3 / 93
第1章 幸運か不運か、それは神のみぞ知る
(2)蔑称
しおりを挟む
「さあ、カイル殿下。ご遠慮なく」
「ありがとうございます。神官長」
もはや気持ち悪いレベルの愛想笑いに、カイルは自分の自制心を総動員して礼を述べた。そして背が伸びた自分には低すぎる位置の宝珠の前に片膝をついて、傍目には宝珠と女神像を恭しく見上げる。
(大神殿の設立当初から、宝珠は低い台座に置かれたままだ。幼い子供も加護持ちの判定をするから、敢えて低い位置に設置したと公には伝わっているが、国王や王族でも加護持ちの証には宝珠と女神像に向かって跪いて拝礼するから、その姿を見たいがために初期の神官達がそう仕向けたんじゃないのか?)
そんな事を考えながら、カイルは無言のまま宝珠に両手を伸ばして触れた。それと同時に宝珠全体がまばゆい白光を発し、場内の明るさが一気に増す。
(馬鹿馬鹿しい、茶番の最たるものだな)
もう何十回目になるか分からない行為の繰り返しに、カイルの目は冷め切っていた。
「うおおおっ! なんと素晴らしい宝珠の光り方であろうか!」
「他の誰にも、宝珠をこのように光らせることはできませんぞ!」
「いやはや、こんな素晴らしい加護持ちであられるカイル殿下がおられるなら、この国は安泰です」
「誠に、結構な事ですな!」
いかにもわざとらしく、嫌味を含んだ褒め言葉を神官達が声高に口にする。その一方で、その場に居合わせた参拝者達が、顔を見合わせて囁き合った。
「なぁ……、カイル殿下って、あれだろう? 子供の頃に加護持ちの判定が出ているけど、何年たっても何の加護を得ているのか分からないままの」
「ああ、一部の口の悪い連中の間では、『加護詐欺王子』って陰口を叩かれているらしいな」
「王妃様がお産みになった加護持ちの王子なら、普通ならそれだけで王太子候補筆頭なのに、未だにどんな加護をお持ちなのか不明だから、立太子されていないそうよ」
「それどころか、王妃様に相当嫌われているみたいね。カイル殿下に見切りをつけて、加護が発現した弟君を王太子にするのに血道を上げているとか」
「それで未だに加護がなにか分かっていない、兄貴が目障りってことか?」
「それはちょっと酷くないか? 王子の責任じゃないし、王妃様の実の子供なんだろう?」
「だけど王妃様の気持ちも、分からないでもないわ。加護持ちとして期待をかけた我が子が、何年たっても役立たずなんて。最初から加護無しだった方が、諦めもつくのじゃない?」
好き勝手に言い合う者達の囁きが、全てではないものの漏れ聞こえてくる。自分より後方にいる側近が暴発したりしないかと、カイルはゆっくりと立ち上がって振り返りながら、さり気なく彼に目を向けた。
(そろそろ本気で、リーンの自制心が心配になってきたな。これだけ派手に光らせて周囲の好奇心の視線を浴びれば、神官長達も満足するだろう)
これ以上の長居は無用だと判断したカイルは、完璧な笑顔を作って神官長に声をかけた。
「それでは神官長。女神様への祈りも済んだし、これで失礼する」
いつも通りカイルに嫌がらせを行ない、これ以上は無理に引き留めるつもりもなかった神官長は、全く悪びれない様子で頷く。
「もう少しごゆるりとされても宜しいのですが、お忙しい殿下をお引き留めしては申し訳ありませんな。また来月お会いできるのを、楽しみにしております」
「ああ、また来るよ」
それからは他愛のない世間話をしながら彼らは神殿内を移動し、何事もなかったようにカイル達は馬車に乗り込んで大神殿を後にした。
「ありがとうございます。神官長」
もはや気持ち悪いレベルの愛想笑いに、カイルは自分の自制心を総動員して礼を述べた。そして背が伸びた自分には低すぎる位置の宝珠の前に片膝をついて、傍目には宝珠と女神像を恭しく見上げる。
(大神殿の設立当初から、宝珠は低い台座に置かれたままだ。幼い子供も加護持ちの判定をするから、敢えて低い位置に設置したと公には伝わっているが、国王や王族でも加護持ちの証には宝珠と女神像に向かって跪いて拝礼するから、その姿を見たいがために初期の神官達がそう仕向けたんじゃないのか?)
