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Ⅵ
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しおりを挟む「もーしょうがないなあ、じゃあまた、くるよ、とくべつ! あはははっ! おかあさんに、おねがいする!」
「またっていつ?」
「わかんないーあはは! くすぐっ、たいー!」
「ノエルがいなくなったら僕は誰に遊んでもらえばいいの」
「カケルがいるでしょー!」
僕はノエルにいたずらしていた手をピタリと止める。自分でも分かるくらいあからさまにげんなりしてしまった。ノエルは僕の様子を見て、よじっていた体を戻しながら僕の膝の上にまたがるようにして座る。
僕はちょっと心配そうに僕を見上げているノエルに向かって、愚痴るように呟いた。
「翔、僕のこと好きなままでいてくれてるかなあ」
「ノエルがきいてあげよっか?」
「えー? ノエル帰っちゃうじゃん」
そうだった、とノエルは笑う。笑いごとではありません。
「僕まだ、翔にごめんしてないから……許してくれるかなあ」
「いいからわるいことしたらごめんっていう」
「わかりました、ごめんなさい」
「ノエルじゃなくてカケルにいうの」
「ありがとうございます」
「ありがとうじゃない!」
「じゃあなんて言えばいいの⁉︎」
僕は半分笑いながらまたノエルをくすぐった。
「あはははは! やめてー!」
ノエルの笑い声を聞いていると、なんかもう全部どうでもよくなるっていうか、なんとかなるんじゃないかなって、心が軽くなる。しばらくそうやって戯れていた。翔と会えるかもしれない緊張に指先が冷たくなりそうだったけど、ノエルは温かくて可愛くて優しかった。
人影に気づいたのは、僕がちょっと落ち着いてノエルも一息ついた頃だ。地面の色が変わっている。誰かの影だ。僕はノエルから視線を逸らして顔を上げる。僕に釣られて顔を上げたノエルが、天の川みたいに目を輝かせて、流れ星みたいに笑った。
深緑色の使い込まれた大きなキャリーケースを引いた、信じられないくらい美人な女の人が僕らの前に立っている。
「おかあさん!」
ノエルが僕の膝から降りて、一目散に彼女に抱きついた。
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