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お守り

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 そのボタンは乳白色のシンプルなものではなくて、側面にささやかに銀色のラインが入っている。変わっているけど校則違反はしていない。生徒手帳にワイシャツのボタンを銀色のラインの入ったものに付け替えるのは禁止なんて、どこに書いてあるはずがあるだろうか。すれすれの感じが彼らしくておかしい。

 一番上までボタンをしめきったミチルはなおも満足そうに二回大きく頷いて春人の肩を抱く。

「うん……やっぱりぴったりだ!」

 ミチルの手作りの衣服を身に纏えるのはすごく幸福な気持ちだったけど、学校指定のワイシャツじゃないのが不安だった。目をつけられたりしないだろうかなんて考えが頭を過ぎってしまう。それを見透かしたようにミチルは笑って大丈夫と微笑んだ。

「ワイシャツくらいバレないバレない……それに今の季節はブレザーも着るし……ああ、カーディガンも着る? 編んだのはないけど、買ったのなら……」

 まだなにも言ってないのに、カーディガンを編むのもいいかもしれないなあとぶつぶつ呟きながら、ミチルは立ち上がって箪笥の方に駆けていった。ああでもないこうでもないと一人で言いながら、持ってきたのは焦げ茶色の肌触りのいいカーディガンだった。

 ミチルは人形に着せ替えをするみたいに春人に服を着せていく。春人は翻弄されながら黙って着せ替えられていた。

「……春人はなにを着ても綺麗、素敵!」

「制服も借りてるのに……申し訳ない」

「あげる。いろいろいじろうとって思って買ってたのあって良かった。それに俺の匂いがしていいでしょ」

「なにそれ」

 ちょっとおかしくて笑ったら顔をのぞき込まれる。

「……やだ? 俺の香り好きって、この前言ってたじゃん」

「好きだけど……」

 彼が微笑してくる。

 手を取られた。なんだろうと思ったらカーディガンの奥の彼の手製のワイシャツの右腕の袖を引っ張り出してくる。

「見て、ここ……こっそり刺繍してみたんだ」

 ボタンを締めると見えない袖の裾の端の方に、小さな花の刺繍がしてあった。薄紫のすみれの花だ。繊細で上品で春人は思わず微笑む。

「どうかな」

 ミチルが少し不安そうな顔をして春人の顔を見上げていた。刺繍はちょっと自信がないんだよねと顔に書いてある。不安がる必要なんてまるでないくらいのでき上がりなのに、なんでそんなに自信がないか逆に分からない。

「すごく上手で……すごく綺麗だよ。嬉しい、ありがとう」

「……お守りね」

「え?」

 右手を優しく包み込まれた。乾きたての洗濯物に触れているような感じがする。



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