そんな事を考えながら、カイルは無言のまま宝珠に両手を伸ばして触れた。それと同時に宝珠全体がまばゆい白光を発し、場内の明るさが一気に増す。
(馬鹿馬鹿しい、茶番の最たるものだな)
もう何十回目になるか分からない行為の繰り返しに、カイルの目は冷め切っていた。
「うおおおっ! なんと素晴らしい宝珠の光り方であろうか!」
「他の誰にも、宝珠をこのように光らせることはできませんぞ!」
「いやはや、こんな素晴らしい加護持ちであられるカイル殿下がおられるなら、この国は安泰です」
「誠に、結構な事ですな!」
いかにもわざとらしく、嫌味を含んだ褒め言葉を神官達が声高に口にする。その一方で、その場に居合わせた参拝者達が、顔を見合わせて囁き合った。
「なぁ……、カイル殿下って、あれだろう? 子供の頃に加護持ちの判定が出ているけど、何年たっても何の加護を得ているのか分からないままの」
「ああ、一部の口の悪い連中の間では、『加護詐欺王子』って陰口を叩かれているらしいな」
「王妃様がお産みになった加護持ちの王子なら、普通ならそれだけで王太子候補筆頭なのに、未だにどんな加護をお持ちなのか不明だから、立太子されていないそうよ」
「それどころか、王妃様に相当嫌われているみたいね。カイル殿下に見切りをつけて、加護が発現した弟君を王太子にするのに血道を上げているとか」
「それで未だに加護がなにか分かっていない、兄貴が目障りってことか?」
「それはちょっと酷くないか? 王子の責任じゃないし、王妃様の実の子供なんだろう?」
「だけど王妃様の気持ちも、分からないでもないわ。加護持ちとして期待をかけた我が子が、何年たっても役立たずなんて。最初から加護無しだった方が、諦めもつくのじゃない?」
好き勝手に言い合う者達の囁きが、全てではないものの漏れ聞こえてくる。自分より後方にいる側近が暴発したりしないかと、カイルはゆっくりと立ち上がって振り返りながら、さり気なく彼に目を向けた。
(そろそろ本気で、リーンの自制心が心配になってきたな。これだけ派手に光らせて周囲の好奇心の視線を浴びれば、神官長達も満足するだろう)
これ以上の長居は無用だと判断したカイルは、完璧な笑顔を作って神官長に声をかけた。
「それでは神官長。女神様への祈りも済んだし、これで失礼する」
いつも通りカイルに嫌がらせを行ない、これ以上は無理に引き留めるつもりもなかった神官長は、全く悪びれない様子で頷く。
「もう少しごゆるりとされても宜しいのですが、お忙しい殿下をお引き留めしては申し訳ありませんな。また来月お会いできるのを、楽しみにしております」
「ああ、また来るよ」
それからは他愛のない世間話をしながら彼らは神殿内を移動し、何事もなかったようにカイル達は馬車に乗り込んで大神殿を後にした。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
愛しいあなたが、婚約破棄を望むなら、私は喜んで受け入れます。不幸せになっても、恨まないでくださいね?
珠宮さくら
ファンタジー
妖精王の孫娘のクリティアは、美しいモノをこよなく愛する妖精。両親の死で心が一度壊れかけてしまい暴走しかけたことが、きっかけで先祖返りして加護の力が、他の妖精よりとても強くなっている。彼女の困ったところは、婚約者となる者に加護を与えすぎてしまうことだ。
そんなこと知らない婚約者のアキントスは、それまで尽くしていたクリティアを捨てて、家柄のいいアンテリナと婚約したいと一方的に破棄をする。
愛している者の望みが破棄を望むならと喜んで別れて、自国へと帰り妖精らしく暮らすことになる。
アキントスは、すっかり加護を失くして、昔の冴えない男へと戻り、何もかもが上手くいかなくなり、不幸へとまっしぐらに突き進んでいく。
※全5話。予約投稿済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる