴方無しでどう過ごして行けばいいのっ! …………酷いわルフィーノ……」
イルミラさんはとうとう、泣き出してしまいました。
冷ややかな視線が、ルフィーノさんに集中します。
皆、紳士淑女だものね。女性に酷い事をするルフィーノさんが許せないのでしょう。
「えっ?! ちがっ、違います。皆さま、誤解されております」
「「「「「「誤解? 」」」」」」
「はい。イルミラ様……いえ、イルミラを愛しているのは真実でございます。この先、命尽きるまで共に過ごしたいと思っておりますし」
「「「「「「し? 」」」」」」
「結婚し、イルミラとリーヌスを養っていく覚悟もございますが」
「「「「「「が? 」」」」」」
「もう、私の中でイルミラは妻なのでございます。妻に永遠の愛は誓えますが、忠誠を誓うのは主君のみでございましょう? 私は主君を見つけてしまったのでございます」
「私は妻っ!?! 」
妻という単語でイルミラさんの頬は真っ赤に染まり、顔を覆い隠してしまいます。
そんなイルミラさんを見たルフィーノさんは優しい笑みを浮かべ、こう囁きました。
「イルミラ。心から、愛しておりますよ」
と。
甘ぇな、甘すぎるよ。
仲間達も皆、甘すぎるのか、口をあんぐりと開けております。
きっと、砂糖を吐いているのでしょう。
「まぁ、理解出来ました。ルフィーノさんは、新たに使えるべき主を見つけたって事ですよね? 」
「ええ、その通りでございます」
「で、何故。陛下ではなく、殿下なの? 」
騎士は現国王に忠誠を誓うのが、尤もであり。素っ飛ばして次代国王━━殿下に忠誠を誓うってのが腑に落ちないんだよ。
殿下に心を奪われたかの様な発言も気になったのよね。
美しいって言ってたもんな。
確かに殿下の見た目はいいよ。
攻略キャラだからか、キラッキラしてるもの。
でも、そういう事じゃないんですよね。
「それは、殿下が美しいからでございます」
そう、その意味が理解できないんですよ。
「ルフィーノ。ルイーズ様もお仲間の皆様も、何が美しくて、ああいう態度をとったのかが理解できないのよ。だから、キチンと話して」
イルミラさんがルフィーノさんの腕に手を絡ませながら、そう告げました。
もう、ラブラブですね。
「ああ、そうでしたね。皆様には見えないのでしたね。言葉足らずで皆様に不快な思いをさせてしまった事、深くお詫び申し上げます」
「謝罪は受け入れました。それより、早く説明してくださいな」
「では、私が何故、殿下に忠誠を誓ったのかお話いたしますね。まず、私はエルフでございます」
うん、知ってる。
「エルフとは、精霊を視認する事が出来るのです」
へぇ、じゃあ。ファンタジー界で有名なあの精霊もこの精霊も居たり、見えたりするのかしら?
あの精霊とは、四大精霊のサラマンダー、ウンディーネ、シルフ、ノームの事ね。
「ルイーズ様は、精霊とは何かご存知ですか? 」
ルフィーノさんにそう問われるも、明確な答えを持っておりませんね。
なので、頭を振ります。
「そうですね、この大陸の皆様にわかりやすく説明いたしますと。精霊とは、万物に宿る気━━つまりマナでございます」
「マナっ!? 」
「はい。マナはご存知ですよね? ルイーズ様の身体には大量のマナ━━精霊の欠片が巡っておりますので」
「欠片ですの? では、私達は精霊を体に取り込み食べちゃってるって事ですの? 」
「いえいえ、欠片に意思は存在しませんし、欠片は日々生み出されておりますので、ご安心を」
はぁ、良かった。
知らず知らずの内に、精霊さんを食べちゃっているのかと思ったわ。
ホッと、胸を撫で下ろした私を見て、クスっと笑みを浮かべたルフィーノさんは話を続けました。
「精霊の欠片がマナというのは理解いただけましたね。しかし、この世界には欠片ではない精霊も存在するのです」
「それは意思を持った精霊さんという訳ですわね。その、意思を持った精霊さんは、欠片が成長して生まれたって事ではありませんよね? 」
「いえ。意思を持った精霊は、欠片から生み出されるのではなく、この世界に元より存在する大精霊様方が生み出しております。そして、欠片は意思のある精霊達の食事でもありますね」
「つまり、マナはご飯という訳ですのね」
「ええ、その解釈で合っております。フフ、ですから欠片━━マナを取り込んだとて気に病む必要はありませんよ」
はぁ、心底安堵いたしました。
「ではでは、エルフであるルフィーノさんは、意思疎通が出来る精霊さんとお話が出来るのですね」
そうでないと、こんなお話しないものね。
「その通りでございます」
ルフィーノさんがそう断言すると同時に、フェオドールが私の道着の袖をひっぱった。
「ねぇねぇ、精霊のお話は面白いけど、それと殿下となんの関係があるの? 」
そうね、精霊のお話は為になるけれど、話が脱線しているわね。
そろそろ、本題に移ってくれないかしら。
私がそう感じていると、ルフィーノさんが慌てて口を開きました。
「申し訳ございません。殿下のお話をするに踏まえ、精霊についてご理解いただこうと思った次第で御座います」
精霊の知識を得た上で、殿下のお話という事は……。
「では、精霊さんのお話と殿下のお話は繋がっているという訳ですか」
「左様でございます。大精霊様方を崇め奉り、精霊達と共存しているのがエルフ。そのエルフが信奉する大精霊様が愛し、見守っていらっしゃるのが王太子殿下なのでございます。ですので、私は大精霊様の愛し子、殿下をお守りしようと決断したのです」
殿下が大精霊様の愛し子っ?!
ルフィーノさんの言葉に、仲間達もイルミラさんも言葉を失っております。
そこで物申したのは、殿下。
ルフィーノさんを取り囲む陣形を取っていたのにもかかわらず、ダリウスとフェオドールの腰の隙間から顔を覗かせ、こう仰いました。
「えっ、私に何か憑いているのか? 」
と…………。
エルフさん達に崇め奉られている、大精霊様に憑いているはないでしょう。
案の定、ルフィーノさんは頬を引き攣らせております。
「大精霊様が殿下を見守っておられるのです。憑いているのではなく、守っておられるのですから、言い間違いはなさいませんようお願い申し上げます」
「あ、ああ。見守ってか……して、大精霊に見守られて何かあるのか? 」
ふむ、尤もな疑問ですわね。
その疑問に、ルフィーノさんが答えてくれました。
「ええ。魔法を発動する時、大精霊様に語り掛ける様お願いしますと、威力が格段と向上いたしますね。そして、殿下を見守ってくださっている大精霊様は四大精霊の1柱『風の精霊・シルフ』様に御座います」
シルフ、シルフっ! シルフが存在するのっ?
ではでは、ノーム、ウンディーネ、サラマンダーもいるって事よね?
わぁ~~~ファンタジーっ。
「うむ、シルフか。では、シルフ。これからも私と仲良くしてくれ」
見えない相手ですので、殿下は空に視線を向け『風の精霊・シルフ』にそう語りかけられました。
すると、いつものキラッキラが渦をなす様に、殿下を取り囲みます。
わぁ、綺麗……幻想的だわ……。
……。
って、違う。
何なのアレ?
キラキラの粉って意思があるの?
王子様だから、意味もなくキラキラしてたんじゃないの?
「ねぇ、ルイーズ。殿下の周りを取り囲むキラキラって虫じゃなかったんだね」
ぽそっとそう呟くフェオドール。
「私は蝶や蛾の鱗粉の様な物かと思っていました」
…………。
そう呟くダリウス。
「あのキラキラ、ルイーズが捕まえようとしていたものだよね? 」
ララがそう問うので、私は頷いて肯定した。
「わぁ、なんて神秘的なのかしら……」
カリーヌはうっとりしている。
「皆さま、あの粒子が見えるのですか? 」
ルフィーノさんが驚きの表情を浮かべ、そう問いかけてきた。
「ええ、キラキラしている物? 者? は見えますよ。あれは殿下が振りまくエフェクト━━もとい、王子特有の現象かと思っておりましたが、違うのですね……」
「ええ、ルイーズ様方はハッキリ見えないようですが。ほら、あそこを見て下さい━━一段と濃く粒子が集まっている部分が御座いますでしょう? 」
ルフィーノさんの言葉通り、粒子の集まっている場所に視線を向ける。
「ええ、一段と濃く、煌びやかな部分ですわね」
「その部分に『シルフ』様がいらっしゃいます。周りの、細かな粒子の部分は、シルフ様に誘われ集まった精霊達と欠片ですね」
「へぇ。ほぅ。そうなんですね」
私には、キラキラ以外見えないし、なんとも反応しにくいです。
怪しい霊能者に、こういった守護霊がついておりますよ。的な? そんな事を言われた気分です。
しかも、他人の守護霊を知らされてどう反応しろと。
本当、見える見えないって大事だと思う。
見えるとありがたみも感じられるのに。
こんな素気無い返事もかかわらず、ルフィーノさんはご満悦のご様子。
ニコニコしながら、更にこう続けました。
「精霊に関心を持っていただいて、安堵いたしました。これで心置きなく、皆様にお知らせ出来ます」
「何をですか? 」
「はい。大精霊様ではございませんが、お仲間の皆様にも、意思疎通の出来る精霊達が付いているのですよ」
はっ?
