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第581話 開幕!もふアニ建国開港祭!

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 朝の光が村に降り注ぎ、鳥たちのさえずりが清々しい空気に花を添える。
 今日は待ちに待ったお祭りの日。その名も、もふもふアニマルキングダム建国記念並びに、コット村埠頭完成記念祭。略して、もふアニ建国開港祭だ。
 最早記念なら何でもアリな気はするが、とにかく村は早朝から活気に満ちていた。
 夜明け前から並び始めた屋台には、職人たちが自らの品を並べ、何処からか漂ってくる焼きたてパンの香りは、食欲をこれでもかと刺激する。
 食堂の外に鬼のように積まれた酒樽は、まるで見本市かのよう。行き交う人々の視線を誘惑し、勿論その中には俺も含まれている。

「あれが、夜まで残ってるといいが……」

「レベッカに言って、取っておいてもらえばいいじゃない」

「それで、客の分まで無くなったら困るだろう?」

「あれだけあるなら、流石になくならないでしょ? イレースの店でも相当量を仕入れてるって言ってたわよ?」

 祭りと同時に、イレースの酒場サーペンタイン・ガーデンもプレオープン。
 本日に限り、無料で料理や酒を振舞うことになってはいるが、そっちはあまり当てにはできそうにない。

「シャーリー……忘れたのか? 海賊達のあの豪快な飲みっぷりを……」

「あー……そう言えば、そんなこともあったわね……」

 引きつった笑みを浮かべているところを見ると、どうやらシャーリーも思い出したらしい。
 シーサーペント海賊団と白い悪魔。その騒動を終え、4番島と呼ばれる秘密の無人島で開催された精進落としでの出来事だ。
 まぁ、ぶっちゃけると打ち上げに近い宴会ではあったが、海賊たちの豪快な飲みっぷりは、数えきれないほどの酒樽をカラにした実績がある。
 結局は、仲間内で消費してしまうのではないだろうか?

「で……でもまぁ、物流が滞らなくて良かったわね。マイルズ商会には感謝しないと……」

「まったくだ。ウォルコットさんとアントニオさんには、頭が上がらんよ……」

 コット村との取引を全面禁止とする――という内容の新たな規制がスタッグ王宮から告示され、経済的損失は免れないと思っていた矢先、リリーを受け入れたことにより懇意にしていたマイルズ商会がこちら側に寝返った。
 と言っても、スタッグでの商売を諦めるわけではなく、マイルズ商会とは別の組織を立ち上げることで、王宮の目を欺こうという魂胆らしい。
 そちらではスタッグとの取引はせず、コット村~サザンゲイア間の海路を中心とした物流に重きを置くとのこと。
 要は、リスク分散のための分社化だ。新たに作った子会社はアントニオに任せ、今後コット村はそちらと取引することで合意した。

「量より質……なんて言ったら怒られるかもしれんが、リリー様の周りは優秀な人材が豊富だな……」

「何それ? ひょっとして、その中に自分も入れちゃったりしちゃってる?」

 もちろん、そんなつもりは全くない。

「はぁ……。俺がそんな自信家に見えるか?」

「ぜーんぜん。でも、最近はちょっと楽しそうかも……」

「はぁ? 俺が現状を楽しんでいる……と?」

「楽しそうはちょっと語弊があるかもだけど、イキイキしてるというか……。頑張ってるお父さん――みたいな感じ?」

 思い当たる節はある。
 あくまで護衛のつもりでも、ミアにリリー、更にはキャロを加えて俺を囲めば、知らぬ者からどう見られているのかは想像に難くない。

「それは、俺が老けて見える事への当て付けか?」

「違うってば! 一応褒めてるつもりなのッ!」

 いや、わかってはいたが照れ隠しというヤツだ。そうじゃなければ、恥ずかしいのは俺である。
 シャーリーだって恐らくそうだろう。もっと素直に褒めてくれればいいものを……。

 村の西門に辿り着くと、城壁に登り深呼吸。お仕事モードにスイッチを切り替える。
 今日の俺の任務は、王都からくるであろう使者を迎え入れること。所謂案内係である。
 リリーの建国宣言は正午過ぎの予定。それまで俺が、直接おもてなしをしてやろうというのだ。
 その内容は相手によって変わるのだが、まずは軍事力のアピールにと俺の周りに従魔達を侍らせる。
 カガリと白狐はミアとリリーの護衛の為、それ以外のほぼすべて。
 そのおかげでコット村の西門は、今だけ難攻不落の城壁と化していた。
 ズラリと並んだデスナイト。ワダツミは俺を、コクセイはシャーリーを乗せ周囲に目を光らせる。
 その下には、暇そうにしながらも城壁に背中を擦りつける巨大な熊。そんなカイエンよりも大きいファフナーは、城壁の裏側で待機しているにも拘らず、外からでも丸見えだ。
 祭り目的にと訪れた者も、その物々しさに一瞬足を止めてしまうほど。

「どうだ? そろそろか?」

「うーむ……。これといった匂いも気配も感じぬな……」

 コクセイが天を仰ぎ、鼻をヒクヒクとさせるも微妙な表情。
 王都からの使者を待ち続けて1時間程。一応、斥候としてピーちゃんに様子を見に行ってもらってはいるが、その姿は未だ見えず。

「まぁ、仕方ない。馬車だからな……」

 電車と違って、到着時刻が定まらないのは当然のこと。雨が降れば地面は泥濘、馬の機嫌もあるだろう。
 今更それに、目くじらなど立てはしない。逆にアナログ世界の良い所だとおおらかな気持ちでいられるくらいには、もう慣れた。


 そして更に1時間。俺の周りは子供だらけ。その目的はコクセイ、ワダツミを含めた魔獣達。
 村の子供達の遊び相手でもある彼等を、俺が独占している現状に、痺れを切らして城壁の上まで遊びに来てしまったのだ。
 笑顔を絶やさず走り回る子供達を前に、威厳も何もあったもんじゃない。今、使者にこんな姿を見られるのは非常に困る。
 最終的にはシャーリーが親を呼びに行ったことで事なきを得たが、子供を迎えに来た親たちも、いつもとは違う少々豪華な装いに浮かれた様子を隠せてはいなかった。


「いくら何でも遅すぎない?」

「そうだな……」

 そして更に1時間。流石のシャーリーも手持無沙汰感は否めない。
 暇だから祭りに行ってきていい? なんて言い出さないだけありがたいが、腹を出し昼寝を始めたカイエンの上で寝そべる姿は、警備を担う者とは思えないサボりっぷり。
 呼吸で上下するもふもふのクッションは、俺でも少し羨ましいと思うほど。
 とは言え、そろそろ我慢の限界。まだ慌てるような時間ではないが、演説中に来て邪魔をされても困る。

「仕方ない。ファフナー、ちょっと迎えに行ってやってくれ……」

「良いのか? 少々手荒になるが……」

「どうせ敵対するんだ。今更その程度、気にしないさ。ついでだから、うんとビビらせてやれ。高山病にならない程度にな」

 それを聞き、ファフナーは大きな翼を広げると、土埃を舞い上げながらも西の空へと消えていった。
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