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12話
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王宮で開かれるパーティの招待状をなくしてしまった。その事実に気づいた俺は、3人に土下座する勢いで謝った。いつ無くしたんだ、どこかに置いてきたということはないだろう。つまり、落としてしまったというわけで、それなら財布を出した屋台かその近くだ。
「俺、ちょっと探してきます!」
そう言って走り出そうとした俺をヴァントが慌てて止めた。
「落としてから時間が経ってそうだし、あるかどうか分からないよ」
「まあ、普通は誰かに拾われてると思います。貴重な招待状なんですよね。見つけて『ラッキー貰っちゃお』でって思われてもしかたありません」
マディナはため息を吐いた。確かにそうだ。今さら探しに行ったって、見つからない確率の方が高いだろう。招待状をなくしたことにも、考えなしの行動をしそうになったことにも、全部に恥ずかしくなって俺は再び謝ろうとしたけど、その前にリディアが「まあまあ」と割って入って来た。
「良くあることですよ。落ちこまないでください。ご飯だってほら、屋台やお店があるわけですし! あっ、夕方からはお酒を出すお店も増えるんです。ツバメさんは、お酒飲めますか?」
お酒……元の世界ではすでに成人を迎え、たまに飲んではいたが、そこまで強いわけではない。でも、久しぶりに飲んでみるのも良いかな。俺を慰めて励ましてくれるリディアとヴァント、そして一応、励ましてくれてるわけじゃないけど責めてるわけでもないマディナ。3人に礼を伝えて、「とりあえず屋台の方に向かいましょう」と誘ってくれるリディアの言葉に俺は頷いた。
*
「ただいま~ノース! 元気にしてましたかぁ?」
扉をどんどんと叩くと、怪訝そうな表情をしたノースが家から出てきた。そしてその表情はどんどん険しいものになっていく。その様子をにこにこしながら見ていると、ノースは無言で家の扉を閉めてしまった。
「何するんですかぁ、ノース! 開けてください!」
「うるさい、酔っ払いが! お前、どれだけ飲んできたんだ!?」
どれだけって……どれだけ飲んだっけ? 屋台をみんなで見て回ったんだけど、結局はまた2人ずつで動くことになった。リディアはまたヴァントとマディナを2人きりにさせたかったんだけど、マディナが「お姉ちゃんは私と!」って連れていってしまったんだ。仕方ないから、俺はヴァントと2人で出店を見て回って、そしたら……
「ノース、ノース! 知ってましたか! ヴァントさん、本当はリディアさんのことが好きなんです!」
「何の話だ! というか誰だ!」
俺は扉をがちゃがちゃとさせながら、中にいるノースに話しかけた。そう、そうなのだ。俺とヴァントはそれぞれ出店で好きなものを買って、他の2人も見つからないからって、先に食べ始めたんだけど、そこで彼に「リディアのことどう思う?」って聞かれたんだ。俺は異世界から来たことを彼女に伝えたわけだし、信用してる友人だと思ってるって話したら、「実は……」って……でもリディアの方は、ヴァントはマディナのことが好きと言っていた。どういうことか聞いたら、どうやらリディアが誤解してると、そう言うことだった。安心してほしい、自分はリディアをそういう目で見てないと伝えると、そこからはもう楽しい楽しい恋の話だ。酒も進む。再び合流したリディアたちが驚くくらいには、2人で飲んだはずだ。
「って、早く開けてください、ノース! いつまで俺を閉め出す気ですか!」
なんで俺は扉を1枚挟んで、外からノースに話しかけてるんだ。俺はうるさく騒いで抗議した。けれども、ノースからの反応はない。なるほどね、無視ですか。おれは理解したとばかりに頷いた。別に、一番初めのときみたいにノースが諦めるまで居座ってもいいけど、俺としては早く家の中で休みたい。なんだかんだ言って、疲れてるからね。俺は扉から手を放して、大きく息を吸って吐いた。
「………やっぱり、そうですよね。ノースにとって俺は他人ですもんね」
俺はできるだけ声量を落として話した。話し方も、できるだけ落ち着いた話し方で。でも、どこか堪えるようにも聞こえるように。
「俺にとって、ノースはこの世界で一番仲が良いって思える人で。ノースもそう思ってくれてるって、考えてました。なんか、すみません。俺、勝手にノースと仲良くなった気になっちゃってました。反省します。このまま今夜は外で過ごして、頭冷やしますね。グスっ。あれ、目から汗が。なーん、て………」
冗談です、早く開けやがれください。そう続けようとした俺は驚いて目を丸くした。目の前の扉が勢いよく開いたからだ。どれくらいの勢いかと言うと、風ができて俺の前髪が揺れるくらい。扉を開けた張本人であるノースは、見たことないくらい焦った様子で、俺と目が合って数秒してすべて理解した後、「この、酔っ払いが!!」と吐き捨てた。
「もしかして、俺が泣いたって思いましたか?」
「うるさい、うるさい!」
「ああ、待ってください! ほら安心してください、泣いてませんよ!」
「もういい、今夜はお前外で寝ろ! 手を放せ!」
「嫌です! 外なんかで寝たら体バキバキになっちゃいます!」