他の皆にも精霊が憑いて━━付いているの?
私がビックリ仰天して、言葉を失っていると、皆は自分の周りをパタパタと扇ぎ始めました。
いや、それだと、精霊さんを散らしているだけになるからね。
「み、皆さまっ。お静まり下さいっ」
ほら、ルフィーノさんが大慌てしちゃったじゃない。
ええ~っ、だって、じゃないの。
捕まえたかったのに、じゃないの。
本当、やんちゃな子達ね。
冷や汗をかいたのか、ルフィーノさんがハンカチを取り出し額を拭った。
そして、
「皆様の傍に居る精霊達は、それぞれ得意とする魔法に縁がある者達です。ですので、皆様も精霊に語り掛ける様に、魔法を発動してみて下さい」
「よし! 行く━━」
「ちょっ、お待ちをっ! 」
早速、魔法を放とうするフェオドールをルフィーノさんが取り押さえました。
「今ここで、ではありません。それこそ、冒険者として活動している時や魔物と対峙している時にお願いします」
そうりゃあそうよ。こんな場所で魔法を放ったら、森林伐採、環境破壊しちゃうわ。
ほら、皆も武器をしまいなさい。
そうアイコンタクトを送ると、渋々ですが、各々武器を収めてくれました。
本当に気が早い子達なんだから。
「しかし、ルイーズ様は落ち着いていらっしゃいますね。精霊に然程興味がなかったのでしょうか? 」
「うん? いえ。姿が見え、会話が成立するのであれば、もう少し興味を向けるけれども……見えないからね。それに、私には付いていないでしょう? 」
「そうですね……他の誰よりもマナ━━欠片を取り込んでいるにもかかわらず、意思疎通のできる精霊はいませんね」
「そうでしょう。だから、興味を持ったとて、一緒に遊べないじゃい。どうしようもないわ」
「ですが……ルイーズ様の中に不思議な力を感じるのは確かです。それが何かは見当もつきませんが……」
…………。
見当が付かなくて当然だよ。
でも、警戒しておいた方が良さそうですね。
まだ、育ちきっていないコレを知られる訳にはいきませんもの。
……。
おっと、失礼。
思いの外、大きな声が出たみたいで、前方を歩く方達が一斉に振り返ります。
しかし、私の顔を見て、なんだ、ルイーズ様でしたか。ルイーズ嬢なら仕方がありませんね、と口々にそう述べ、行軍の列に戻って行きました。
反応そのものが腑に落ちないながらも、私は殿下に視線を向けます。
今は、それどころじゃあないからね。
殿下はぴよたろうの歩みを止め、ルフィーノさんを見つめております。
ルフィーノさんの真意を測ろうとしていらっしゃるのでしょうか。
殿下の紫の瞳が揺らいでおります。
ルフィーノさんは悪い人ではありませんが、昨日出会ったばかりであり、まだ殿下と会話すらしておりません。
そんな、昨夜ひょこっと現れたエルフ━━ルフィーノさんに忠誠を誓われたとて、次代の王━━王太子殿下が承諾する訳ないじゃありませんか。
いえ、不可能なのです。
王族を守る騎士は、様々な武勲を立てた精鋭であらねばなりません。
出自も重要視されておりますしね。
さぁ、殿下。サクッと言ってやってくださいませ。
何を言ってるんだ、この知れ者めがと━━
まずは、武功を立ててからの話だろうと━━
「ふむ……この場合、騎士の誓いでいいのか? 」
えっ?
