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第1章 幸運か不運か、それは神のみぞ知る

(2)蔑称

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「さあ、カイル殿下。ご遠慮なく」
「ありがとうございます。神官長」
 もはや気持ち悪いレベルの愛想笑いに、カイルは自分の自制心を総動員して礼を述べた。そして背が伸びた自分には低すぎる位置の宝珠の前に片膝をついて、傍目には宝珠と女神像を恭しく見上げる。

(大神殿の設立当初から、宝珠は低い台座に置かれたままだ。幼い子供も加護持ちの判定をするから、敢えて低い位置に設置したと公には伝わっているが、国王や王族でも加護持ちの証には宝珠と女神像に向かって跪いて拝礼するから、その姿を見たいがために初期の神官達がそう仕向けたんじゃないのか?)
 そんな事を考えながら、カイルは無言のまま宝珠に両手を伸ばして触れた。それと同時に宝珠全体がまばゆい白光を発し、場内の明るさが一気に増す。

(馬鹿馬鹿しい、茶番の最たるものだな)
 もう何十回目になるか分からない行為の繰り返しに、カイルの目は冷め切っていた。

「うおおおっ! なんと素晴らしい宝珠の光り方であろうか!」
「他の誰にも、宝珠をこのように光らせることはできませんぞ!」
「いやはや、こんな素晴らしい加護持ちであられるカイル殿下がおられるなら、この国は安泰です」
「誠に、結構な事ですな!」
 いかにもわざとらしく、嫌味を含んだ褒め言葉を神官達が声高に口にする。その一方で、その場に居合わせた参拝者達が、顔を見合わせて囁き合った。

「なぁ……、カイル殿下って、あれだろう? 子供の頃に加護持ちの判定が出ているけど、何年たっても何の加護を得ているのか分からないままの」
「ああ、一部の口の悪い連中の間では、『加護詐欺王子』って陰口を叩かれているらしいな」
「王妃様がお産みになった加護持ちの王子なら、普通ならそれだけで王太子候補筆頭なのに、未だにどんな加護をお持ちなのか不明だから、立太子されていないそうよ」
「それどころか、王妃様に相当嫌われているみたいね。カイル殿下に見切りをつけて、加護が発現した弟君を王太子にするのに血道を上げているとか」
「それで未だに加護がなにか分かっていない、兄貴が目障りってことか?」
「それはちょっと酷くないか? 王子の責任じゃないし、王妃様の実の子供なんだろう?」
「だけど王妃様の気持ちも、分からないでもないわ。加護持ちとして期待をかけた我が子が、何年たっても役立たずなんて。最初から加護無しだった方が、諦めもつくのじゃない?」
 好き勝手に言い合う者達の囁きが、全てではないものの漏れ聞こえてくる。自分より後方にいる側近が暴発したりしないかと、カイルはゆっくりと立ち上がって振り返りながら、さり気なく彼に目を向けた。

(そろそろ本気で、リーンの自制心が心配になってきたな。これだけ派手に光らせて周囲の好奇心の視線を浴びれば、神官長達も満足するだろう)
 これ以上の長居は無用だと判断したカイルは、完璧な笑顔を作って神官長に声をかけた。

「それでは神官長。女神様への祈りも済んだし、これで失礼する」
 いつも通りカイルに嫌がらせを行ない、これ以上は無理に引き留めるつもりもなかった神官長は、全く悪びれない様子で頷く。

「もう少しごゆるりとされても宜しいのですが、お忙しい殿下をお引き留めしては申し訳ありませんな。また来月お会いできるのを、楽しみにしております」
「ああ、また来るよ」
 それからは他愛のない世間話をしながら彼らは神殿内を移動し、何事もなかったようにカイル達は馬車に乗り込んで大神殿を後にした。





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