7 / 58
第一章
恐怖
しおりを挟む
ある日、歌奈が言った
「三郎、紫陽寺に行こう」
「?」
「この週末からお祭りだから、あんた、そういうの好きそうじゃない?」
「しようじ?」
「あ~隣のお寺のことよ。紫陽花の花を抜いて後は寺って書いて(しようじ)って読むの。毎年6月のこの時期にお祭りをするのよ。紫陽花が一番きれいに咲いてる頃だからこの時期なんですって。今度の土曜日は前夜祭だから屋台とかも出るし、お祭りの間はお寺の中も見せてくれたりするから、ねえ見たくない?住職もすごく優しくていい人なんだ。私たちがここに越して来た時からとっても良くして貰ってるの。」
「そうなんだ・・」
(お祭りか~今もお祭りなんてあるんだな~)
急な誘いだったが何だかとても嬉しかった。
「うん!行こう」
その日、歌奈と私は紫陽寺のお祭りとやらに行く約束を交わした。
当日・・
玄関先で歌奈を待っているといつもとはまるで違う彼女がそこに現れた。
そう!この時代にもまだ、私の見慣れた”出で立ち”は存在していた!
「どう?三郎。私の浴衣姿も可愛いでしょ?あんたは分んないかもしれないけど、お祭りの日には浴衣を着るのよ。」
「うん・・すごく良いよ!」
その浴衣とやらをまとった歌奈は本当に愛らしく、つい本音が口をついて出た。
「で、でしょ!何よ!今日はやけに正直じゃない!まあいいけど・・じゃあ行こう。」
歌奈も少し照れくさそうにしていたが、それでも期待に逸る心を抑えきれず、二人で笑いながら通りへ駈け出した。
とても華やかで、賑やかで、それでいてとても懐かし雰囲気だった。
表から見るより遙かに参道は長く、両側に見事な紫陽花が今を盛りと咲き乱れ、その景色は圧巻だった。
その傍らには仄かな明かりが灯され、まるで私達を黄泉の国へと誘うようだった。
ゆっくりとその奥へ進んで行くと礼厳あらたかな本堂が姿を現し、私は久しぶりに緊張感を覚えた。
「三郎。お参りをしてから何がしたい?ゆっくり回るから考えなよ。」
「うん・・」
そう・・うなずきながら、まじまじと歌奈をみる。
(やっぱり可愛い・・やばい緊張してきた)
どきどきしている私などお構いなしに、あれもやろうこれも食べようと、歌奈はどんどんまくしたてる。
少々圧倒されながらも、目の前に広がる光景全てが私には新鮮で楽しくて仕方がなかった。
そして彼女が傍にいて一緒に楽しめるこの安心感は、私に感じた事のない幸せをもたらしてくれた。
紫陽寺の懐かしい雰囲気に浸りながら、屋台の珍しい玩具や美味しい食べ物に人一倍興奮していると歌奈がふと話し始めた。
「三郎。お寺の中見せてあげる。ここはね、一見小さなお寺だけど、実は奥はすんごく広くてとっても重要な名所なんですって。私は詳しくは知らないけど、みんなが言ってるの。『このお寺は徳川家康公が秘密に作ったお寺なんだ。但し先祖代々の秘密だけどね』って。」
(徳川・・?)
その名前を聞いた瞬間!なぜか私は急に我にかえった。
(そうだった・・私はこの世界の住人ではないんだ。もっと前、ずーと昔に存在した人間なんだ・・)
そう思ったとたん、言いようのない恐怖と不安が物凄い勢いで私を襲って来た。
その恐怖に居ても立っても居られなかった。
「歌奈・・、もう帰ろう・・」
「えっ?どうして?待ってよ!」
歌奈を振り切って、私は紫陽寺から逃げ帰った。
「三郎、紫陽寺に行こう」
「?」
「この週末からお祭りだから、あんた、そういうの好きそうじゃない?」
「しようじ?」
「あ~隣のお寺のことよ。紫陽花の花を抜いて後は寺って書いて(しようじ)って読むの。毎年6月のこの時期にお祭りをするのよ。紫陽花が一番きれいに咲いてる頃だからこの時期なんですって。今度の土曜日は前夜祭だから屋台とかも出るし、お祭りの間はお寺の中も見せてくれたりするから、ねえ見たくない?住職もすごく優しくていい人なんだ。私たちがここに越して来た時からとっても良くして貰ってるの。」
「そうなんだ・・」
(お祭りか~今もお祭りなんてあるんだな~)
急な誘いだったが何だかとても嬉しかった。
「うん!行こう」
その日、歌奈と私は紫陽寺のお祭りとやらに行く約束を交わした。
当日・・
玄関先で歌奈を待っているといつもとはまるで違う彼女がそこに現れた。
そう!この時代にもまだ、私の見慣れた”出で立ち”は存在していた!
「どう?三郎。私の浴衣姿も可愛いでしょ?あんたは分んないかもしれないけど、お祭りの日には浴衣を着るのよ。」
「うん・・すごく良いよ!」
その浴衣とやらをまとった歌奈は本当に愛らしく、つい本音が口をついて出た。
「で、でしょ!何よ!今日はやけに正直じゃない!まあいいけど・・じゃあ行こう。」
歌奈も少し照れくさそうにしていたが、それでも期待に逸る心を抑えきれず、二人で笑いながら通りへ駈け出した。
とても華やかで、賑やかで、それでいてとても懐かし雰囲気だった。
表から見るより遙かに参道は長く、両側に見事な紫陽花が今を盛りと咲き乱れ、その景色は圧巻だった。
その傍らには仄かな明かりが灯され、まるで私達を黄泉の国へと誘うようだった。
ゆっくりとその奥へ進んで行くと礼厳あらたかな本堂が姿を現し、私は久しぶりに緊張感を覚えた。
「三郎。お参りをしてから何がしたい?ゆっくり回るから考えなよ。」
「うん・・」
そう・・うなずきながら、まじまじと歌奈をみる。
(やっぱり可愛い・・やばい緊張してきた)
どきどきしている私などお構いなしに、あれもやろうこれも食べようと、歌奈はどんどんまくしたてる。
少々圧倒されながらも、目の前に広がる光景全てが私には新鮮で楽しくて仕方がなかった。
そして彼女が傍にいて一緒に楽しめるこの安心感は、私に感じた事のない幸せをもたらしてくれた。
紫陽寺の懐かしい雰囲気に浸りながら、屋台の珍しい玩具や美味しい食べ物に人一倍興奮していると歌奈がふと話し始めた。
「三郎。お寺の中見せてあげる。ここはね、一見小さなお寺だけど、実は奥はすんごく広くてとっても重要な名所なんですって。私は詳しくは知らないけど、みんなが言ってるの。『このお寺は徳川家康公が秘密に作ったお寺なんだ。但し先祖代々の秘密だけどね』って。」
(徳川・・?)
その名前を聞いた瞬間!なぜか私は急に我にかえった。
(そうだった・・私はこの世界の住人ではないんだ。もっと前、ずーと昔に存在した人間なんだ・・)
そう思ったとたん、言いようのない恐怖と不安が物凄い勢いで私を襲って来た。
その恐怖に居ても立っても居られなかった。
「歌奈・・、もう帰ろう・・」
「えっ?どうして?待ってよ!」
歌奈を振り切って、私は紫陽寺から逃げ帰った。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
【R18】ドS上司とヤンデレイケメンに毎晩種付けされた結果、泥沼三角関係に堕ちました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎
——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。
※連載当時のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる