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38 賢く大人しいリス
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エドナー夫人の姫君が連れてきたリス、果たしてそいつが予言にあった脱走するリスなのだろうか。俺たちは急いでリスの元へと向かった。向かう途中、アリシアとグレンノルトが「逃げ出すって……ボスくん、本当に大人しくて賢いんですよ?」「賢いからこそ脱走するんでしょ?」と言い争っているが、できれば静かにしてほしい。俺は多分ボスくんが予言されたリスなんだろうなと考えながら、2人に着いて行った。
果たして、部屋へと辿り着いた俺たちは、逃げ出すなんてありえない、いやきっと予言のリスだとそれぞれに思惑を抱えながらそっと扉を開ける。そこには___
「あー!!! ケージが空になってる!?」
「やはり予言のリスだったか!」
「あっ! 机の下にいます! 扉! 扉閉めてください!」
俺が指を指すと、まるで人間の言葉が分かるかのようにボスくんはさっと動いて物陰に隠れた。
「これのどこが大人しいリスなんですか?」
「き、きっと人間がたくさん来て驚いてるんですよ! ほら、ボスくん~ご飯の時間だよ」
そう言うか言わないかといったとき、天井付近から高速の毛玉が飛んできて、アリシアが持っていた小袋を奪って行った。毛玉は跳ねるように着地し、忍びかと思うような動きで床を走ると、再び物陰に隠れた。
「きっと、物陰に隠れて移動してるんですよ! 自分がどこにいるか悟られないように!」
アサシンか何かかと言いたくなるようなリスだった。ここまでやり手だと、アリシアが言っていた「大人しい」というのも、こちらを油断するためにそう振る舞っていたのかもしれない。
「他に餌は?」
「ありません……手元にあったのは、今全部取られました……」
「あの速さ……今後、一瞬でも部屋の扉が開けば、すぐにでも逃げ出しますね」
「そうなれば、国際問題になる可能性もあります」
お出かけ先にまで連れてくるんだ。きっと姫はボスくんが大好きなんだろう。そんなボスくんを、俺たちがうっかり逃してしまった……問題になることは避けられない。今ここにいる人間だけで、あの厄介なリスを捕まえなくては。そのとき、ガタンッという音共に、何かが床に落ちてきた。もしやボスくんかと思い、俺たちは音の方を見る。
「時計……」
時計が掛かってたところには、隠しきれない大きくふわふわなしっぽが見えた。ボスくんは俺たちを揶揄っている。そう理解するのは簡単だった。
「トウセイ様、グレンノルト様、撤回します。どうやら、ボスくんは大人しくて賢いリスではなかったようです」
「そうですね、生意気でずる賢いリスです。俺たちを舐めてます」
「人間の怖さそして偉大さを小さな彼に教えてあげましょう」
グレンノルトの言葉に、俺トウセイアリシアは大きくうなづいた。こうして、人間とリス、両者のプライドを賭けた戦いの幕が上がり___そして1時間後に終演を迎えた。結果だけ見れば、ボスくんを捕まえたら我々の勝利だろう。しかし、狭い部屋の中で1時間も人間の手から逃げ延びたボスくん。彼の奮闘とも言える足掻きは、きっと俺たち以外が知ることはない。しかし、彼の必死な姿を忘れないだろう。ケージに入ると疲れからかすぐに寝てしまったボスくんを観て、俺はそう思った。
果たして、部屋へと辿り着いた俺たちは、逃げ出すなんてありえない、いやきっと予言のリスだとそれぞれに思惑を抱えながらそっと扉を開ける。そこには___
「あー!!! ケージが空になってる!?」
「やはり予言のリスだったか!」
「あっ! 机の下にいます! 扉! 扉閉めてください!」
俺が指を指すと、まるで人間の言葉が分かるかのようにボスくんはさっと動いて物陰に隠れた。
「これのどこが大人しいリスなんですか?」
「き、きっと人間がたくさん来て驚いてるんですよ! ほら、ボスくん~ご飯の時間だよ」
そう言うか言わないかといったとき、天井付近から高速の毛玉が飛んできて、アリシアが持っていた小袋を奪って行った。毛玉は跳ねるように着地し、忍びかと思うような動きで床を走ると、再び物陰に隠れた。
「きっと、物陰に隠れて移動してるんですよ! 自分がどこにいるか悟られないように!」
アサシンか何かかと言いたくなるようなリスだった。ここまでやり手だと、アリシアが言っていた「大人しい」というのも、こちらを油断するためにそう振る舞っていたのかもしれない。
「他に餌は?」
「ありません……手元にあったのは、今全部取られました……」
「あの速さ……今後、一瞬でも部屋の扉が開けば、すぐにでも逃げ出しますね」
「そうなれば、国際問題になる可能性もあります」
お出かけ先にまで連れてくるんだ。きっと姫はボスくんが大好きなんだろう。そんなボスくんを、俺たちがうっかり逃してしまった……問題になることは避けられない。今ここにいる人間だけで、あの厄介なリスを捕まえなくては。そのとき、ガタンッという音共に、何かが床に落ちてきた。もしやボスくんかと思い、俺たちは音の方を見る。
「時計……」
時計が掛かってたところには、隠しきれない大きくふわふわなしっぽが見えた。ボスくんは俺たちを揶揄っている。そう理解するのは簡単だった。
「トウセイ様、グレンノルト様、撤回します。どうやら、ボスくんは大人しくて賢いリスではなかったようです」
「そうですね、生意気でずる賢いリスです。俺たちを舐めてます」
「人間の怖さそして偉大さを小さな彼に教えてあげましょう」
グレンノルトの言葉に、俺トウセイアリシアは大きくうなづいた。こうして、人間とリス、両者のプライドを賭けた戦いの幕が上がり___そして1時間後に終演を迎えた。結果だけ見れば、ボスくんを捕まえたら我々の勝利だろう。しかし、狭い部屋の中で1時間も人間の手から逃げ延びたボスくん。彼の奮闘とも言える足掻きは、きっと俺たち以外が知ることはない。しかし、彼の必死な姿を忘れないだろう。ケージに入ると疲れからかすぐに寝てしまったボスくんを観て、俺はそう思った。
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