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第501話 おもてなし
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私物化している訳じゃないのだが、俺以外に使っているところを見たことない応接室。
ソフィアに事情を説明すると、当然のことのように使用の許可が下りた。
案内されるや否や、仏頂面でソファへと腰掛けるレイヴン。その後方に並び立つ騎士達は強面ばかりで、必要以上に殺伐とした雰囲気だ。
「失礼します」
そこへ舞い降りた一服の清涼剤。扉のノックと共に姿を見せたのは、俺のギルド担当……いや、癒し担当のミアである。
トレイに載せたお茶は、俺とレイヴンの2人分。ミアはそれをテーブルに置くと、俺の隣にチョコンと座った。
「……」
それが気に入らなかったのか、レイヴンは眉を吊り上げながらも深い溜息をつく。
その様子は、まるで失望したとでも言わんばかりだが、別に期待してくれとは頼んでいない。
そんなレイヴンが、出されたお茶を口に含んだ瞬間だった。
「――ッ!? ぶへぇぇッ! 何だコレはッ!」
これでもかと舌を出し、顔を歪める様子は実に滑稽だ。
貴族としての最後の砦か、吐き出さなかったのは素直に賞賛しよう。
「おや? どうなされました?」
オロオロと慌ただしくなる騎士達を横目に、俺はすました顔で問い掛ける。
勿論、その原因は承知済み。ミアが出したお茶は、エルフの国ではポピュラーな飲み物。神樹茶だ。
エルフたちには、慣れ親しんだ故郷の味なのだろうが、正直に言って初心者にはオススメできない玄人向けの風味。
口の中に広がる大自然……と言えば聞こえはいいが、ぶっちゃけるとただ土臭いだけである。
「これは神樹茶と言って、リブレスでは重宝されているんですよ。それなりに貴重なので、ここぞという時にお出ししているのですが……。どうやらレイヴン公のお口には合わなかったようで……。申し訳ない」
そう言いながらも、見せびらかすように自分のお茶を口に含む。
当然、俺のは神樹茶ではなくただのお茶だ。少々やり方は幼稚だが、ルールも守らずカイルに剣を突きつけた報いである。
別に毒という訳じゃない。むしろ体には良いらしいし、それで許してやろうというのだから寛大な処置だと思って頂こう。
一方のミアはというと、笑いを堪えるというよりは、不安そう。
一応とはいえ相手は公爵。恐れ多いと感じるのも仕方ない。
「あの……もし、よろしかったら替えのお飲み物を……」
「……結構だ! ……ゲホッ……」
折角のミアの申し出を断るとは……。
先程までの余裕が嘘のような咽っぷりは想像以上。憤慨して帰ってしまう可能性も考慮していたが、どうやらその気はないらしい。
見た目ほど怒ってはいないのか……。それとも、それを押し殺してでもしなければならない重大な話なのか……。
「では、本日の御訪問はどのようなご用件で……?」
「貴様に幾つか要請がある。まずは、人払いを。そこの獣とギルド職員には席を外してもらおう」
そうくるだろうとは思っていた。なにせ、前例があるからな……。
「……では、レイヴン様の騎士達も下げていただけますか?」
「彼等は私の護衛だ。案ずるな」
「カガリも俺の護衛です。ミアは担当ですし、仕事とあれば同行が認められているので話を聞く権利はあるかと存じますが?」
「私は、貴様とは違う」
「いいえ、同じです。後ろの騎士が、武力行使に出るかもしれないじゃないですか」
「貴様が不審な挙動を見せなければ済む話だ」
隠すつもりもない傲慢不遜な態度。同じ公爵であっても、まだニールセン公の方が可愛げがあった。
