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6話

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リディアが見せてくれた畑は、そこまで広いものではなかった。正直、見ただけでは何の野菜が植えられているか分からない。それでもこの畑の異様さは理解できた。
 
「全部、同じ時期に植えたはずなんです」
 
「それは……可笑しいですね」
 
目の前の畑には、今芽吹いたばかりの芽から、もう細く枯れてしまった野菜までが、一緒くたになって植えられていた。今ちょうど青々しく育っている野菜もあり、それを見ると、立派に育っているように見えるから、土に栄養はあるのかなと推察する。うーん、野菜の成長速度がバラバラになっていると、ノースには伝えようかな。俺がそう考えていると、隣から強い視線を感じた。
 
「えっと、何ですか……」
 
「ああ、ごめんなさい。やっぱりあなたのことが気になってしまって」
 
俺の横顔をじっと見ていたのはリディアだった。そんな彼女の言葉にドキッとする。こちとら生まれてこのかた彼女がいたことないんだ。「気になる」なんて言われたら照れてしまう。リディアは、「あの」「んー」と、話の始め方を迷っているようだったが、覚悟を決めたのか、俺を真正面から見て「聞かせてください!」と力強く言った。
 
「ツバメさんってノースさんと付き合ってますか?」
 
「はぁ!? ちがいます、ちがいます! 何でおれがノースの恋人なんですか!」
 
「だって、その、大切にされてるから……」
 
「されてませんよ! 今日だって、朝ごはんを作った後、掃除して、洗濯して」
 
「やっぱり同棲してるんですか!?」
 
「同居です!!」
 
この人は何を言い出すのかと思った。俺がノースと? ありない。数日過ごして分かったが、あの男は根本的に他人のことが嫌いなのだ。そんな彼が他人を好きになることがあるのか。リディアは、「私のカンよく当たるんですけどねぇ。本当に付き合ってないんですか?」と聞いてきた。だから付き合ってない。
 
「そもそも、なんで大切にされてるとか思ったんですか」
 
そこの誤解から解いてやろうと、俺がそう尋ねると、リディアさんは「魔晶石」と呟いた。
 
「紫色の魔晶石は、持ち主を良くないものから守ってくれるお守りですよ? 服に入ってたって、それ、ノースさんがわざと入れたんじゃないですか? お使いに出したツバメさんが、安全なように」
 
「お、お守り?」
 
リディアはしゃがんで、畑の雑草をぶちぶちと抜きながら話を続けた。
 
「ノースさんが服を貸したってのも驚きです。だって、人間嫌いで高飛車で、人を避けるために森に住んでいるのがノースさんですよ。まあ、私たちにとっては魔法薬を作ってくれる魔法使いが近くにいることは助かりますけど。あなたがノースさんの服を着ていると知って、これは一緒に暮らしているな、恋人だって思いました」
 
「リディアさん、怒ってますか……?」
 
先ほどからリディアの様子が可笑しい。俺は恐る恐るリディアにそう尋ねた。
 
「……ノースさんのこと褒めてたら、腹が立ってきちゃったんです。あの人には魔法薬のこととかでいろいろ感謝してますけど、あの人、私の妹をこっぴどく振ったんですよ。あの、本当にツバメさんはノースさんの恋人じゃないんですか?」
 
「だから違いますって!」
 
リディアさんがジト目で見上げてくる。俺は手をぶんぶんと振って否定した。
 
「……もし、俺とノースが付き合ってたら、リディアさんは何を」
 
「別れさせてやろうと思いました。妹を泣かせておいて、自分は恋人作って楽しくやってるなんて」
 
もしかしてリディアさんは怖い人なのか。いや、妹思いな姉なだけかもしれない。俺は何とか話題を変えたくて、頭をフル回転させた。
 
「あっ、金糸! 金糸ってなんですか!」
 
俺はさっき、ドターの家で聞いた言葉を思い出した。実はあの時からずっと気になっていて、時間があれば聞きたいと思っていたのだ。話題を変えるのに丁度いい。金糸とは何か、なぜノースの服だと確信したのか、俺は尋ねた。
 
「何かって、宝石からできる糸ですけど。ここらへんで金糸の服を着れるのなんて、ノースさんくらいですからね。なんせ、アプリコットって言ったら」
 
「リディア!」
 
そのとき、遠くからリディアの名前を呼ぶ声が聞こえた。声がした方を見ると、男性が手を振りながら走ってくる。何だろうと思っていると、その人はまた叫んだ。
 
「きみの牛、生まれそうなんだ!」
 
「うそ、来週だと思ってた!」
 
リディアが慌てたように立ち上がり、男性の方へ走って行こうとした。けれども俺の存在を思い出したようで、振り返り、どうすべきか迷っているようだ。俺は「どうぞ行ってください」と彼女に言った。
 
「畑の様子も見れましたし、俺もそろそろ帰ろうと思います」
 
「そっか……ありがとう。ツバメさんと話せて楽しかった!」
 
リディアと男性が、何かを話しながら慌ただしく走って行く。そんな彼女たちを見送り、俺は村を後にした。
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