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第496話 国家運営戦略緊急会議

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 王都スタッグの宮殿にある大広間。そこは政治的な議論や軍議、国家の方針や戦略について話し合う場でもある。
 そこでは、名だたる貴族たちが一堂に会し、王国の運命を左右すると言っても過言ではない重要な会議が開かれていた。

「陛下の葬儀の件については予定通り執り行い、慰霊塔の建立は城内の礼拝堂敷地内ということで異論はありませんな?」

「「……」」

 スタッグ国王アドウェールの突然の崩御によって発令された緊急招集。
 窓から覗く王都の空は灰色の雲に覆われ、昼間だというのに薄暗い。
 それは貴族たちの心情を反映しているかのようでもあり、重苦しい雰囲気に拍車をかけているかのようでもあった。

「バイアス公。国民への公示日については……」

「ひとまずは、リリー様とエドワード様の帰国を待つ方向で調整している。それよりも、参列者の選定をせねば……」

 質問に答えながらも、大きなため息をつき肩を落とすバイアス公。
 部屋の中央には巨大なテーブル。国王代理であるアルバートが座る椅子の周囲には、バイアス公爵を含む第1王子派閥の貴族たち。
 その隣にはニールセン公爵率いる元第2王女派閥。更にその隣には第4王女派閥と続き、上座に位置する場所には王派閥の面々が一際豪華な椅子を囲んでいた。
 勿論、そこには誰も座っていない。

「周辺の友好国の指導者に対しては招待状を送付する予定だが、問題はシルトフリューゲルの扱いをどうするかだ。一応の礼儀として、招待はするべきだと考えてはいるが……」

「私は反対だ、バイアス公。停戦条約を締結しているとは言え、ついこの間まで戦争をしていたのだ。わざわざ弱味を見せる必要はない。招待状を送っておいて欠席するなどと言われようものなら、それこそ我が国一生の恥だぞ!」

 腕を組み、胸を張りながらも威厳に満ち溢れた声で意見したのは、レイヴン公爵。
 スタッグ王国の三大公爵に名を連ねるレイヴンは、王派閥の第一人者だ。
 ニールセンが軍事、バイアスが政治とくれば、レイヴンは財力――と言われるほどの資産家である。
 領内に幾つもの金鉱山を持ち、羽振りの良さはその服装や装飾品から見て取れる。
 白髪の目立つ60代男性。体型は細身で、狐のような顔立ちに鋭い目つき。
 貴族階級に厳格で、無作法者を嫌う傾向が強い。……にも拘らず、気に入った者には何事も惜しまぬことから、二極化思考の激しい男。
 それは自分の家族も例外ではなく、息子がたった1度言いつけを守らなかったというだけで、厳しい体罰の後に勘当してしまったという逸話が残っているほど。
 その所為か、他の貴族からの評判はあまり良いとは言えなかった。

「しかし、レイヴン公。国葬にはヴィルザール教の教皇も招くはず。であれば、シルトフリューゲルの耳に入るのも必然。ここは1つ招待状を送り付け、懐の深さを見せつけてやるのも一興では?」

「……ノースウェッジ卿。自分の娘をニールセンに嫁がせたからと、少し勘違いをしてはいないか?」

 ノースウェッジを静かに睨みつけるレイヴン。その目は、誰がどう見ても虫の居所が悪い。

「いえ、決してそういうわけでは……」

 ただでさえ雰囲気は最悪なのに、ピリピリとした緊張感も漂い始める大広間。
 そんな空気を少しでも変えようと、控えめな咳払いで視線を集めたのはニールセンだ。

「ゴホン。意見が割れましたな……。ならばここは、国王の代理でもあるアルバート様にお伺いを立てようではありませんか」

 集めた視線が、そのままアルバートへと引き継がれる。
 少しだけ考える素振りを見せたアルバート。暫くの沈黙の後、背もたれに体重を預けると自信ありげに口を開く。

「そうだな……。どちらかと言えば、僕は反対だ。お父様の葬儀には、グリンダにも参列してもらおうと考えている。勿論その日限りの恩赦だが、手枷をする王族なんて国民の前に出せないからな」

 第2王女のグリンダを表に出すとなれば、シルトフリューゲルの要人との接触は避けるべきであり、不穏分子を招き入れるのは愚の骨頂。
 それは、自分の派閥のトップでもあるバイアスの意見を退ける形にもなってしまうが、その意外な判断に貴族たちからは感心したかのような声が上がる。

「逆に聞くが、先の当事者であるニールセン公はどう考える? いや……敬称は不要だったかな?」

「いえ、そのままで結構でございますアルバート様。確かに家督はアレックスに譲りましたが、爵位委譲の特許状がまだですので……」

 それは息子であるアレックスに爵位を譲る為、国王へと申請していた特許状。
 スタッグ王の突然の崩御によりうやむやになった結果、ニールセンは公爵でありながらも当主ではないという、半端な位置取りに身を置いている状態だ。

「そうか……。それもお父様のやり残した仕事の1つでもあったな……。ならば特許状は僕が出そう」

「お待ちください、アルバート様。特許状の発行は王のみが権利を有する。代理とは言え陛下亡き今、それは次期国王に任せた方がよろしいのでは?」

「……レイヴン公。それは僕が、次期国王に相応しくないと言いたいのか?」

「いえ、そうではありません。そもそもの話、我々は陛下からリリー様を玉座に据えると聞いているのです」

「――ッ!?」

 辺りに動揺が走り、一気に騒がしくなる大広間。
 それは国王からの遺言とも取れるもの。王派閥の貴族以外は殆どが初耳であり、狼狽えるのも当然だ。

「レイヴン公! それは誠ですか!? 本当だとすれば、何故今それを……!?」

「静粛に! 静粛にしてください!」

 会議の一時中断を申し立てられても、おかしくない状況。
 ……にも拘らず、アルバートとバイアスだけは、冷静沈着を絵に描いたような落ち着きっぷりを見せていた。
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