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15話

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俺は『トパーズ』の王族の一人として生まれた。とはいっても、王位継承権なんてあってないようなものだ。そもそも魔法を持つ者は魔法使いになることがふつうであり、俺が王座につくことはない。だから、王族だとか政治だとかに興味が持てなかった。
 母は子ども思いで優しく、父は賢く頼りになった。魔力を持つ俺は、小さなころから奇異の目で見られ、好き勝手に噂された。母や父は気にするなと俺を慰めたが、どうしたって気にしてしまう。でもそんなとき、いつもそばで励ましてくれたのは、城にある図書室で司書をしていた祖父だった。祖父は、仕事柄魔法使いに会う機会が多く、俺が魔法を使えることに悩むたびに、祖父の知る魔法使いたちの姿を教えてくれた。母も父も好きだけど、俺が一番に懐いていたのは祖父だった。友だちはほとんどいなかったけど、今思えばこのときが一番平和だった。
 
「母が病で倒れ、その後亡くなったことから父は可笑しくなり始めた」
 
 母が亡くなってから、父はふさぎ込むようになった。俺や祖父とも話はするけど反応は素っ気ないものになり、変わっていく父を見るのが嫌だった。多分、俺もきづかないうちに父を避けていたんだろう。だから、父が怪しい人間たちと関わり始めたことに気づけなかった。
 
「王が病になったと噂され始めたのも、この時期だった」
 
 城の一部の人間がおかしな動きを始めたと誰かが言った。病気になった王はきっと長くないだろう、次の王は誰になるか。俺は政治に興味がなかったから、こう考える奴らが現れることが間違いだとも正解だとも思わなかった。ただ、父は傾倒していった。
 
「俺が、父たちの担ぎ上げている人間の支持者になり、国に使える魔術師になって国に奉仕すれば、そいつが王に近づく。そう言われた」
 
 俺を家族として扱う父はいなくなり、いつしか父が一番俺を魔法使いとして扱った。俺が昔話した、「自分は誰かに縛られて魔法を研究したくない」という願いも、父の話した「お前は自由にやっていいんだ」という言葉も、すべてを父は忘れてしまった。祖父が亡くなった次の月に、俺は逃げ出した。父が活動の資金にしようと、祖父の物を売り払い始め、それを見て俺はもう父を、あいつを許すことができなくなった。
 
「そこに大きな時計があるだろ。祖父の物だが、壊れていて売れなかったんだ。残った唯一のものだ。俺はあの時計を再び動かしたくて、逃げ出した先で物を直す魔法を研究し始めた」
 
 俺の目の色と髪の色はとにかく目立ち、そして魔法使いであることも重なり、行く先々で俺は他人から注目された。近づいてくる奴、逃げる奴、様々な人間がいたが、悪意を持って接してくる奴も多かった。情報は自分の身を守る武器となる。俺は魔法で他人の会話を盗み聞き、居場所や行先を変えた。今の場所に定住したのは、『トパーズ』から逃げ出してから1年経ったころだった。
 ツバメに渡した魔晶石に魔法をかけた理由は俺自身分かっていない。この魔法を使うときは、決まって危ないやつが近くにいるときや、情報が必要なときだった。しかし、今周りに危険はないし、近くにいる奴と言えば魔法なしで喧嘩しても勝てそうな人間だ。ただ、思い出したようにツバメの会話を聞いて、ツバメが俺をどう考えているかを確認することが習慣になっていた。
 
「隠してる、とかではないんだ。俺自身、こんなことをした理由が分からない」
 
「俺はなんとなく分かりましたけど」
 
 俺は驚いて顔を上げる。ツバメは柔らかく笑っていた。
 
「ノースは王族で、魔法使いで、そのせいで嫌な経験をしてきました。そんな中、異世界から来た俺は、この世界の常識も知らなければ、ノースが王族だってことも知らない。ノースにとって俺は、嫌な経験をさせないはずの人間だったわけです。でも___」
 
 俺以外の人間と、ツバメは交流し始めた。俺が雑用をやらせてるんだから当たり前だ。道具の使い方を学んで、食事ではこの世界の料理が出るようになった。ツバメは村の人間と話して、常識や世界のことを知っていった。どうでも良いことだった。けれども、このままツバメがいろんなことを知っていって、そのせいで俺を見る目が変わったら___
 
「……俺は不安だったのか」
 
 「ようやく気づいたんですか」とツバメは微笑んだ。
 
 
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