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だって……

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 春人は苦笑する。うーん……と色々考えたけれど、やっぱりどれもすすまない。朝になにか食べるという発想をずっと忘れていたから、まだなじまなかった。

「……甘いのばっかり」

「だって……好きなんだもん」

 俺が、とミチルが照れくさそうに笑う。そんなこととっくに知ってる。

 再び小瓶に目を落とす。チョコレートとピーナッツクリームはそんなに減っていないけれどいちごのジャムとオレンジ・マーマレードは半分くらい減っていた。一番減っているのははちみつだ。ミチルは前世が蜜蜂だったのではないだろうかと思ってしまうくらいなんにでもはちみつを入れたがる。それで、はちみつにしようと思った。これ、と囁くように言ったら、彼が綺麗にパンに塗ってくれる。

 なんだか全部やってもらって申し訳ないけど、素直にありがとうと言って受け取った。ミチルがすごく嬉しそうに笑う。世話を焼くのが好きみたいだった。

 春人は昨晩から長くなにも入れていない口に、食パンの端をかじって入れた。はちみつの独特な甘みが口いっぱいに広がる。舌先が甘みに包み込まれてとろけそう。とても美味しい。感動していたら脇に温めた豆乳が入っているマグカップを置いてくれる。春人は礼を言った。何日か一緒に過ごしているうちに分かったけれど、ミチルは狂ってるんじゃないかっていうくらい豆乳という飲み物をよく好んでいた。

 豆乳とはちみつさえあれば地球は自転して一日が過ぎていくとでも思ってそうだ。牛乳よりも少し癖があるけれど、後味は豆乳の方がいいかもしれない。

「元気だね?」

 顔を覗き込まれた。

「おかげさまで……」

 顔を上げた瞬間唐突に顎を掴まれてキスされた。すぐに口が離れていく。

「うーん、はちみつの味、いいね」

 歌うように言ったミチルは何事もなかったかのように斜向かいのミシンの前に座った。

 春人はミチルを覗き見て照れくさくなって頬をかく。彼がくすくす笑ってるのが面白くない。いじわるだ。無視してパンを食べ続けることにした。変わらず美味しい。

 なにかお礼をしないと、と斜向かいで真剣にミシンとにらめっこしているミチルを見て思う。助けてもらってから今日まで、ずっと看病をして匿ってくれた。彼はそれが当たり前だみたいな顔をして一緒にいてくれた。学校を休んでいる春人に授業の内容を細かく教えてくれたし、配られたプリントも持ってきてくれた。

 彼がいなかったら今頃学校なんて辞めてしまっていたに違いない。今ごろどこでなにをやっていたことか、想像しただけでも恐ろしかった。でも確かにそんな殺伐とした世界で数日前まで平然と暮らしていたんだ。比較のしようがなかったから今までなんとも思わなかったけれど、こうやって立ち返ってみると、いかに自分がおかしかったかがよく分かった。

 ミチルに感謝してもしきれない。


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