92 / 103
9
だって……
しおりを挟む春人は苦笑する。うーん……と色々考えたけれど、やっぱりどれもすすまない。朝になにか食べるという発想をずっと忘れていたから、まだなじまなかった。
「……甘いのばっかり」
「だって……好きなんだもん」
俺が、とミチルが照れくさそうに笑う。そんなこととっくに知ってる。
再び小瓶に目を落とす。チョコレートとピーナッツクリームはそんなに減っていないけれどいちごのジャムとオレンジ・マーマレードは半分くらい減っていた。一番減っているのははちみつだ。ミチルは前世が蜜蜂だったのではないだろうかと思ってしまうくらいなんにでもはちみつを入れたがる。それで、はちみつにしようと思った。これ、と囁くように言ったら、彼が綺麗にパンに塗ってくれる。
なんだか全部やってもらって申し訳ないけど、素直にありがとうと言って受け取った。ミチルがすごく嬉しそうに笑う。世話を焼くのが好きみたいだった。
春人は昨晩から長くなにも入れていない口に、食パンの端をかじって入れた。はちみつの独特な甘みが口いっぱいに広がる。舌先が甘みに包み込まれてとろけそう。とても美味しい。感動していたら脇に温めた豆乳が入っているマグカップを置いてくれる。春人は礼を言った。何日か一緒に過ごしているうちに分かったけれど、ミチルは狂ってるんじゃないかっていうくらい豆乳という飲み物をよく好んでいた。
豆乳とはちみつさえあれば地球は自転して一日が過ぎていくとでも思ってそうだ。牛乳よりも少し癖があるけれど、後味は豆乳の方がいいかもしれない。
「元気だね?」
顔を覗き込まれた。
「おかげさまで……」
顔を上げた瞬間唐突に顎を掴まれてキスされた。すぐに口が離れていく。
「うーん、はちみつの味、いいね」
歌うように言ったミチルは何事もなかったかのように斜向かいのミシンの前に座った。
春人はミチルを覗き見て照れくさくなって頬をかく。彼がくすくす笑ってるのが面白くない。いじわるだ。無視してパンを食べ続けることにした。変わらず美味しい。
なにかお礼をしないと、と斜向かいで真剣にミシンとにらめっこしているミチルを見て思う。助けてもらってから今日まで、ずっと看病をして匿ってくれた。彼はそれが当たり前だみたいな顔をして一緒にいてくれた。学校を休んでいる春人に授業の内容を細かく教えてくれたし、配られたプリントも持ってきてくれた。
彼がいなかったら今頃学校なんて辞めてしまっていたに違いない。今ごろどこでなにをやっていたことか、想像しただけでも恐ろしかった。でも確かにそんな殺伐とした世界で数日前まで平然と暮らしていたんだ。比較のしようがなかったから今までなんとも思わなかったけれど、こうやって立ち返ってみると、いかに自分がおかしかったかがよく分かった。
ミチルに感謝してもしきれない。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
俺と親父とお仕置きと
ぶんぶんごま
BL
親父×息子のアホエロコメディ
天然な父親と苦労性の息子(特殊な趣味あり)
悪いことをすると高校生になってまで親父に尻を叩かれお仕置きされる
そして尻を叩かれお仕置きされてる俺は情けないことにそれで感じてしまうのだ…
親父に尻を叩かれて俺がドMだって知るなんて…そんなの知りたくなかった…!!
親父のバカーーーー!!!!
他サイトにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる