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第1章 幸運か不運か、それは神のみぞ知る

(7)兄弟の再会

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 建国記念祝賀会が近づいて城内外が浮き立つ中、国境沿いに派遣されていた近衛軍の一団が城郭内に帰還した。
 一番外側の大門から入ってすぐのかなりの広さの場所に、騎馬や荷馬車などが勢揃いして点呼を取っている中、カイルは人込みを掻き分けて一人の指揮官に歩み寄る。

「お帰りなさい。ご苦労様でした、アスラン兄上」
「カイル? ああ、今戻った。」
「カイル様、御無沙汰しております。アスラン様、また後でご報告します」
 その声に、部下達と話していたアスランは、驚いて振り返った。それと同時に、兄弟の話を邪魔しては悪いと判断した部下達が、小さく断りを入れてその場を離れる。

「どうした、こんな所に来るなんて」
「『どうした』はないでしょう。紛争解決の立役者を出迎えるのは、当然ではありませんか」
 カイルとしては真っ当なことを口にしたつもりだったのだが、アスランはそれに苦笑で応じた。

「そんな事を考えるのはお前くらいだ。相変わらず真面目だな」
「真面目とか不真面目とか、そういう問題ではないと思いますが……」
(本当に、主だった面々が帰還した騎士達の出迎えもしないなんて、どういう事だ。何かにつけて勿体ぶって、国王としての面子にこだわる父上や、多忙を極める宰相はともかく、大した役職でなくて暇を持て余している連中は幾らでもいるだろうが! あいつらがのうのうと過ごせているのは、宰相を筆頭とする優秀な文官達や、兄上を筆頭とする武官達の働きのおかげなのに!)
 ここまで出向いている王族が自分だけという事実に、カイルは歯噛みする思いだった。しかしアスランが、笑いながら話題を変えてくる。

「ところで、カイルは今年成年だったな。おめでとう。下手をすると成年祝賀行事に間に合わないかと思っていたから、予想より早く事が済んで良かった」
「あ、はい。ありがとうございます。ですが」
「聞いた。建国記念祝賀会内で、一緒に開催するらしいな。なにも、いかにもついでのようにしなくても良いだろうに……」
 苦々しげにアスランが口にしたのを見て、自分のせいで異母兄を不快にさせてしまったことにカイルは恐縮した。しかしここで、とんでもない事実に気がつく。

「ちょっと待ってください。出発前にはそんな話は出ていませんでしたから、まさか兄上が戦闘中の前線に、そんな知らせが届いたのですか?」
 愕然としながらカイルが尋ねたが、返ってきた答えは辛辣なものだった。

「ああ、真っ最中に届いたな。武術大会とかにも参加するように書かれていたぞ」
「本当ですか……」
「膠着している前線をさっさと蹴散らして帰って来いという嫌味だろうから、さっさと蹴散らして帰って来たがな」
「本当にお疲れさまでした……。心中、お察しします」
「手紙を持ってきたしたり顔の使者を縛り上げて、最前線に放置してやろうかと思ったが、部下達がさっさと無傷で帰してな。優秀だが、こういう時に融通の利かない奴らで困る。素知らぬふりをしていれば良いものを」
「兄上の部下は、上官の立場を慮るすこぶる優秀な方々です……」
(戦闘の真っ最中に、なんて能天気な指示を……。兄上を、本気で怒らせたとみえる。そんな所にノコノコ出向いた使者が五体満足で帰れたのは、兄上の部下達が人格者揃いだったからだぞ? 絶対に分かっていないと思うが)
 あまりの非常識さに、カイルは何も言えなくなって項垂れた。するとアスランが、気づかわしげな視線を向けてくる。

「その……、武術大会に、カイルも参加するそうだが……」
 どう考えても異母兄のランドルフが、自分を引き立て役にするために引っ張り出したと分かっているカイルは、苦笑いで応じた。

「そんな事まで書いてありましたか。ええ、他にも参加者はいますが」
「お互いに、面倒なことだな。それと……、メリアは元気にしていたか?」
 いきなり話題が変わった上、なぜ異母兄が自分つきの侍女について尋ねてくるのか分からなかったカイルは、本気で面食らった。

「はい? メリアですか? 変わらず元気ですが」
「そうか……。それなら良かった」
「兄上? メリアがどうかしましたか?」
「うん? 大したことはない。彼女も、何も言っていないだろうし」
「言ってないって、何をですか?」
 どこか寂しげに語るアスランに、カイルは益々訳が分からなくなって首を傾げる。するとアスランは怖いくらい真剣な顔つきで、カイルの肩を掴みながら語りかけてきた。

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