礼儀はまぁ、仕方がない。貴族が平民を下に見るのは当然。そこは大目に見るのだが、そもそも俺の事を信用していないのは、どういう了見なのか……。
自分は護衛を侍らすクセに、俺にはその一切を認めない。
信用は置けないが、話は聞いてもらいたい。――そんな、身勝手な話があるか。
「信用の無い俺に仕事を任せるのは、さぞ不安な事でしょう。であれば、絶対の信頼の置く後ろの騎士たちに仕事を頼めばよいのでは?」
ニールセン公同様、自らが赴いたのだ。それだけ重要な話なのだろうと予想はしていたが、そうじゃないなら別の者に任せればいい。
魔獣使いとしての能力が必要であれば、グランスロードに赴き有能な獣使いを好きなだけ雇えばいい。
死霊術師だって同様だ。禁呪の力を必要としていないのなら、俺である必要はない。
「……正直に言おう。私は貴様を信用していないが、ニールセンやアンカースはそうじゃない。貴様の出方次第では、彼等の面目が潰れかねないことを肝に銘じておけ」
なるほど。恐らく今回の件は、ニールセン公か第4王女派閥のどちらか……またはその両方が、俺を推薦したのだろう。
それだけ俺を買ってくれているというのは、大変ありがたい事なのだが、何故レイヴン公が直接俺を訪問してきたのか……。
仕事の依頼なら、顔見知りを派遣した方が円滑だと知っているはず……。
「――ッ!?」
そこで俺は閃いた。この状況こそ、まさに前例通りであると。
「もしかして、お宅の息子さん。悪ガキだったりします?」
「違うわッ! ニールセンなどと一緒にするなッ!」
顔を真っ赤にして否定するレイヴン公。どうやら、俺の予想はハズレたらしい。
俺がアレックスを更生させたという噂を聞きつけて、同じような個人依頼をしにきたのかと思ったのだが……。
「はぁ……。ミア、カガリ。すまないが、席を外してくれ」
こうなっては仕方がない。少々癪ではあるが、ニールセン公とリリー派の貴族達に迷惑は掛けられない。
「いいのですか?」
カガリの言葉に無言で頷くと、ミアは礼儀正しく一礼し、カガリと共に応接室を去って行った。
ソフィアに事情を説明すると、当然のことのように使用の許可が下りた。
案内されるや否や、仏頂面でソファへと腰掛けるレイヴン。その後方に並び立つ騎士達は強面ばかりで、必要以上に殺伐とした雰囲気だ。
「失礼します」
そこへ舞い降りた一服の清涼剤。扉のノックと共に姿を見せたのは、俺のギルド担当……いや、癒し担当のミアである。
トレイに載せたお茶は、俺とレイヴンの2人分。ミアはそれをテーブルに置くと、俺の隣にチョコンと座った。
「……」
それが気に入らなかったのか、レイヴンは眉を吊り上げながらも深い溜息をつく。
その様子は、まるで失望したとでも言わんばかりだが、別に期待してくれとは頼んでいない。
そんなレイヴンが、出されたお茶を口に含んだ瞬間だった。
「――ッ!? ぶへぇぇッ! 何だコレはッ!」
これでもかと舌を出し、顔を歪める様子は実に滑稽だ。
貴族としての最後の砦か、吐き出さなかったのは素直に賞賛しよう。
「おや? どうなされました?」
オロオロと慌ただしくなる騎士達を横目に、俺はすました顔で問い掛ける。
勿論、その原因は承知済み。ミアが出したお茶は、エルフの国ではポピュラーな飲み物。神樹茶だ。
エルフたちには、慣れ親しんだ故郷の味なのだろうが、正直に言って初心者にはオススメできない玄人向けの風味。
口の中に広がる大自然……と言えば聞こえはいいが、ぶっちゃけるとただ土臭いだけである。
「これは神樹茶と言って、リブレスでは重宝されているんですよ。それなりに貴重なので、ここぞという時にお出ししているのですが……。どうやらレイヴン公のお口には合わなかったようで……。申し訳ない」
そう言いながらも、見せびらかすように自分のお茶を口に含む。
