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41 人攫いたちの拠点
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「……痛っ……ここは……」
俺は冷たい石の床の上で目を覚ました。辺りは薄暗く、ただ一つ、鉄格子が嵌められた窓から月明かりが差し込んでいる。ここはどこだろう。俺は痛む頭を押さえようとして、しかいそれはできなかった。
「鎖……?」
「トウセイ様! 目が覚めたのですね」
俺は驚いて声がした方を見る。そこには、俺を騙して利用しようとした男が座っていた。一瞬身構えるが、よく見れば彼も俺と同様、手を縛られ、彼に関しては足まで縛られているらしい。俺はどうにか起き上がると、辺りを見回した。
「ここは人攫いたちの拠点です。あなたと私は、攫われここに連れてこられました……すみません、私がついていながら」
「いえ、それは……とにかく、脱出を見つけなきゃですね」
まるで牢屋のような部屋だった。出入口になりそうなのは、固く厚そうな鉄の扉と、鉄格子が嵌められた窓のみ。部屋の中にあるものと言えば、埃をかぶった箱や棚など……もしや物置かなにかなのだろうか。もしかしたら、脱出するのに役立つものがあるかもしれない。そう思ったとき、部屋の扉が開けられた。
「ほら、やっぱり転移者サマが目を覚ましてるじゃねぇか。確認はちゃんとしろ」
部屋に入って来たのは、大柄な男だった。どこかアジアン風な服装をしており、金や宝石などの派手な飾りが特徴的だった。後ろに部下でもいるのだろうか。「すいません!」という返事が聞こえる。おそらくリーダーなのだろう、大柄な男は俺と目が合うとにやりと笑った。
「っ、トウセイ様に手を出すな!」
「あんたは大人しくしてろよ、騎士サマ。ほら転移者サマ、そこに捕まってる騎士サマのきれいな顔、ぐちゃぐちゃにされたくないだろ? 大人しくしてもらおうか」
部屋に男の部下らしき人間が入って来た。ヘアバンドで顔の半分は隠されているが、にやにやとしているのは分かる。男の部下は、ふざけた表情で、短剣を弄んでいた。彼の指示に従えば、グレンノルトの安全は保障してくれるということか。俺は、ためらいながらも大柄な男の元に歩いて行った。
「トウセイ様!」
「誤解しないでください。あなたのためじゃありません」
ここでこの男に反抗すれば、グレンノルトだけじゃなく自分の命まで危ない。だから、男の指示に従うのは、グレンノルトのためではない。それに、この部屋から出ることができれば、逃げ出すチャンスもあるかもしれない。俺はそう自分に言い聞かせた。
「あんたが利口で助かるぜ。おい、お前はそこの騎士サマを見張ってろ」
男は部下にそう指示すると、俺の腕を掴んで引っ張った。
*
どうやら人攫いたちの拠点は、かなり大きいものらしい。しばらく歩き、連れてこられたのは、服や帽子などが置かれている部屋だった。女性が数人、そこでなにか作業している。男が部屋に入ると、女性たちはすぐに男の元に集まった。
「転移者サマ、その服は異世界のものじゃないだろ?」
「……そうですけど」
質問の意図が分からず、しかし答えないわけにもいかない俺は、正直に男の問いに答えた。今着ている服は、町で買ったものだ。異世界の服、つまりこの世界に来た時、俺が来ていた服は、町で着るには少し浮くため、しばらくあの服は着ていない。
「そうか、なら着飾らせるか……いや、嘘でも『異世界の服』の方が良いな。報酬に関わる」
男の言葉を聞くと、女性たちは「分かりました」と言って近くの服を漁り始めた。
「俺に、何をさせる気ですか」
「あんたは何もしなくていいぜ。強いて言えば、大人しくしていることが、これからのあんたの仕事だ」
転移者としてなにかさせる気なのかと思ったが、どうやら違うらしい。ということは、俺をどこかに売りとばすのが目的なのだろう。
少しした後、女性たちが何着か服を持ってきた。
「……どれも『異世界の服』と言われればそう思えるが……」
「申し訳ありません。私らも、異世界の服と言われましても……いっそ、裸でお出しすれば?」
「俺もそう考えたが、転移者サマは見た目が普通だからな。服だけでも異世界の物ということにしたい」
俺は彼らの話を聞き、体がカッと熱くなった。彼らは俺を人間として見ていない。金稼ぎのための道具として扱われるのが、悔しくて仕方がなかった。
「なあ、転移者サマ。この中で異世界にある服はどれだ」
男は俺にそう尋ねてきた。腹が立って仕方がない俺は、抵抗し顔を背ける。しかし男は俺の顔を掴むと、自分の方に向かせた。
「あんたも騎士サマのこと、殺したくないだろ?」
「………最低な人ですね」
「今さら気づいたのか? 俺たちは『人攫い』だぜ」
男に「早く答えろ」と言われ、俺は一番無難そうなフードの付いた服を選んだ。今は、男の指示に従うしかない。きっといつかチャンスは来る。俺はそう自分に言い聞かせる。逃げ出すのを警戒してか、男は俺に「ここで着替えろ」と指示した。
「手枷が邪魔で、腕が通りません」
「……仕方ない、外してやる」
少し考えた後、男は鍵の束を取り出し俺の手枷を外した。なるほど、手枷を外す鍵は男が持っているのか。あの鍵の量だと、グレンノルトの足枷の鍵もありそうだ。
「着替え終わりました」
俺がそう言うと、男は女性たちに軽い化粧と髪を整えることを指示した。多分、これで準備は終わりだ。後は売られるだけ。最悪なのは、このままグレンノルトを助けられないまま、どこかに売られることだ。どうにかして、脱出の機会を作らなくてはと、俺は改めて決意した。
