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Ⅵ
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しおりを挟む僕は声を出せた。
「やめて」
それを、静かに遮った。
「このリボン、は……! 僕の大切な友達が結んでくれた、頑張って、結んでくれた……! だから、これでいいんだ……似合ってなかったとしても、拙くても、僕はこれがいいんだ。だから解かないでほしい。結び直さないで、蕗ちゃん」
彼女は僕が反論したことに驚いたのか、石になったように動かない。
一言彼女に言い放ったら、苦しかった胸に爽やかな風が通り過ぎたように清々した。今ならなんでも言える気がした。
言える。
僕が思っていたこと、これから思うこと、やりたいことを包み隠さず、全部。
僕が望む選択肢を、今の僕なら打ち明けることができる。
ノエルの笑顔が脳裏を掠める。
そうだ、僕は。
僕らはいつか三人でまた会うんだ。桜を見るんだ。
「僕、サークルの花見には行けない。行きたくないんだ、土壇場でごめんなさい、本当にごめん」
僕は蕗ちゃんを見た。
蕗ちゃんは僕のことを凄い目で見ていた。
それは僕が最も恐れていた眼差しだった。
でも今は怖いとは思わなかった。
僕をどんな目ででも見たらいい。
侮蔑でも、好奇でも、奇異でも、なんでも僕に、向けたらいい。
怖くない。
だって僕にはどんな僕でも受け入れてくれる人がいるから。
「僕は翔と一緒に行くね」
蕗ちゃんは軽蔑と落胆と衝撃がいっぱい詰め込まれたような顔をしていた。
彼女に頭を下げて、ごめんなさい、と呟く。
「……なに言ってるの?」
彼女は笑顔で僕の言葉をごまかそうとしている。いつもの僕みたいに。僕ってこんなふうに見えていたのかもしれない。
だけど声は震えていた。
「どうかしてるよ、樫崎くん」
「どうかしてるってことでいいよ。僕は翔が好きなんだ」
僕は笑った。嘘じゃない本当の言葉だと胸を張って言える。
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