上 下
24 / 37
本編

24.剣術大会の結果

しおりを挟む

 いつの間にかエミールに懐かれた日々(先輩っ鍛錬場に行きましょう!って俺の講義室にまで迎えに来るんだぜ……クラスメイトに“お前、美少年も守備範囲にいれたのか”と揶揄われ、俺のブルーダーの弟であるハインリッヒからは一線引くように接せられ地味にダメージを受けた。出来れば“一線引く”ではなく“一目置かれ”たかったよ、お兄さんは!)が過ぎ、怒涛の夏休みが経過(ブリュンヒルデは王女宮に招待されていた。そこで何が行われていたのか、俺は知る由もない。本当だ。本当に知らないったら知らない)し、秋、到来。

 剣術開催。
 去年、俺が荒らした一件もあり、ルール、その他諸々変更された。
 まずは名称。そして、以前はなかった、『剣を手放した後も、本人の士気が落ちない限り試合続行 可』というルールが追加されていた。
剣術が主になるが、打撃、蹴り、投げ、組み伏せ等、使用可になった。その場合、背面を地面に付けたら負け判定を下される。
 そして『例え本人の士気が落ちなくても、審判が続行不可能と判断した場合、試合中止。相手選手の勝利判定』という項目も付け加えられた。いくら士気が落ちない、倒れないからって、死ぬまで戦って欲しくはないからね。

 相手が武器持ち、自分がカラ手となったら、大概は降参するしかないと思う。だが実際問題として、の戦闘も想定した方がいいに決まっている。特に騎士は。武器を所持した悪党と戦うときや、町人を守らねばならないときなど、活躍場面は多岐に渡る。昔のように貴族同士の礼儀正しい決闘など、形骸化され実践では役に立たないのだ。

 ――ということをジークに説明された。お前の“やらかし”のお陰で、騎士科全体の意識改革ができたと、礼も言われた。

「いまさら俺を褒めても、ねぇ……」

 あの当時は、散々、キモチワルイ呼ばわりだったくせに。もっとも、俺はを“聞いていない”はずなので、文句も言えないのだが。





 今年度の剣術大会。エミールは準優勝だった。
 奴の士気は最後まで落ちなかったが、目の上を怪我し、審判に試合続行不可判定が下された。棄権試合となり、エミールの負け。だが、立派だったと思う。
 幸い、眼球に傷はなく、視力にも問題は残らなかった。暫くは白い包帯が痛々しかったが、左眉毛からこめかみに向かって残った傷痕は、騎士科の学生にはよくある光景だ。ファルケっぽいともいうかな。





「凄いな、お前。一回しか負けなかったのか」

 ある日、怪我が癒えたエミールと一緒に王都守備隊の鍛錬場に向かう道々で、俺は彼を労った。グループ戦も全勝だったのだ。立派だと思う。

「その一回が問題じゃないですか」

 なんとなく釈然としない面持ちでエミールはいう。

「去年の俺と同じだ」

 挑発込みでわざと言えば、

「あんたは、トーナメント2回戦負けでしょう? 僕は決勝戦までいったんです!」

 ムキになって、簡単に乗ってくるから、可愛いもんだ。

「うん。だからお前、凄いな。それに目の上切られて血塗れで視界も悪かっただろうに、剣を絶対離さなかった。カッコ良かったぞ」

 俺が笑ってそう言えば、エミールは脱力する。

「カッコ良かったって……なに言ってるんですか……」

おぉ。照れてる。ほんと、単純な子だねぇ。

「来年も記録に挑戦、するんだろ? やれよ。“専科優勝”」

 そう言えば、びっくりした顔を向けられた。

「……先輩って人間がよくわかんないよ……」

 そりゃ、ヤローに俺のすべてが判るわけなかろう! 俺の内面は恋する乙女なんだぞ! ……うん、これは口に出して言ったらダメなやつだな。
だから言わない。にっこり笑顔で躱すだけ。

……『沈黙は金』ってラインハルトさまが仰っていたなぁ(遠い目)




しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

最強の私と最弱のあなた。

束原ミヤコ
恋愛
シャーロット・ロストワンは美しいけれど傲慢で恐ろしいと評判の公爵令嬢だった。 十六歳の誕生日、シャーロットは婚約者であるセルジュ・ローゼン王太子殿下から、性格が悪いことを理由に婚約破棄を言い渡される。 「私の価値が分からない男なんてこちらから願い下げ」だとセルジュに言い放ち、王宮から公爵家に戻るシャーロット。 その途中で馬車が悪漢たちに襲われて、シャーロットは侍従たちを守り、刃を受けて死んでしまった。 死んでしまったシャーロットに、天使は言った。 「君は傲慢だが、最後にひとつ良いことをした。だから一度だけチャンスをあげよう。君の助けを求めている者がいる」 そうしてシャーロットは、今まで自分がいた世界とは違う全く別の世界の、『女学生、白沢果林』として生きることになった。 それは仕方ないとして、シャーロットにはどうしても許せない問題があった。 白沢果林とはちょっぴりふとましい少女なのである。 シャーロットは決意する。まずは、痩せるしかないと。

芋女の私になぜか完璧貴公子の伯爵令息が声をかけてきます。

ありま氷炎
恋愛
貧乏男爵令嬢のマギーは、学園を好成績で卒業し文官になることを夢見ている。 そんな彼女は学園では浮いた存在。野暮ったい容姿からも芋女と陰で呼ばれていた。 しかしある日、女子に人気の伯爵令息が声をかけてきて。そこから始まる彼女の物語。

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

気がついたら自分は悪役令嬢だったのにヒロインざまぁしちゃいました

みゅー
恋愛
『転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈ります』のスピンオフです。 前世から好きだった乙女ゲームに転生したガーネットは、最推しの脇役キャラに猛アタックしていた。が、実はその最推しが隠しキャラだとヒロインから言われ、しかも自分が最推しに嫌われていて、いつの間にか悪役令嬢の立場にあることに気づく……そんなお話です。 同シリーズで『悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい』もあります。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

悪夢なのかやり直しなのか。

田中ボサ
ファンタジー
公爵家嫡男、フリッツ・マルクスは貴族学院の入学式の朝に悪夢を見た。 だが、フリッツは悪夢を真実だと思い、行動を起こす。 叔父の命を救い、病気に侵される母親を救う。 妹の学園生活を悪夢で終わらせないために奔走するフリッツ。 悪夢の中でフリッツは周囲が見えていなかったため、家族や友人を救うことができずにすべてが終わってしまい絶望する。 単なる悪夢だったのか、人生をやり直しているのか、フリッツも周囲もわからないまま、それでも現実を幸せにするように頑張るお話。 ※なろう様でも公開中です(完結済み)

処理中です...