「はい。私、ルフィーノはレイナルド殿下の盾であり、剣でありたいと願います」
はぁ?
「良かろう! 」
シュタっとぴよたろうから降りた殿下は腰に差した剣を抜きました。
そして━━
「汝、ルフィーノ。これより、我、レイナルド・ヨークシャーの騎士に任ずる」
跪くルフィーノさんの肩に剣を置き、誓いの文句を唱えられました。
…………。
「ははーっ! ありがたき幸せに存じます」
恭しく首を垂れるルフィーノさんを満足気に眺められた殿下は、さも何もありませんでした、という体でぴよたろうに跨り、「よし、遅れた分だけ飛ばすのだぞ」と指示を飛ばします。
【ココ? 】
いいの? と、ぴよたろうは私を見つめますが。
…………。
……。
呆気に取られている私と仲間達は、腕を組み、首を傾げるのに精一杯。
殿下に急かされ、渋々走り出すぴよたろうと、それを追いかけるルフィーノさんの背を見送ります。
…………。
……。
佇む事、数分でしょうか。
いつまでも呆けている私を揺さぶる者がおりました。
「ねぇ、ちょっと! ルイーズ様っ! 聞いているの? 」
イルミラさんでございます。
「ねぇってば! 」
「はいはい、聞こえましたよ。なんですか? 」
「なんなの? あれは……ルフィーノは私に誓いを立てていたはずよ」
ぷりぷりと怒ったまま、イルミラさんはこう仰いますが。
そんな事、私が知る由もございません。
「さぁ? 」
「さぁって言わないでっ。お願いだから、訳を……訳を聞いて来てよ」
美女の泣く姿は心にグサっと来ますが。
「それはご自分で聞いた方が宜しいのではなくて? 」
「何故? 」
「何故って、イルミラさんはルフィーノさんの恋人でしょう? 込み入ったお話は、まず当事者同士でするものではなくて? 私は部外者ですもの、殿下の御心も……錯乱したかの様に見えたルフィーノさんの真意も、プリプリ怒っているイルミラさんが聞くべきなのです。そして、後で教えて下さいましね」
私の言葉を聞いたイルミラさんは口をあんぐり開けておりますが、仲間達はうんうんと頷いております。
ね、皆も知りたいものね。
「は、薄情者ーーーっ! 」
真っ赤に頬を染めたイルミラさんの声が響きます。
そして、モジモジし始めました。
「だって、聞けないじゃない……ずっと、私の傍に居るって言っときながら……この国の王太子殿下に忠誠を誓ったのよ……心変わりの訳なんて……私の事、嫌いになったのかしら……もう、私に飽きたって事? ふぅ~」
イルミラさんは、ぶつくさ言った後、空を見上げ溜息を吐きました。
…………。
恋する乙女は面倒くさいわね。
「ルイーズ。聞いてきてあげなよ」
フェオドール、ニマニマして言わないの。
「そうですよ、ルイーズ。何がどうなってこうなったのかを私達も知る権利があると思うのです」
ダリウス……権利なんて無いと思うよ。
いや、あるのか? ダリウスは将来、殿下の側近になるのだものね。
「そうですわ。人は恋をすると臆病になるもの。イルミラさんでしたわね? その方が直接聞くのが怖いと仰るのなら、聞いて差し上げるべきですわ」
カリーヌ……キラキラ光る眼がすべてを語っておりますね。
この恋の行方が気になると……。
「ルイーズ、お願い。すごく気になるの。イルミラさんとルフィーノさんの恋の行方が」
ララ、貴女は本当に、正直者ね。
もう少し、歯の衣を着せた言い方ってのを学んだ方が……いえ、それが貴女の良い所だったわね。
はぁ~仕方がない。
「では、皆で聞きにいきましょう。どうせ、殿下達に追いつかねばならないですし、皆をこんな場所に残していく訳にもいきませんしね」
ここは森の中。しかも、獣道。
鬱蒼と茂った木々の隙間から、魔物さんが「こんにちわ」ってするかもしれませんし。
「それもそうだね」
そう言ってフェオドールは辺りを見渡し、垂れ下がった枝をかき分け「ここか! 」って、叫びながら剣を振り下ろした。
いや、何もいないからね。
エヘヘと笑って「かっこよかったでしょ」じゃないわよ。
面白いだけだからね。
「そうですね。魔物でも出たら大変ですし、一緒に行きましょう」
ダリウスはフェオドールとハイタッチしながら、そう言った。
ダリウス的にはかっこ良かったのね。
「そうですわね、ルイーズ不在のまま、魔物と対峙する訳にもいきませんもの」
カリーヌは不安気な声音でそう呟く。
ちなみに、ギュッと握りしめたロッドから「炎の鞭」が出たり引っ込んだりを繰り返しております。
不安な感じが、よく表れておりますね。
「うんうん、強い魔物が出たら大変だわ。私とカリーヌとフェオドールはまだ実戦経験がないもの」
そうよね。私も魔物との実戦経験はないわ。
事故の様なものは、何度かあるけれど。
「ええ~っ。僕、スライムとは戦った時あるよ」
ララの言葉にフェオドールが反論した。
それに異を唱えたのは、ララ。
「ええ~っ。スライムは動かないじゃない。ジッとしているか、ポヨンポヨンしているかのどっちでしょう。反撃もしてこない相手を一方的に切り裂くだけなんて、戦闘とは言えないわ」
ララの言い分は尤もである。
しかし、
「違うよっ! 戦ったのは、いつも見るスライムじゃなかったもん。そいつは毒々しい色をしていて、ピュっと何かを吐いて反撃してきたんだ。回避した後、その何かが落ちた場所を見たら、草が溶けていたんだよ。きっと、酸か何かだと思うんだ……動きも普通のスライムより、機敏だったし。回避していなかったら、今頃僕は……でろんでろんのお化けみたいになっていたかもしれないんだよ」
毒々しい色の酸を吐くスライムですか……ゲーム上でも見たことがありませんね……。
変異種でしょうか? これは、父様に報告しなければいけない案件ですわね。
兎にも角にも、フェオドールの話を聞いたララは沈痛な面持ちを浮かべ口を開いた。
「フェオドール、ごめんなさい……私、貴方がそんな死地を潜り抜けていたなんて思いもしなかった。ふふ、でも、ようやく分かったわ。フェオドールが前よりも勇ましくなったのは、実戦を経験したからだったのね」
はっ?
「ああそうさ、ララ。僕は死地を潜り抜けて、一回り成長したのさ」
「とっても勇ましいわ、フェオドール」
髪をフワッとかき分け、そう呟くフェオドールに、ララは両手を合わせ、賛辞を贈っております。
……えっと、コント?
理解及ばず、2人を見つめていると、フェオドールがこちらに向き直りました。
ワクワクした表情を浮かべておりますね。
賛辞を欲しているのでしょうか?
ですので、
「フェオドール、カッコイイー」
棒読みですがとりあえず言ってみました。
しかし、
「心がこもってないっ! 」
とフェオドールに叱られてしまいした。
そうか、そうよね。
見た事もない変異種であろうスライムと対峙して。
怪我をしてもおかしくない状況にもかかわらず、無事勝って帰ってきたのだから、賛辞を贈るべきよね。
ララの誉めっぷりが余りにも怪しくて、ついコントかと思ってしまった私を許して。
「フェオドール。変異種のスライムを撃退するなんて、凄いわ。でもね、格好良さや勇ましさはアピールするものじゃないわよ。男は黙って、醸し出さなくちゃ」
「えっ? どうやって? 」
「威風堂々とした佇まいを背中から滲みだすの。いえ、実戦を経験したんだもの。もう出ているはずよ」
「へへ、そう? 滲み出てる? 」
首を回し、背中を見るフェオドール。
その体勢のまま、皆に「どう? 」と聞きまわっております。
皆が一様に頷いたので、フェオドールはご満悦。
さて、よく分からない問題は片付きましたし、殿下の元へ参りましょうか。
◇ ◇ ◇
小走りする事、数分。
私達は無事、殿下達と合流しました。
そして、今。
殿下の傍らで、甲斐甲斐しく世話を焼いていたルフィーノさんをとっ捕まえて、取り囲んでおります。
