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Ⅳ
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しおりを挟む「優月は待ってる係ね」
僕は曖昧な返事をして曖昧に頷いた。翔に言われるまま4人がけのダイニングテーブルに座る。マダムと、ノエルと、翔の三人があーだこーだ言いながら朝食を作っている姿をぼーっと見ていた。いつもいるはずの自分の場所に誰かがいることは不思議な気分だった。
カウンターの陰になって見えないけど、手元は着々と朝食の準備が進んでいるに違いない。翔が、台の上に乗ったノエルに卵の殻の剥き方を教えている。子どもにもわかりやすい言葉を選んでやって見せていた。ノエルは綺麗に向けたピカピカの卵をカウンター越しに見せてくれる。僕は少しだけ顔を傾けながら、嬉しそうな彼に向かって笑いかける。
僕はあの3人の輪に入っているっていうことにしてもいいのかな。頬杖をつきながら、きっと誰も考えていないような疎外感について考えていた。
ノエルも翔も、マダムだって当たり前のように僕を受け入れてくれているのに、その胸に素直に飛び込むにはなにかが引っかかっていていた。
正直に彼らの輪の中に、入ることができない。誰も僕を蔑ろになんかしていないのに。
どうしてだろう。
「どうぞ」
いつの間にか僕の脇にマダムがいる。
僕は挙動不審になりながら、マダムを見上げた。コーヒーを淹れてくれている。
「ただ見ているだけじゃ口寂しいでしょう」
「……ありがとうございます」
マダムが淹れてくれたコーヒーを素直に受け取って口をつけた。
マダムは僕の隣に座ると、僕と同じようにして翔とノエルを見やっているようだった。
「あの人たち、いったいいくつたまごを割るつもりなのかしら」
マダムがぼやいた。僕はうーん、と考える。4人ぶんだから、4つでいいんじゃないかな。3個でもいいかも。
「卵の殻の中って居心地いいのかしらね」
「分かりません、鳥になったことないので」
まあ、とマダムはフラットな声で言う。
「あなたは随分殻の中に閉じこもっていると思っていたけど」
「……どういうことですか」
また変なこと考えてると思いながら適当な相槌を打つ。向こうで翔とノエルがゆで卵を白身と黄身に分けていた。
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