15 / 93
第1章 幸運か不運か、それは神のみぞ知る
(14)某殿下の加護についての考察
しおりを挟む
「例のくそ生意気で品性のかけらも無い、アスラン様には異母弟、カイル様には異母兄に当たられるランドルフ殿下の加護についてですが」
「シーラ、言い方」
「あのお馬鹿野郎の加護が、《相手の動きがゆっくり見えて、通常より素早く動ける》だと聞いていますけど、本当ですか?」
「あなた本当に、他人《ひと》の話を聞かないわね」
メリアが突っ込みを入れるも、シーラは平然と話し続ける。それにカイルは、苦々しい顔つきで肯定した。
「ああ、その通りだな。実際にこれまで城内の鍛錬場で何度も遭遇して、有無を言わさず手合わせの相手をさせられたが、毎回負けている」
「そんなに素早く動くんですか?」
「ああ。踏み込んでも、次の動きを読まれるというか、あっさり避けられる。他の騎士達も同様だった」
「そうなのか? 俺が訓練のために鍛錬場に出向いても、ランドルフと顔を合わせたのは皆無だが」
ここでアスランが、不思議そうに会話に割り込んできた。それにカイルが、怒りを内包した声で応じる。
「あいつは元々、真面目に訓練なんかしていません。自分の加護が判明してから、面白半分に周囲に喧嘩をふっかけてはやり込めて、満足していた奴ですからね。十五、六歳までは鍛錬場に出向いていましたが、最近は憂さ晴らしに誰かを叩きのめしたい時しか出向いていませんよ。最近は演習や遠征で城外に出ることが多い兄上とは、さらに遭遇する確率が低くなっている筈です」
そこでシーラが、独り言のように言い出す。
「ということは、当時十五、六歳のランドルフ殿下が、十二、三歳のカイル殿下を、騎士達の面前で面白半分に叩きのめしていたってわけですか。やっぱりろくでもないわ」
「……そうなのか?」
「…………」
今まで知らなかった事実を告げられたアスランは、一気に顔つきを険しくしてカイルとメリアを凝視する。対する二人はさすがに真正面から彼の怒りを含んだ視線を受け止められず、揃って視線を逸らした。しかしシーラはびくともせず、平然と質問を続ける。
「それでその頃、私はまだ城勤めをしていなかったので、本当のところは分かりませんが、本当に素早く動けたのかなと思いまして」
「動いていたぞ?」
「十五、六歳の、ど素人に毛が生えた程度の、ヘナチョコ騎士とは比べ物にならない程度にですか?」
「シーラ。言っている意味が、良く分からないが……」
何を問題にしているのかが今一つ理解できず、カイルは怪訝な顔になった。そこでシーラは、質問の相手を変えてくる。
「う~ん、カイル様は当事者だし、かえって判断しにくいのかも。それじゃあメリアは当時からカイル様についていたし、実際にその立ち会いを見たことがあるわよね?」
その問いかけに、これ以上アスランを刺激したくないメリアが、不承不承頷く。
「それはまあ、何回かあるけど……」
「それなら、第三者の立場から見たままを教えて。当時、ランドルフ殿下の動きってどうだった? カイル様の動きと比べて早かった? 十五、六歳の少年の動きにしては早かった? 他の熟練の騎士達の動きと比べて早かった? それともそれよりも早くて、動きが目に止まらないくらい、超人的な動きだった?」
「…………」
カイルとアスランは呆気に取られながら、矢継ぎ早に問いを重ねるシーラを眺めた。そして普段の付き合いと、シーラの顔つきから何やら悟ったらしいメリアが、真顔で告げる。
「あなたの言いたいことと聞きたいことが、なんとなく分かってきたわ。今、思い出すから、ちょっと待ってて」
そう断りを入れると同時に黙考したメリダは、何分かしてからきっぱりと断言した。
「確かに当時のランドルフ殿下は、かなり素早く動いていたわ。でも、動きが見えないってほどではなかったし、熟練の騎士の動きと比べても、目立って速かったとは言い切れないと思う」
それを聞いたシーラは、我が意を得たりという様子で頷く。
「そうじゃないかなと思っていたのよね。だからあの王子の加護は、誰もが敵わない程度に速く動けるって加護じゃなくて、自分の元々の動きより何割か速く動けるってだけだと思うの」
「でもシーラ。カイル様はランドルフ殿下より年下で、元々体格や体力が劣っているから当時敵わなかったにしても、ランドルフ殿下より年長のれっきとした近衛騎士が打ち負けていたわよ?」
その反論にも、シーラは余裕で返す。
「それはある意味当然よ。だって相手は、腐っても王子様なのよ? 怪我させるなんてもってのほかだし、派手に負かしたりしたら不興を買って近衛騎士としての将来が潰れかねないじゃない。それよりは派手に負けて歓心を買って、お気に入りの座を得た方が遥かに良いわよ。負けたって『加護持ち王子に負けたのだから仕方がない』という、万人が納得できる言い訳ができるしね」
「それじゃあ、あの負けていた人達は、全員わざと負けていたの?」
「確かにそういう人は多かったと思うけど、『相手が加護持ちなんだから敵うはずがない』と思い込んで、実力を発揮しないまま対戦が終わった人も結構いるんじゃないかしら?」
「言われてみれば、確かにそんな感じもあったかも……」
「だから、自分の加護と実力を過信して、この何年かまともに鍛錬をしていないグータラ王子に、同じ年月をひたすら真面目に鍛錬してきたカイル殿下が、負けるはずないじゃない。それなのに周囲が揃いも揃って、『初戦の相手がランドルフ殿下なんてお気の毒に』的な沈鬱な空気を醸し出しているのが、ものすごくムカつくんだけど」