怒りのままに再び扉を閉めようとするノース。俺は慌てて、手足を挟んだ。これで扉が閉まることはない。「入れてください!」「嫌だ外で寝ろ!」とまるで子どもみたいな言い合いをして、ようやく俺が家に入れてもらえるころには、俺もノースも疲れ切ってしまっていた。
「俺、ちょっと探してきます!」
そう言って走り出そうとした俺をヴァントが慌てて止めた。
「落としてから時間が経ってそうだし、あるかどうか分からないよ」
「まあ、普通は誰かに拾われてると思います。貴重な招待状なんですよね。見つけて『ラッキー貰っちゃお』でって思われてもしかたありません」
マディナはため息を吐いた。確かにそうだ。今さら探しに行ったって、見つからない確率の方が高いだろう。招待状をなくしたことにも、考えなしの行動をしそうになったことにも、全部に恥ずかしくなって俺は再び謝ろうとしたけど、その前にリディアが「まあまあ」と割って入って来た。
「良くあることですよ。落ちこまないでください。ご飯だってほら、屋台やお店があるわけですし! あっ、夕方からはお酒を出すお店も増えるんです。ツバメさんは、お酒飲めますか?」
お酒……元の世界ではすでに成人を迎え、たまに飲んではいたが、そこまで強いわけではない。でも、久しぶりに飲んでみるのも良いかな。俺を慰めて励ましてくれるリディアとヴァント、そして一応、励ましてくれてるわけじゃないけど責めてるわけでもないマディナ。3人に礼を伝えて、「とりあえず屋台の方に向かいましょう」と誘ってくれるリディアの言葉に俺は頷いた。
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「ただいま~ノース! 元気にしてましたかぁ?」
扉をどんどんと叩くと、怪訝そうな表情をしたノースが家から出てきた。そしてその表情はどんどん険しいものになっていく。その様子をにこにこしながら見ていると、ノースは無言で家の扉を閉めてしまった。
「何するんですかぁ、ノース! 開けてください!」
「うるさい、酔っ払いが! お前、どれだけ飲んできたんだ!?」
どれだけって……どれだけ飲んだっけ? 屋台をみんなで見て回ったんだけど、結局はまた2人ずつで動くことになった。リディアはまたヴァントとマディナを2人きりにさせたかったんだけど、マディナが「お姉ちゃんは私と!」って連れていってしまったんだ。仕方ないから、俺はヴァントと2人で出店を見て回って、そしたら……
「ノース、ノース! 知ってましたか! ヴァントさん、本当はリディアさんのことが好きなんです!」
「何の話だ! というか誰だ!」
俺は扉をがちゃがちゃとさせながら、中にいるノースに話しかけた。そう、そうなのだ。俺とヴァントはそれぞれ出店で好きなものを買って、他の2人も見つからないからって、先に食べ始めたんだけど、そこで彼に「リディアのことどう思う?」って聞かれたんだ。俺は異世界から来たことを彼女に伝えたわけだし、信用してる友人だと思ってるって話したら、「実は……」って……でもリディアの方は、ヴァントはマディナのことが好きと言っていた。どういうことか聞いたら、どうやらリディアが誤解してると、そう言うことだった。安心してほしい、自分はリディアをそういう目で見てないと伝えると、そこからはもう楽しい楽しい恋の話だ。酒も進む。再び合流したリディアたちが驚くくらいには、2人で飲んだはずだ。
「って、早く開けてください、ノース! いつまで俺を閉め出す気ですか!」
なんで俺は扉を1枚挟んで、外からノースに話しかけてるんだ。俺はうるさく騒いで抗議した。けれども、ノースからの反応はない。なるほどね、無視ですか。おれは理解したとばかりに頷いた。別に、一番初めのときみたいにノースが諦めるまで居座ってもいいけど、俺としては早く家の中で休みたい。なんだかんだ言って、疲れてるからね。俺は扉から手を放して、大きく息を吸って吐いた。
「………やっぱり、そうですよね。ノースにとって俺は他人ですもんね」
俺はできるだけ声量を落として話した。話し方も、できるだけ落ち着いた話し方で。でも、どこか堪えるようにも聞こえるように。
「俺にとって、ノースはこの世界で一番仲が良いって思える人で。ノースもそう思ってくれてるって、考えてました。なんか、すみません。俺、勝手にノースと仲良くなった気になっちゃってました。反省します。このまま今夜は外で過ごして、頭冷やしますね。グスっ。あれ、目から汗が。なーん、て………」
冗談です、早く開けやがれください。そう続けようとした俺は驚いて目を丸くした。目の前の扉が勢いよく開いたからだ。どれくらいの勢いかと言うと、風ができて俺の前髪が揺れるくらい。扉を開けた張本人であるノースは、見たことないくらい焦った様子で、俺と目が合って数秒してすべて理解した後、「この、酔っ払いが!!」と吐き捨てた。
「もしかして、俺が泣いたって思いましたか?」
「うるさい、うるさい!」
「ああ、待ってください! ほら安心してください、泣いてませんよ!」
「もういい、今夜はお前外で寝ろ! 手を放せ!」
「嫌です! 外なんかで寝たら体バキバキになっちゃいます!」
怒りのままに再び扉を閉めようとするノース。俺は慌てて、手足を挟んだ。これで扉が閉まることはない。「入れてください!」「嫌だ外で寝ろ!」とまるで子どもみたいな言い合いをして、ようやく俺が家に入れてもらえるころには、俺もノースも疲れ切ってしまっていた。
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