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第2章 想定外の加護

(8)想定内の事態

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 水面下で思惑が渦巻く中、一行は旅程を問題なく進め、四日目に再び野営を行なった。前回と同様に各自が自分の役目を果たす中、夕食の支度を進めていたメリアのもとに、前回とほぼ同じ顔ぶれの騎士達がやって来る。

「やあ、食事の支度は進んでいるようだな。向こうで手が足らないようだが、大丈夫か?」
「俺達が鍋を見ていてやろうか?」
(そろそろ来る頃だと思ってはいたけどワンパターンというか、疑われるなんて夢にも思っていない残念集団なのか……。でも、カイル様を「加護詐欺王子」呼ばわりしていたあの残念王子の配下なら、ある意味納得だわね)
 内心で結構容赦の無い事を考えながらも、メリアは笑顔でその申し出を受けた。

「ありがとうございます。それでは、鍋の中身は後は煮込むだけですので、少しの間見ていて貰って宜しいでしょうか?」
「ああ、大丈夫だ。ちゃんと見ているから」
「助かります、お願いしますね」
 笑顔でその場を離れるメリアを見送ってから、男達は一昨日と同様に鍋を囲んで周囲からの視線を遮る。

「全く……。どうしてこの前の薬が効かなかったんだ」
「お前が保管法を間違えていたんじゃないのか?」
「普通に瓶に入れてあるのを渡されて、何をどう間違えるって言うんだよ!?」
「大声を出すな。周囲に怪しまれるだろうが」
「それで、予備に持たされたっていう、それは何なんだ?」
「強力な睡眠剤だと言っていたな。1~2時間で熟睡するそうだ」
 そこで一人が瓶を持っている男に、如何にも疑わしげな視線を向ける。

「なあ……、前回の薬、お前が取り違えて睡眠薬を入れたんじゃないのか? それで、実はこっちに毒がはいっているとか」
「その可能性が大だよな……。色は違うが、同じような瓶だし。ラベルとかもないし」
「そんなわけないだろ! 俺はそこまで馬鹿じゃないぞ!」
 疑われて憤慨した男を、別の仲間が宥めながら話を進めた。

「まあまあ。今日の鍋にこれを入れてみれば、はっきりするだろう。それにこれが毒だったら、わざわざ熟睡している奴を切り殺す手間が省けるしな」
「それもそうだな。さっさと済ませようぜ」
「分量を間違うなよ?」
「分かってる。こっちは3本貰ってきたから、この鍋一個につき1本で十分だ」
 そう見当をつけた男が、持っていた瓶の中身を一つの鍋に一本分ずつ入れ、まんべんなくかき混ぜる。その後、彼らは頃合いを見て戻ったメリアに愛想笑いで応じ、何事もなかったかのようにその場を離れた。




 その日の深夜。野営中でもあり、夜間も交代で警戒に当たる騎士が複数配置されていたが、彼らは悉く樹の幹や馬車の車輪などに背中を預け、地面に座って眠り込んでいた。こっそり天幕を抜け出した八人の騎士が、慎重に彼らの一人に歩み寄り、その顔に手を近づけて息をしているのを確認してから、ほくそ笑みつつ歩き出す。

「良く寝てやがるぜ。全く、手のかかる事だな」
「今回はちゃんと、睡眠薬だったみたいだな。やっぱり前回の毒は、お前が何か取り扱いを間違ったんだろう」
「はあ? ふざけんな!そんな筈、あるわけないだろ!?」
「おいおい、内輪もめはそれ位にして、さっさと片付けようぜ」
「そうだな。念のため、元王子様から片付けないとな。他の奴を殺す時の物音で目を覚まされて、万が一にも逃げられたら厄介だ」
「確かにな。俺達と同じ鍋の物を食べて、睡眠薬が聞いていない人間も何人かいるし。そいつらに邪魔される前に済ませよう」
 そんな事を言い合いながら、カイルが寝ている天幕に向かった八人だったが、唐突に背後から声をかけられた。

「君達、私を呼んだかな?」
「え?」
 反射的に振り返った六人は、その視線の先にカイルの姿を認めて驚愕した。

「お前!?」
「どうして!?」
「なんで起きてるんだよ!?」
「改めて君達と、話をしたかったものでね」
 充分な月明かりの下で穏やかに微笑むカイルに対し、すぐに虚勢を取り戻した面々は悪態を吐いた。

「はっ! 随分余裕ですね、元王子殿下!」
「俺達と一体、何の話をすると仰る?」
「一応、勧誘かな? 私の下で働く気はないかな? やる気と実力があれば、厚遇するが」
「はっ! 馬鹿馬鹿しい!」
「王族でなくなった詐欺野郎が、でかい口を叩きやがる!」
「てめえなんかの下について、なんの恩恵があるってんだ!」
「そうだな。フェロール伯爵にとっても、なんの恩恵もない。伯爵。こいつらにはやる気も実力も、微塵もありはしません。勧誘するだけ時間と労力の無駄です。それらは有限ですから、最大限有効に使いましょう」
 騎士達の背後から新たな声が割り込み、彼らは聞き覚えのある声に反射的に振り返った。そして再び、驚きの声を上げる。

「なっ!?」
「アスラン、貴様!?」
「熟睡していたんじゃなかったのか!?」
 その頃には、アスランと同様に寝たふりをしていた寝ずの番の他にも、寝ていた筈の天幕から騎士達が出て来ていた。そして慎重にカイルの周囲に警護の者を配置し、不心得者達を包囲する。

「寝たふりにも気がつかないとは、実力と迂闊さの程度が知れるというものだ。問答無用で切り殺すくらいの気構えくらいは、持っていて欲しいものだな」
「おいおい、本当の事とはいえ、物騒なことを口に出すな。そちらのお嬢さんが、げんなりした顔をしているぞ?」
「あ、いや、それは……」
 刺客である騎士達を鼻で笑ったアスランだったが、サーディンが苦笑いで会話に加わる。かれが指さした先に、いつの間にかカイルの側に控えていたメリアを認めて、アスランは閉口した。

「カイル様。全員、配置完了しました」
「ご苦労。子供達に、万が一の事があってはいけないからな」
 ダレンからの報告を受け、子供達が人質に取られる事態を避けられたのを確認したカイルは、改めて自分に対する敵意を剝き出しにしている騎士達に向き直る。その彼らに処分を言い渡そうとした瞬間、どこからともなく複数の矢が飛来した。

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