いきなりそんな結論と非難を繰り出してきた同僚に、メリアは瞬時に顔色を変えて反論した。
「シーラ、言い方」
「あのお馬鹿野郎の加護が、《相手の動きがゆっくり見えて、通常より素早く動ける》だと聞いていますけど、本当ですか?」
「あなた本当に、他人《ひと》の話を聞かないわね」
メリアが突っ込みを入れるも、シーラは平然と話し続ける。それにカイルは、苦々しい顔つきで肯定した。
「ああ、その通りだな。実際にこれまで城内の鍛錬場で何度も遭遇して、有無を言わさず手合わせの相手をさせられたが、毎回負けている」
「そんなに素早く動くんですか?」
「ああ。踏み込んでも、次の動きを読まれるというか、あっさり避けられる。他の騎士達も同様だった」
「そうなのか? 俺が訓練のために鍛錬場に出向いても、ランドルフと顔を合わせたのは皆無だが」
ここでアスランが、不思議そうに会話に割り込んできた。それにカイルが、怒りを内包した声で応じる。
「あいつは元々、真面目に訓練なんかしていません。自分の加護が判明してから、面白半分に周囲に喧嘩をふっかけてはやり込めて、満足していた奴ですからね。十五、六歳までは鍛錬場に出向いていましたが、最近は憂さ晴らしに誰かを叩きのめしたい時しか出向いていませんよ。最近は演習や遠征で城外に出ることが多い兄上とは、さらに遭遇する確率が低くなっている筈です」
そこでシーラが、独り言のように言い出す。
「ということは、当時十五、六歳のランドルフ殿下が、十二、三歳のカイル殿下を、騎士達の面前で面白半分に叩きのめしていたってわけですか。やっぱりろくでもないわ」
「……そうなのか?」
「…………」
今まで知らなかった事実を告げられたアスランは、一気に顔つきを険しくしてカイルとメリアを凝視する。対する二人はさすがに真正面から彼の怒りを含んだ視線を受け止められず、揃って視線を逸らした。しかしシーラはびくともせず、平然と質問を続ける。
「それでその頃、私はまだ城勤めをしていなかったので、本当のところは分かりませんが、本当に素早く動けたのかなと思いまして」
「動いていたぞ?」
「十五、六歳の、ど素人に毛が生えた程度の、ヘナチョコ騎士とは比べ物にならない程度にですか?」
「シーラ。言っている意味が、良く分からないが……」
何を問題にしているのかが今一つ理解できず、カイルは怪訝な顔になった。そこでシーラは、質問の相手を変えてくる。
「う~ん、カイル様は当事者だし、かえって判断しにくいのかも。それじゃあメリアは当時からカイル様についていたし、実際にその立ち会いを見たことがあるわよね?」
その問いかけに、これ以上アスランを刺激したくないメリアが、不承不承頷く。
「それはまあ、何回かあるけど……」
「それなら、第三者の立場から見たままを教えて。当時、ランドルフ殿下の動きってどうだった? カイル様の動きと比べて早かった? 十五、六歳の少年の動きにしては早かった? 他の熟練の騎士達の動きと比べて早かった? それともそれよりも早くて、動きが目に止まらないくらい、超人的な動きだった?」
「…………」
カイルとアスランは呆気に取られながら、矢継ぎ早に問いを重ねるシーラを眺めた。そして普段の付き合いと、シーラの顔つきから何やら悟ったらしいメリアが、真顔で告げる。
「あなたの言いたいことと聞きたいことが、なんとなく分かってきたわ。今、思い出すから、ちょっと待ってて」
そう断りを入れると同時に黙考したメリダは、何分かしてからきっぱりと断言した。
「確かに当時のランドルフ殿下は、かなり素早く動いていたわ。でも、動きが見えないってほどではなかったし、熟練の騎士の動きと比べても、目立って速かったとは言い切れないと思う」
それを聞いたシーラは、我が意を得たりという様子で頷く。
「そうじゃないかなと思っていたのよね。だからあの王子の加護は、誰もが敵わない程度に速く動けるって加護じゃなくて、自分の元々の動きより何割か速く動けるってだけだと思うの」
「でもシーラ。カイル様はランドルフ殿下より年下で、元々体格や体力が劣っているから当時敵わなかったにしても、ランドルフ殿下より年長のれっきとした近衛騎士が打ち負けていたわよ?」
その反論にも、シーラは余裕で返す。
「それはある意味当然よ。だって相手は、腐っても王子様なのよ? 怪我させるなんてもってのほかだし、派手に負かしたりしたら不興を買って近衛騎士としての将来が潰れかねないじゃない。それよりは派手に負けて歓心を買って、お気に入りの座を得た方が遥かに良いわよ。負けたって『加護持ち王子に負けたのだから仕方がない』という、万人が納得できる言い訳ができるしね」
「それじゃあ、あの負けていた人達は、全員わざと負けていたの?」
「確かにそういう人は多かったと思うけど、『相手が加護持ちなんだから敵うはずがない』と思い込んで、実力を発揮しないまま対戦が終わった人も結構いるんじゃないかしら?」
「言われてみれば、確かにそんな感じもあったかも……」
「だから、自分の加護と実力を過信して、この何年かまともに鍛錬をしていないグータラ王子に、同じ年月をひたすら真面目に鍛錬してきたカイル殿下が、負けるはずないじゃない。それなのに周囲が揃いも揃って、『初戦の相手がランドルフ殿下なんてお気の毒に』的な沈鬱な空気を醸し出しているのが、ものすごくムカつくんだけど」
いきなりそんな結論と非難を繰り出してきた同僚に、メリアは瞬時に顔色を変えて反論した。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる