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謎解きモドキ?

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 オレンジ頭の大柄な殿方のびっくりしたお顔は、なかなか可愛らしいと思うわ。

「本当なのね! 凄いっ!
 では現国王陛下にもその素質はあるの?
 なにか不思議な力は使えて?
 秘密でないなら教えてくれないかしら?」

「ちょ、ちょっと待って下さい、姫君!
 いや、本当なんて僕は言ってませんよ!」

「えーー? だってさっき “は い” って言ったじゃない」

「は、い? と疑問形にしたつもりですっ!
 肯定していませんっ! いきなり、なにを訊くんですか、貴女は!」

「だって貴方、テュルクからの留学生でしょ?
 そのうえ王家所縁ゆかりの人材でしょ?
 王子様の護衛? かしら? わたくしに興味津々? でもわたくしもの国は興味深いと思っていたの。学園にいる今がチャンスですものね。是非一度お話ししたいと、貴方のご主人様にお伝えしてね?」

「……僕は、なにも話していないのに、なぜ……」

 ふふっ。呆然としていらっしゃるところを見ると、わたくしの推察は当たっていたということね。

 ちょっとだけ観察力と知識があれば解ることなのだけど、ここで種明かしをしてしまうのはつまらないわよね。
 いい女になるのを目指す為には、謎を作るのも大切ってお義姉様が仰ってたわ。

「貴方のお名前を伺ってもよくて?」

 わたくしのその言葉に彼は慌てたように、

「僕はカシム。カシム・チェレビ・マクブルと言います。以後、お見知りおきを」

 と言うとその場で直立した。

 本当にお背が高いのね。これもチュルク国の民の特性の一つなのだけど、ご本人にその自覚はなさそうだわ。

「ありがとう。わたくしはアンネローゼよ。よろしくね。今日は予定が立て込んでるから、失礼するわ。また後日お会いしましょう、ご機嫌よう。
 では、メルセデス様。ご一緒に参りましょうか」

 メルセデス様と連れ立って講義室を後にする。
 カシム様がわたくし達の後をつけて来るかも、なんてちょっとだけ思ったけど、今それを気にしても仕方ないわよね。キャシーが対処することだろうし。





 特別応接室は静かでいいわね。
 家具は王族をお迎えしてもいいような物を取り揃えたわ。
 いつお義姉様が見学されても対応できるようでないとね!
 ……自覚あるけれど、わたくしの行動基準はお義姉様なのよねぇ。
 わたくしといい、お兄様といい、サラお義姉様に依存し過ぎかも。

 自分で紅茶を淹れることができるのもそうだし。お義姉様とのお茶会で習ったの。お義姉様を喜ばせたくて、一生懸命覚えたものだわ。

 用意させた茶器を用いてお茶を淹れる。
 メルセデス様にもお出ししたわ。お味はどうかしら?

「彼はお察しのとおり、テュルクからの留学生です。わたくしと同じ3年生ですわ。
 アンネローゼ様。なぜそれがお分かりに?
 しかもテュルク王家所縁ゆかりの人間とまで……」

 一服したメルセデス様からの第一声。
 あらあら。彼女の好奇心を先に満足させなければならないかしら?

「種明かししたらつまらない話でしてよ?
 彼が、制服を着ていたことが大きいの」

「制服?」

「はい。実は、国内の貴族と留学生とでは制服の作りが若干違うのです。
 ジャケットの袖口に施された刺繍の柄、とか。
 わたくし、制服のデザイン決定現場に立ち会ったので確かですよ。
 彼が着ていたのは初期型。しかも黄色のネクタイに施した刺繍が、テュルク国の留学生専用に作られたモノですわね」

「ネクタイの刺繍は……同色の糸であまり目立たなかったアレを、ご覧になったのですか。
 あの僅かな時間に……。では王家所縁ゆかりの人間、というのは?」

「彼の国の王族は長髪が特徴だから、です」

 わたくしの言葉を聞いたメルセデス様が、目を剥いてこちらを見る。

「え? マクブル様は短髪でしてよ?」

「ふふっ。あの方、かつらを被っていらっしゃいましたよ。頭の形がちょっとだけ不自然だったし。
 ご本人の地毛、もしくは親族の方のそれで作られた物でしょうね。
 ジャケットの袖口に長い髪が一本、ついてましたわ。ご本人のものでしょうね。あの明るいオレンジ色の髪は今日初めて見た色でしたしねぇ」

「王族、だと判ったのに “王子の護衛” だと思われた理由は?」

「テュルク独自の紋様をほどこしたイヤーカフとピアスを着けていましたわね。
 テュルクでは下賜品にピアスを多く用いると、どこかで読みましたわ。 
 “王族” を臣下にする人物で他国の学園に留学するのなら……その人物が王子であると考えるのは妥当でしょう?
 ちなみに “王女”ではないですね。テュルクからの留学生は男子2名だと、あらかじめ聞いてますもの。
 ……ふふっ。こうやって説明されてしまうと、あまりにも単純でたいしたことではないでしょう?」

「いいえ。感服いたしましたわ、殿下」

 あら。メルセデス様ったら、いい笑顔。

「殿下呼びはやめて下さいな。
 メルセデス様。わたくしが王女だと判った理由を伺っても?」

 そう訊いたら、メルセデス様の笑顔が更にいい物になったわ。

「それこそ、単純な理由ですわ。
 我が家は熱狂的な国王派でございます。応接室には国王陛下に出回った陛下と王妃陛下の姿絵が額縁に入れられ堂々飾られておりますのよ。
 そして貴女様は、瞳の色を除けば、王妃陛下に生き写しですもの」

 あぁー。それは、逃げも隠れも言い逃れもできないわね。
 お母様がこの国に嫁いできたのって、今のわたくしと同じ年頃の17の時って聞いたことありますもの。

 では今日のお昼休みで気が付いた学生も多いと思っていいのね……。
 あぁヨハン、賢明なる我が弟よ。賭けは貴方の勝ちになりそうよ。

「もうお一方の留学生のお名前、教えてくださる?」

 気を取り直して、話題を変えましょう。

「アスラーン・ミハイ・セルジューク。アンネローゼ様の言が正しければ、彼は王子殿下、なのですね……この2年、知らなかったわ……。彼は去年の剣術大会の優勝者です」

「あら。じゃあ、その彼も “アイドル” さまなの?」

「恐らく、一番人気だと思われますわ。
 ただ、本人が素っ気ない態度しかとらないのと、留学生ということで、慕われるというより……敬遠されているといったご様子でしょうか」

「遠巻きにされてる一位さまと、単細胞な二位さま……愛くるしい三位さま。ふぅん……」

 ん?
 そのアイドルさま達、遅いわね。あの二人は来ないのかしら?
 キャシーを使いに出したから迷子になっているとは思い難いのだけど。

 と、そこへノックが3回と、わたくしの名を呼ぶキャシーの声。
 入室を許可すると、キャシーが慌てた様子でドアを開け報告した。

「あの二人が揉めています! 決闘すると言って」

 は  い ??


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