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第2章 想定外の加護

(6)ある意味無敵な加護

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「お待たせしました。すみません、すっかりお任せしてしまって」
 笑顔で頭を下げた彼女に、騎士達は笑って応じた。

「ああ、大丈夫。零れても煮詰まってもいないから」
「はい、大丈夫そうですね。ちょっと味見をしておこう」
「おい!?」
「はい、何か?」
 鍋の中身を確認したメリアは、傍らに置いておいたスプーンを取り上げ、中身をすくい取ろうとした。それを見て騎士の一人が顔色を変え、反射的に声を上げてしまう。仲間に腕をつつかれ、遅効性の毒だからここで味見をされても大丈夫だと思い返した彼は、不思議そうに問い返してきたメリアに慌て気味に謝罪した。

「あ、いや、なんでもない。ちょっと思い出したことがあってな。大きな声を出して、驚かせてすまない。気にしないでくれ」
「大丈夫です。……うん、大丈夫。これも……、全部問題ないわね。よし、配る準備をしよう」
 メリアが手早く全ての鍋の味見をし終えた所で、少女達が木製のスープ皿とスプーンを重ねて持ってくる。

「メリアお姉ちゃん、お皿持ってきた!」
「ありがとう、助かるわ」
 そこでメリアは、騎士達に向き直って声をかけた。

「それでは皆様。スープをよそいますので、先に食べ始めてください。向こうにパンとお肉の準備も準備してありますので」
「そうか? 悪いな」
「いえ、お手伝いして頂いたのですから、お気になさらずどうぞ」
 愛想笑いをしながら、メリアは彼らにスープを渡した。それを受け取った彼らは、歩きながら囁き合う。

「いきなり大声出しやがって。さっきは肝を冷やしたぞ」
「すまない。遅効性の毒だというのを、一瞬忘れていて。味見をしてここで死なれたら拙いと、咄嗟に声が出てしまった」
「あの女が怪しまなくて良かったな。しかし、思ったより楽に片付きそうだ」
「全くだ。王宮への報告は、森で採ったキノコの中に毒キノコが混入していて、それが入った鍋のスープを飲んだ者は中毒症状で全員死亡。幸いな事に、俺達が食べた鍋には毒キノコは入っておらず、無事に帰還って筋書きだな」
「完璧だな。さっさと死体の処理を済ませて、王都に戻ろうぜ」
 そんな物騒な内容を上機嫌に話しながら、彼らはパンと肉も確保して簡素な夕食を食べ始めた。



 全員が食事を済ませ、近くの泉から汲み置きした水で食器を洗っていたメリアの所に、シーラが寄って来て声をかけた。

「メリア、リーンから連絡事項」
「何?」
「例の騎士さん達、やっぱり毒を盛ってくれたわよ」
 笑いを堪える口調で囁いた後は、シーラも洗い物を手伝い始めた。それを聞いたメリアは間違っても怖がったりはせず、呆れ顔で応じる。

「やっぱり? 野営一回目だから様子をみるかと思ったのに、本当に堪え性が無いわね。予想はしていたけど」
「あのランドルフの下にいる連中だし、深謀遠慮なんて言葉の意味を知らないんじゃないの?」
「普段、他の連中を見下しているのに、猫なで声で食事の支度を手伝うなんて言ってくるからバレバレよ。因みに、どんな毒かまで分かる?」
「遅効性で、この時間に摂取すれば、寝ている間にあの世行きだそうよ」
「それなら、今夜は安心して眠れそうね。死んだふりもしなくて済みそうだわ」
「どちらにしても、私達って最強だしね」
 くすくすと笑いを零したシーラを、メリアは若干冷ややかな目で見つめた。

「シーラ……。あなたの場合は起きている時、かつ前方から襲われた場合限定で無敵なんですからね? 寝ている間にざっくりやられたら、確実にあの世行きよ。そこの所、忘れていないでしょうね?」
 すこぶる真顔での指摘に、さすがにシーラも神妙に頭を下げる。
 
「重々気をつけます……」
「よろしい。因みにカイル様や皆には、リーンから知らせているのね?」
「ええ。アスランさんを含めて、他の騎士さん達には伝えていないけど。リーンの加護について、軽々しく口にするわけにはいかないものね」
「それは当然だけど……。このまま領地まで、連中を連れていくつもりではないわよね? カイル様はどうするつもりなのかしら?」
「う~ん、どのみち領地に着くまでには、結果が出るんじゃない?」
「そうね。カイル様の判断に従いましょう」
 そこでは内緒話を終わらせてから、二人は作業に没頭していった。





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