俺は冷たい石の床の上で目を覚ました。辺りは薄暗く、ただ一つ、鉄格子が嵌められた窓から月明かりが差し込んでいる。ここはどこだろう。俺は痛む頭を押さえようとして、しかいそれはできなかった。
「鎖……?」
「トウセイ様! 目が覚めたのですね」
俺は驚いて声がした方を見る。そこには、俺を騙して利用しようとした男が座っていた。一瞬身構えるが、よく見れば彼も俺と同様、手を縛られ、彼に関しては足まで縛られているらしい。俺はどうにか起き上がると、辺りを見回した。
「ここは人攫いたちの拠点です。あなたと私は、攫われここに連れてこられました……すみません、私がついていながら」
「いえ、それは……とにかく、脱出を見つけなきゃですね」
まるで牢屋のような部屋だった。出入口になりそうなのは、固く厚そうな鉄の扉と、鉄格子が嵌められた窓のみ。部屋の中にあるものと言えば、埃をかぶった箱や棚など……もしや物置かなにかなのだろうか。もしかしたら、脱出するのに役立つものがあるかもしれない。そう思ったとき、部屋の扉が開けられた。
「ほら、やっぱり転移者サマが目を覚ましてるじゃねぇか。確認はちゃんとしろ」
部屋に入って来たのは、大柄な男だった。どこかアジアン風な服装をしており、金や宝石などの派手な飾りが特徴的だった。後ろに部下でもいるのだろうか。「すいません!」という返事が聞こえる。おそらくリーダーなのだろう、大柄な男は俺と目が合うとにやりと笑った。
「っ、トウセイ様に手を出すな!」
「あんたは大人しくしてろよ、騎士サマ。ほら転移者サマ、そこに捕まってる騎士サマのきれいな顔、ぐちゃぐちゃにされたくないだろ? 大人しくしてもらおうか」
部屋に男の部下らしき人間が入って来た。ヘアバンドで顔の半分は隠されているが、にやにやとしているのは分かる。男の部下は、ふざけた表情で、短剣を弄んでいた。彼の指示に従えば、グレンノルトの安全は保障してくれるということか。俺は、ためらいながらも大柄な男の元に歩いて行った。
「トウセイ様!」
「誤解しないでください。あなたのためじゃありません」
ここでこの男に反抗すれば、グレンノルトだけじゃなく自分の命まで危ない。だから、男の指示に従うのは、グレンノルトのためではない。それに、この部屋から出ることができれば、逃げ出すチャンスもあるかもしれない。俺はそう自分に言い聞かせた。
「あんたが利口で助かるぜ。おい、お前はそこの騎士サマを見張ってろ」
男は部下にそう指示すると、俺の腕を掴んで引っ張った。
*
どうやら人攫いたちの拠点は、かなり大きいものらしい。しばらく歩き、連れてこられたのは、服や帽子などが置かれている部屋だった。女性が数人、そこでなにか作業している。男が部屋に入ると、女性たちはすぐに男の元に集まった。
「転移者サマ、その服は異世界のものじゃないだろ?」
「……そうですけど」
質問の意図が分からず、しかし答えないわけにもいかない俺は、正直に男の問いに答えた。今着ている服は、町で買ったものだ。異世界の服、つまりこの世界に来た時、俺が来ていた服は、町で着るには少し浮くため、しばらくあの服は着ていない。
「そうか、なら着飾らせるか……いや、嘘でも『異世界の服』の方が良いな。報酬に関わる」
男の言葉を聞くと、女性たちは「分かりました」と言って近くの服を漁り始めた。
「俺に、何をさせる気ですか」
「あんたは何もしなくていいぜ。強いて言えば、大人しくしていることが、これからのあんたの仕事だ」
転移者としてなにかさせる気なのかと思ったが、どうやら違うらしい。ということは、俺をどこかに売りとばすのが目的なのだろう。
少しした後、女性たちが何着か服を持ってきた。
「……どれも『異世界の服』と言われればそう思えるが……」
「申し訳ありません。私らも、異世界の服と言われましても……いっそ、裸でお出しすれば?」
「俺もそう考えたが、転移者サマは見た目が普通だからな。服だけでも異世界の物ということにしたい」
俺は彼らの話を聞き、体がカッと熱くなった。彼らは俺を人間として見ていない。金稼ぎのための道具として扱われるのが、悔しくて仕方がなかった。
「なあ、転移者サマ。この中で異世界にある服はどれだ」
男は俺にそう尋ねてきた。腹が立って仕方がない俺は、抵抗し顔を背ける。しかし男は俺の顔を掴むと、自分の方に向かせた。
「あんたも騎士サマのこと、殺したくないだろ?」
「………最低な人ですね」
「今さら気づいたのか? 俺たちは『人攫い』だぜ」
男に「早く答えろ」と言われ、俺は一番無難そうなフードの付いた服を選んだ。今は、男の指示に従うしかない。きっといつかチャンスは来る。俺はそう自分に言い聞かせる。逃げ出すのを警戒してか、男は俺に「ここで着替えろ」と指示した。
「手枷が邪魔で、腕が通りません」
「……仕方ない、外してやる」
少し考えた後、男は鍵の束を取り出し俺の手枷を外した。なるほど、手枷を外す鍵は男が持っているのか。あの鍵の量だと、グレンノルトの足枷の鍵もありそうだ。
「着替え終わりました」
俺がそう言うと、男は女性たちに軽い化粧と髪を整えることを指示した。多分、これで準備は終わりだ。後は売られるだけ。最悪なのは、このままグレンノルトを助けられないまま、どこかに売られることだ。どうにかして、脱出の機会を作らなくてはと、俺は改めて決意した。
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