当然、俺のは神樹茶ではなくただのお茶だ。少々やり方は幼稚だが、ルールも守らずカイルに剣を突きつけた報いである。
別に毒という訳じゃない。むしろ体には良いらしいし、それで許してやろうというのだから寛大な処置だと思って頂こう。
一方のミアはというと、笑いを堪えるというよりは、不安そう。
一応とはいえ相手は公爵。恐れ多いと感じるのも仕方ない。
「あの……もし、よろしかったら替えのお飲み物を……」
「……結構だ! ……ゲホッ……」
折角のミアの申し出を断るとは……。
先程までの余裕が嘘のような咽っぷりは想像以上。憤慨して帰ってしまう可能性も考慮していたが、どうやらその気はないらしい。
見た目ほど怒ってはいないのか……。それとも、それを押し殺してでもしなければならない重大な話なのか……。
「では、本日の御訪問はどのようなご用件で……?」
「貴様に幾つか要請がある。まずは、人払いを。そこの獣とギルド職員には席を外してもらおう」
そうくるだろうとは思っていた。なにせ、前例があるからな……。
「……では、レイヴン様の騎士達も下げていただけますか?」
「彼等は私の護衛だ。案ずるな」
「カガリも俺の護衛です。ミアは担当ですし、仕事とあれば同行が認められているので話を聞く権利はあるかと存じますが?」
「私は、貴様とは違う」
「いいえ、同じです。後ろの騎士が、武力行使に出るかもしれないじゃないですか」
「貴様が不審な挙動を見せなければ済む話だ」
隠すつもりもない傲慢不遜な態度。同じ公爵であっても、まだニールセン公の方が可愛げがあった。
礼儀はまぁ、仕方がない。貴族が平民を下に見るのは当然。そこは大目に見るのだが、そもそも俺の事を信用していないのは、どういう了見なのか……。
自分は護衛を侍らすクセに、俺にはその一切を認めない。
信用は置けないが、話は聞いてもらいたい。――そんな、身勝手な話があるか。
「信用の無い俺に仕事を任せるのは、さぞ不安な事でしょう。であれば、絶対の信頼の置く後ろの騎士たちに仕事を頼めばよいのでは?」
ニールセン公同様、自らが赴いたのだ。それだけ重要な話なのだろうと予想はしていたが、そうじゃないなら別の者に任せればいい。
魔獣使いとしての能力が必要であれば、グランスロードに赴き有能な獣使いを好きなだけ雇えばいい。
死霊術師だって同様だ。禁呪の力を必要としていないのなら、俺である必要はない。
「……正直に言おう。私は貴様を信用していないが、ニールセンやアンカースはそうじゃない。貴様の出方次第では、彼等の面目が潰れかねないことを肝に銘じておけ」
なるほど。恐らく今回の件は、ニールセン公か第4王女派閥のどちらか……またはその両方が、俺を推薦したのだろう。
それだけ俺を買ってくれているというのは、大変ありがたい事なのだが、何故レイヴン公が直接俺を訪問してきたのか……。
仕事の依頼なら、顔見知りを派遣した方が円滑だと知っているはず……。
「――ッ!?」
そこで俺は閃いた。この状況こそ、まさに前例通りであると。
「もしかして、お宅の息子さん。悪ガキだったりします?」
「違うわッ! ニールセンなどと一緒にするなッ!」
顔を真っ赤にして否定するレイヴン公。どうやら、俺の予想はハズレたらしい。
俺がアレックスを更生させたという噂を聞きつけて、同じような個人依頼をしにきたのかと思ったのだが……。
「はぁ……。ミア、カガリ。すまないが、席を外してくれ」
こうなっては仕方がない。少々癪ではあるが、ニールセン公とリリー派の貴族達に迷惑は掛けられない。
「いいのですか?」
カガリの言葉に無言で頷くと、ミアは礼儀正しく一礼し、カガリと共に応接室を去って行った。
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