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30 紺色の手帳

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「予言の調査はどうですか?」

 時計屋、本屋と店を渡り、買い物もひと段落したとき、少し早いが昼食にしようと近くのレストランに入った。パスタが美味しいそうなので、俺はカルボナーラ、グレンノルトはペペロンチーノを頼み、料理が来るのを待った。

「時計塔に関しては、もう解決したと言っていいですね。技師を呼び調べさせたところ、文字盤と振り子室に問題があったようで、修理済みです。宝剣に関しては、盗賊に目星はついているのですが、それ以上のことは、まだ」
「もう、1つ解決してたんですね! 宝剣については、そうですか……心配ですね」

 残りの予言は、宝剣が盗まれることと、大樹に新芽が出ること、大雨と氾濫にリスの脱走か……この後も、無事予言は解決してほしいなと思う。俺たちは運ばれてきたパスタを食べながら、予言の話した。パスタは評判通りすごくおいしかった。

 *

 腹ごしらえを終えた後は、買い物の続きだ。近くに雑貨屋があると言われたので、まずはそこに行くことにした。

「すごい! たくさんお店がありますね」

 大通りに出て驚いたのは、店の多さ、そして人の多さだった。午前に見て回ったお店は、どれも大通りから外れた道にあったから、町の中央がこんなに賑わっているなんて分からなかった。家や店はレンガ造りのものが多い。詳しくないから分からないけど、少なくても日本風ではない街並みだ。あえて言うなら、ヨーロッパ風だろうか。俺が大どうりを見て感動していると、フードを被ったグレンノルトが俺の手を引いた。

「人が多いので、はぐれないように」
「そ、そうですね!」

 彼があまりにもスマートに俺の手を握って来たから、俺は驚く暇もない。グレンノルトは人を器用に避けて歩き、俺は彼が歩く後ろを着いて歩いた。屋台の店主が声を張って客を呼び、どこからか楽器の演奏が聞こえる。活気のある町とはこういう町のことを言うんだろう。手を握られてることから気を逸らそうと、俺は町の風景を見て楽しんだ。

「この店です。入りましょう」

 雑貨屋だろうか。ならば俺も買い物がしたいなと思いながら店に入る。

「……あの、手」
「ああ、すみません」

 思春期のカップルかと俺は心の中で叫んだ。いや、だってグレンノルトが店に入ってからも手を放す気配がなく、なんて声を掛ければいいのか分からなかったんだ。放せと言うのも失礼な気がして、思春期の男子みたいなかっこ悪い伝え方しかできなかった。ごちゃごちゃ考えながらため息を吐いていると、グレンノルトが俺の名前を呼んだ。

「ここは文具を売ってるんです。よろしければ、トウセイも自分の分具を見てみませんか?」
「文具……ペンとかですか」

 確かに言われてみると、売られているのは雑貨と言うより、ペンや万年筆など文房具ばかりだ。ノートや便箋なども売られている。

「ガラスペンだ! きれいだけど……高いですね」

 せっかくだし勉強で使う筆記用具を良いものにしようかと考えたが、値段を見て若干驚く。良いものはやはり高いんだ。転移者の仕事の報酬として渡されたお小遣いを考えながらどうしようかと悩む。買えなくはないが、この後も店を見て回ると考えると決断しづらい金額だ。

「ガラス製のペンはインテリアとしても良いですし、書きやすくはあるのですが、持ち歩けないのが難点ですね。トウセイには万年筆の方が良いかもしれません」
「なるほど……」

 俺はグレンノルトの言葉に頷きながら万年筆の値札を見た。そして息をのむ。

(た、高い……! ガラスペンの5倍はする……)

 俺は冷や汗を流しながら、「やっぱり今使っているペンでいいです!」と手に持った万年筆を棚に戻した。安いペンでも買おうかと思ったが、それでは多分今使ってるペンの方が良いものになるだろう。値段で良し悪しが決まるとは思わないが、今使っているペンも十分書きやすいし、妥協して買うなら今使ってるもので十分かな。

「グレンは何を買いに来たんですか?」
「手帳を。ですが、種類が多く……よろしければ一緒に選んでくれませんか?」
「確かにいろいろありますね」

 本棚一杯に手帳は並べられていた。色も違えば、その質感も違う。俺はその中から黄色の手帳を1冊を引き抜いてめくって見た。俺も買った方がいいかな、手帳。でも書いて覚えるほど予定ないな。

「グレンさんの好きな色とかは?」
「あえて言うなら、青や黒でしょうか。あまり派手な色よりは、暗めな色が好みです」

 グレンノルトに似合う色を考えるなら派手めなものがいいかと思ったが、暗めな色が好きなのか。ならばと、今度は紺色の手帳を本棚から抜き取った。

「これとかどうですか? 暗めな色でかっこいいです」
「確かに。落ち着いた色で良いですね。それにします」

 そんなあっさり決めていいのかと思ったが、グレンノルトはその手帳を持って会計へと向かった。まあ、本人が良いならそれでいいか。置いて行かれた俺は、手持無沙汰となり商品棚を見ながら時間を過ごす。棚には、どうやらインクが置いてあるようだった。

(いろんなインクがあるんだ……おもしろい、けど使わないんじゃ買っても意味ないか)

 鮮やかな青緑、紫を帯びた赤、いろいろな色のボトルインクは見ているだけでも面白い。けれども、ペンがなければインクを買っても意味はない。俺は店内を見ながらグレンノルトを待った。

 *

「お待たせしました」

 数分後、グレンノルトが買ったものを持って戻って来た。思ったよりも時間がかかったことを謝られたが、混んでいたから仕方がない。俺は「気にしないでください」と伝え、店を出た。
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