「あの……なんでしょうか? 殿下の元へ赴きたいので、お話があるのでしたら、速やかにお願いいたします」
そう言って、ルフィーノさんはソワソワと落ち着きなく、殿下の様子を窺っております。
そんなルフィーノさんを見て、イルミラさんの瞳が揺れました。
「魔眼は禁止ですよ」
これは約束だからね。キチンと言っておかないと。
「わかってるわよ」
イルミラさんは、ルフィーノさんを睨みつけたまま、私に肘を押し付けました。
はいはい、わかっておりますよ。早く聞けって事ですね。
「ルフィーノさん。貴方はイルミラさんに忠誠を誓っていたのではないのですか? 」
私が問うと、ルフィーノさんは何かを察した様に「ああ」と頷きこう答えました。
「はい。忠誠を誓っていたのは間違いありません」
うん? 過去形ですね。
「ですが、それは昨日まででございます」
続けてこう断言するルフィーノさんにイルミラさんは烈火のごとく怒り、叫びました。
「どういう事っ? 私に愛を囁いたのは嘘だったのっ! 貴方の愛を信じ、貴方が傍に居てくれるって思ったから、私はこの国で罪を償い、暮らしていこうと決めたのにっ! 私もリーヌスも貴方無しでどう過ごして行けばいいのっ! …………酷いわルフィーノ……」
イルミラさんはとうとう、泣き出してしまいました。
冷ややかな視線が、ルフィーノさんに集中します。
皆、紳士淑女だものね。女性に酷い事をするルフィーノさんが許せないのでしょう。
「えっ?! ちがっ、違います。皆さま、誤解されております」
「「「「「「誤解? 」」」」」」
「はい。イルミラ様……いえ、イルミラを愛しているのは真実でございます。この先、命尽きるまで共に過ごしたいと思っておりますし」
「「「「「「し? 」」」」」」
「結婚し、イルミラとリーヌスを養っていく覚悟もございますが」
「「「「「「が? 」」」」」」
「もう、私の中でイルミラは妻なのでございます。妻に永遠の愛は誓えますが、忠誠を誓うのは主君のみでございましょう? 私は主君を見つけてしまったのでございます」
「私は妻っ!?! 」
妻という単語でイルミラさんの頬は真っ赤に染まり、顔を覆い隠してしまいます。
そんなイルミラさんを見たルフィーノさんは優しい笑みを浮かべ、こう囁きました。
「イルミラ。心から、愛しておりますよ」
と。
甘ぇな、甘すぎるよ。
仲間達も皆、甘すぎるのか、口をあんぐりと開けております。
きっと、砂糖を吐いているのでしょう。
「まぁ、理解出来ました。ルフィーノさんは、新たに使えるべき主を見つけたって事ですよね? 」
「ええ、その通りでございます」
「で、何故。陛下ではなく、殿下なの? 」
騎士は現国王に忠誠を誓うのが、尤もであり。素っ飛ばして次代国王━━殿下に忠誠を誓うってのが腑に落ちないんだよ。
殿下に心を奪われたかの様な発言も気になったのよね。
美しいって言ってたもんな。
確かに殿下の見た目はいいよ。
攻略キャラだからか、キラッキラしてるもの。
でも、そういう事じゃないんですよね。
「それは、殿下が美しいからでございます」
そう、その意味が理解できないんですよ。
「ルフィーノ。ルイーズ様もお仲間の皆様も、何が美しくて、ああいう態度をとったのかが理解できないのよ。だから、キチンと話して」
イルミラさんがルフィーノさんの腕に手を絡ませながら、そう告げました。
もう、ラブラブですね。
「ああ、そうでしたね。皆様には見えないのでしたね。言葉足らずで皆様に不快な思いをさせてしまった事、深くお詫び申し上げます」
「謝罪は受け入れました。それより、早く説明してくださいな」
「では、私が何故、殿下に忠誠を誓ったのかお話いたしますね。まず、私はエルフでございます」
うん、知ってる。
「エルフとは、精霊を視認する事が出来るのです」
へぇ、じゃあ。ファンタジー界で有名なあの精霊もこの精霊も居たり、見えたりするのかしら?
あの精霊とは、四大精霊のサラマンダー、ウンディーネ、シルフ、ノームの事ね。
「ルイーズ様は、精霊とは何かご存知ですか? 」
ルフィーノさんにそう問われるも、明確な答えを持っておりませんね。
なので、頭を振ります。
「そうですね、この大陸の皆様にわかりやすく説明いたしますと。精霊とは、万物に宿る気━━つまりマナでございます」
「マナっ!? 」
「はい。マナはご存知ですよね? ルイーズ様の身体には大量のマナ━━精霊の欠片が巡っておりますので」
「欠片ですの? では、私達は精霊を体に取り込み食べちゃってるって事ですの? 」
「いえいえ、欠片に意思は存在しませんし、欠片は日々生み出されておりますので、ご安心を」
はぁ、良かった。
知らず知らずの内に、精霊さんを食べちゃっているのかと思ったわ。
ホッと、胸を撫で下ろした私を見て、クスっと笑みを浮かべたルフィーノさんは話を続けました。
「精霊の欠片がマナというのは理解いただけましたね。しかし、この世界には欠片ではない精霊も存在するのです」
「それは意思を持った精霊さんという訳ですわね。その、意思を持った精霊さんは、欠片が成長して生まれたって事ではありませんよね? 」
「いえ。意思を持った精霊は、欠片から生み出されるのではなく、この世界に元より存在する大精霊様方が生み出しております。そして、欠片は意思のある精霊達の食事でもありますね」
「つまり、マナはご飯という訳ですのね」
「ええ、その解釈で合っております。フフ、ですから欠片━━マナを取り込んだとて気に病む必要はありませんよ」
はぁ、心底安堵いたしました。
「ではでは、エルフであるルフィーノさんは、意思疎通が出来る精霊さんとお話が出来るのですね」
そうでないと、こんなお話しないものね。
「その通りでございます」
ルフィーノさんがそう断言すると同時に、フェオドールが私の道着の袖をひっぱった。
「ねぇねぇ、精霊のお話は面白いけど、それと殿下となんの関係があるの? 」
そうね、精霊のお話は為になるけれど、話が脱線しているわね。
そろそろ、本題に移ってくれないかしら。
私がそう感じていると、ルフィーノさんが慌てて口を開きました。
「申し訳ございません。殿下のお話をするに踏まえ、精霊についてご理解いただこうと思った次第で御座います」
精霊の知識を得た上で、殿下のお話という事は……。
「では、精霊さんのお話と殿下のお話は繋がっているという訳ですか」
「左様でございます。大精霊様方を崇め奉り、精霊達と共存しているのがエルフ。そのエルフが信奉する大精霊様が愛し、見守っていらっしゃるのが王太子殿下なのでございます。ですので、私は大精霊様の愛し子、殿下をお守りしようと決断したのです」
殿下が大精霊様の愛し子っ?!
ルフィーノさんの言葉に、仲間達もイルミラさんも言葉を失っております。
そこで物申したのは、殿下。
ルフィーノさんを取り囲む陣形を取っていたのにもかかわらず、ダリウスとフェオドールの腰の隙間から顔を覗かせ、こう仰いました。
「えっ、私に何か憑いているのか? 」
と…………。
エルフさん達に崇め奉られている、大精霊様に憑いているはないでしょう。
案の定、ルフィーノさんは頬を引き攣らせております。
「大精霊様が殿下を見守っておられるのです。憑いているのではなく、守っておられるのですから、言い間違いはなさいませんようお願い申し上げます」
「あ、ああ。見守ってか……して、大精霊に見守られて何かあるのか? 」
ふむ、尤もな疑問ですわね。
その疑問に、ルフィーノさんが答えてくれました。
「ええ。魔法を発動する時、大精霊様に語り掛ける様お願いしますと、威力が格段と向上いたしますね。そして、殿下を見守ってくださっている大精霊様は四大精霊の1柱『風の精霊・シルフ』様に御座います」
シルフ、シルフっ! シルフが存在するのっ?
ではでは、ノーム、ウンディーネ、サラマンダーもいるって事よね?
わぁ~~~ファンタジーっ。
「うむ、シルフか。では、シルフ。これからも私と仲良くしてくれ」
見えない相手ですので、殿下は空に視線を向け『風の精霊・シルフ』にそう語りかけられました。
すると、いつものキラッキラが渦をなす様に、殿下を取り囲みます。
わぁ、綺麗……幻想的だわ……。
……。
って、違う。
何なのアレ?
キラキラの粉って意思があるの?
王子様だから、意味もなくキラキラしてたんじゃないの?
「ねぇ、ルイーズ。殿下の周りを取り囲むキラキラって虫じゃなかったんだね」
ぽそっとそう呟くフェオドール。
「私は蝶や蛾の鱗粉の様な物かと思っていました」
…………。
そう呟くダリウス。
「あのキラキラ、ルイーズが捕まえようとしていたものだよね? 」
ララがそう問うので、私は頷いて肯定した。
「わぁ、なんて神秘的なのかしら……」
カリーヌはうっとりしている。
「皆さま、あの粒子が見えるのですか? 」
ルフィーノさんが驚きの表情を浮かべ、そう問いかけてきた。
「ええ、キラキラしている物? 者? は見えますよ。あれは殿下が振りまくエフェクト━━もとい、王子特有の現象かと思っておりましたが、違うのですね……」
「ええ、ルイーズ様方はハッキリ見えないようですが。ほら、あそこを見て下さい━━一段と濃く粒子が集まっている部分が御座いますでしょう? 」
ルフィーノさんの言葉通り、粒子の集まっている場所に視線を向ける。
「ええ、一段と濃く、煌びやかな部分ですわね」
「その部分に『シルフ』様がいらっしゃいます。周りの、細かな粒子の部分は、シルフ様に誘われ集まった精霊達と欠片ですね」
「へぇ。ほぅ。そうなんですね」
私には、キラキラ以外見えないし、なんとも反応しにくいです。
怪しい霊能者に、こういった守護霊がついておりますよ。的な? そんな事を言われた気分です。
しかも、他人の守護霊を知らされてどう反応しろと。
本当、見える見えないって大事だと思う。
見えるとありがたみも感じられるのに。
こんな素気無い返事もかかわらず、ルフィーノさんはご満悦のご様子。
ニコニコしながら、更にこう続けました。
「精霊に関心を持っていただいて、安堵いたしました。これで心置きなく、皆様にお知らせ出来ます」
「何をですか? 」
「はい。大精霊様ではございませんが、お仲間の皆様にも、意思疎通の出来る精霊達が付いているのですよ」
はっ?
他の皆にも精霊が憑いて━━付いているの?
私がビックリ仰天して、言葉を失っていると、皆は自分の周りをパタパタと扇ぎ始めました。
いや、それだと、精霊さんを散らしているだけになるからね。
「み、皆さまっ。お静まり下さいっ」
ほら、ルフィーノさんが大慌てしちゃったじゃない。
ええ~っ、だって、じゃないの。
捕まえたかったのに、じゃないの。
本当、やんちゃな子達ね。
冷や汗をかいたのか、ルフィーノさんがハンカチを取り出し額を拭った。
そして、
「皆様の傍に居る精霊達は、それぞれ得意とする魔法に縁がある者達です。ですので、皆様も精霊に語り掛ける様に、魔法を発動してみて下さい」
「よし! 行く━━」
「ちょっ、お待ちをっ! 」
早速、魔法を放とうするフェオドールをルフィーノさんが取り押さえました。
「今ここで、ではありません。それこそ、冒険者として活動している時や魔物と対峙している時にお願いします」
そうりゃあそうよ。こんな場所で魔法を放ったら、森林伐採、環境破壊しちゃうわ。
ほら、皆も武器をしまいなさい。
そうアイコンタクトを送ると、渋々ですが、各々武器を収めてくれました。
本当に気が早い子達なんだから。
「しかし、ルイーズ様は落ち着いていらっしゃいますね。精霊に然程興味がなかったのでしょうか? 」
「うん? いえ。姿が見え、会話が成立するのであれば、もう少し興味を向けるけれども……見えないからね。それに、私には付いていないでしょう? 」
「そうですね……他の誰よりもマナ━━欠片を取り込んでいるにもかかわらず、意思疎通のできる精霊はいませんね」
「そうでしょう。だから、興味を持ったとて、一緒に遊べないじゃい。どうしようもないわ」
「ですが……ルイーズ様の中に不思議な力を感じるのは確かです。それが何かは見当もつきませんが……」
…………。
見当が付かなくて当然だよ。
でも、警戒しておいた方が良さそうですね。
まだ、育ちきっていないコレを知られる訳にはいきませんもの。
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