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第3章 策謀、紛争、ついでに縁談

(9)容赦のない追及

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「失礼します。お食事をお持ちしました」
「……本当にアスランが毒見をするんだな」
「当然です」
 れっきとした騎士、しかも大隊長が堂々と夕食を運んで来たのを見て、カイルは食堂の椅子に座ったまま項垂れてしまった。体調が良いらしいメリアが手順などを教える為に同行してきたらしく、カイルの様子を見て夫の後ろで苦笑する。

「カイル様。もうこの人は何を言っても聞かないので、諦めてください」
「それでは伯爵、私にメリアと同様の加護を与えてください」
「分かった……」
 アスランはきっぱり断言し、メリアは苦笑を深めながら主君を宥める。それからアスランは手早く毒見を済ませ、メリアの指示を受けながらカイルの前に料理と食器一式を揃えた。

「お待たせしました。どうぞ」
「ありがとう。いただくよ」
「お食事中にお邪魔して申し訳ありませんが、少しお話があるのでこの場に同席させていただいても構いませんか?」
 唐突な申し出にカイルは内心で驚いたものの、常に一人で食べる食事は味気ないものであり、すぐに了承の言葉を返した。

「それは構わない。一人だけ食べていて悪いが」
「お気遣いなく。後で二人で食べますので」
「……そうか」
(相変わらず、仲が良さそうで結構だな)
 夫婦で笑顔を見合わせて軽く頷き合っているのを見て、カイルは安心すると同時に少し笑いたくなった。それを抑えながら夕食を食べ始めると、近くの椅子に夫婦並んで座ったアスランが、予想もしていなかった事を言い出す。

「ところでカイル様。結婚相手の女性に何を求めますか?」
「んぐっ、ぐはっ! って、アスラン、いきなり何を!」
「カイル様、大丈夫ですか?」
「あ、ああ、大丈夫だ」
 スープを飲み損ねてむせてしまったカイルに、メリアが心配そうに声をかける。それに返事をしてから、カイルはアスランに尋ね返した。

「アスラン。まさか、ダレンになにか言われたのか?」
「ええ、まあ……。帰城もそこそこに二人揃って呼びつけられて、少々お話を伺いましたね」
(ダレンの奴、まさか兄上に変な事を言っていないよな!?)
 揃って微妙な表情になっている二人を見て、カイルは頭を抱えたくなった。するとそんなカイルの心境を知ってか知らずか、メリアとアスランが妙にしみじみとした口調で語り出す。

「『カイル様の側仕えが長い君なら、自ずと趣味嗜好を存じ上げているのでは』と尋ねられましたが、よくよく考えてみても今までそういった会話はしてこなかったと思い至りまして。側付きとしてはどうなのかと、少々反省いたしました」
「いや、別にメリアが反省しなければいけない理由はないだろう」
「『確かにそういう話は男兄弟と共有するものですから、あなただったら把握しているのでは』とも言われたが、『よからぬ遊びを教えた事も皆無だし、カイルの好みは正直分からないな』と答えました」
「趣味嗜好……、よからぬ遊びって……」
(ダレン……。本当に二人に向かって、私の知らない所で一体何を言っているんだ……)
 本当に早急にどうにかしないと、どこまでどんな風に話が広がるか分かったものではないと、カイルは内心で戦慄した。すると先程の発言について、メリアが隣の夫に視線を向けて薄く笑う。

「この機会に『よからぬ遊び』とかについて、後でじっくり聞かせて貰いたいのだけど?」
「女性の耳に軽々しく入れる内容ではないし、とっくに足を洗っているから安心してくれ」
「あら、今更遠慮なんかしなくてよいのに」
「別に遠慮なんかしていないさ」
 互いに笑顔で「うふふ」「あはは」と笑い合っている兄夫婦だったが、カイルにはお世辞にも微笑ましい光景には見えなかった。

(なんだ、この微妙な空気。一見和やかなのに、何とも言えない微妙な緊張感が張り詰めている気がするんだが)
 この場をどう収拾をつければよいのかとカイルが密かに悩み始めると、目の前の二人が急に真顔になって話を元に戻す。

「というわけで、この際色々カイル様から聞き出して欲しいと頼まれました。実は以前に好きな方がいたが立場上言い出せなかったとか、こっそり相手から想いを伝えられた事とかはなかったのでしょうか?」
「絶対に口外しませんから、私達にだけ話してくれませんか? もしかしたら私達周囲の者達が無意識のうちにカイル様の恋路を頓挫させていたり相手との橋渡しを怠ったせいで、カイル様の恋愛観を変に拗らせてしまっていたとしたら、心配で心配で夜も寝られません」
「一体ダレンは、二人に何をどう言ったんだ!?」
「ですから、色々です。メリアが随分、カイル様の将来を心配してしまいましてね」
(だめだ。曖昧に誤魔化される気配は皆無だ。ダレン……、精神的に少々不安定なメリアを丸め込んで兄上を巻き込んでくるなんて、容赦がなさすぎる)
 どう考えてもこの場を曖昧にして流す空気は皆無であり、カイルは仕方なく言葉を選びながら告げた。

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