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番外編 ~ひたすら甘い新婚生活 & これからの二人 ~ など
不器用だけどヘタレではない
しおりを挟む誓いの口づけを終え会場を出て行った二人を見送って参列者たちが思い思いに感想を喋り出す。
大半は無事に結婚式までこぎつけられたことを祝う声だ。
「なんだかとても二人らしい誓いの言葉でしたねえ」
楽しそうに感想を述べるグレイスにそうだなと返す。
珍妙なやり取りもあったけれどアイツららしいと言えばその通りだと思う。
本当に、フェリシアと結ばれなかったら何をする気だったのかわかったもんじゃないな。
「俺の助言も役立ったようで何よりだ」
「殿下が結婚式を今日にしてくれるようお願いしたのですよね。
おかげでフェリシア様の綺麗なウエディングドレス姿が見られました」
ありがとうございますと口元を綻ばせるグレイスは淡い黄色のドレスをまとい、ドレスに合わせてしっかりと化粧をしている。
華やかな装いながらも持ち前の上品さの方が印象に残るのは、所作が綺麗なせいか。
全体的に暗い色味を持つ者が多い中で、俺とグレイスは少し異色で注目を集めている。
話しかけたそうな者もちらほらといて、のんびりとタイミングを待っている時間はないと心を決めた。
「帰りの馬車、俺に送らせる気はあるか」
普段穏やかに緩められている目がわずかに見開かれた。
現れた驚きがそれだけだったのがグレイスらしい。きっとその頭の中で俺の発言の意味やそれを受けたとき断ったときの影響を考えている。
新学期が始まるまで学生は皆それぞれ領地で過ごす。グレイスもこの式が終われば自分の領地に帰る。
ここに来るまでは時間もなかったので3人で俺の馬車に乗ってきた。
しかしここから先フェリシアはいない、グレイスが俺と二人で馬車に乗ればそこには意味ができる。
密室で二人きりになっても構わない関係だと。
遠回しのようでいて貴族相手なら伝わる表現。
こんな曖昧な意思表示しかできない身であることがもどかしい。
けれどはっきりと想いを口にすることは今は許されない。
俺がはっきりと想いを告げればそれだけで圧力になる、王族とはそういう立場だ。
望まなければ断るとは思うが、そうなれば今のような気安い関係ではいられない。
俺は我儘なんだろう。
受け入れられなくても友人としての位置は確保していたいなんて。
合わせていた視線を外して言葉を待つ。
グレイスが別の馬車を使うと言えばそれで終わりになる。
じゃあまた学園で、と別れればいい。
沈黙が恐ろしいほど長く感じた。
ようやく口を開いたグレイスは答えではなく問いを口にした。
「なぜ、今なのですか?」
声音はいつもと変わらず穏やかな響きをしていて、その内の感情を覗かせない。
探り合いなんてまどろっこしいことをする気はないのではっきりと告げる。
「俺の婚姻は好きだの嫌いだのの感情だけですまない。
利害だけでもすんなり決められないくらいだからな」
本当に面倒くさい。
大した存在でもないのにな。
「けど受け入れてくれるのなら、その準備ができる」
グレイスが理解したというようにゆっくりと瞬く。
いつからとかなんでとかはわからない。
だがアイツとやり合っているときに隣から入ってくる穏やかな声や柔らかく諭す口調。時にはっきりと忠言を述べる態度すら、好ましく感じていた。
フェリシアが卒業を迎え、俺たちの関係も変わらざるを得ない。
……変わらなければこれまでのようには側にいられない。
「準備……」
「先に言っておかないとどういう関係にもなれないからな」
俺も今すぐ婚約者になってくれとか言える立場じゃない。
兄である国王陛下が王子を立太子するかもう一人王子が生まれるまで勝手もできない。
けれどそのつもりで根回しをしておくことはできる。
むしろ根回しをしておかないとスムーズに話が進まない。
ままならない身を面倒に思いはするが必要なことに手を惜しむつもりはない。それが王族に生まれた者の義務でもあるし、好きになれる女と共にいられる未来のためなら頑張り甲斐がある。
「だから、関係が変わることを許してくれるか?
そうすればこの想いを捨てることなく育てられる」
どうかこの想いを育てても良いと、迷惑なものじゃないと言ってほしい。
「育てる……」
「一方的に押し付けるつもりはないんだ。
望まないのであれば、……今ならまだ諦められる」
苦い感情を抑えて諦めるとはっきり口にする。
だから、グレイスが断るのなら話はここで終わりだ。
学園で顔を合わせたときにはちゃんと友人に戻る。
それが俺にできるけじめだ。
「殿下が連れて来ている護衛の方……。
あの方は殿下に近しい信頼できる方ですか?」
なぜか別の男のことを口にされた。
まさかあいつが気に入ったのか!?
しかしあいつは妻帯者なんだが……。
今回令嬢二人と一緒の旅路ということで万が一にも醜聞にならないような人選だ。
「グレイス、あいつは妻帯者だぞ?
少し真面目過ぎるがいい奴だし信頼しているけどな」
「なら尚更丁度良いですね」
発言の意図がわからなくてグレイスの方を見る。
ようやく視線が合いましたとふわりと微笑むグレイスに言葉が次げなくなった。
俺を見つめる瞳があまりに慈愛に満ちて、美しかったから。
「殿下に送っていただけるのは光栄ですが、馬車に二人きりにはなれません。
私のことだけでなく殿下の評判にも関わることですので。
けれど、護衛の方も一緒であれば問題ないですよね?」
グレイスの言葉を理解するのに少し時間を要した。
いや、理解はしているのに都合のいい妄想なんじゃないかと自分を疑っている。
二人きりでなければ領地まで送らせても良いと思っている。それは――。
「せっかくなので長い道中作戦会議でもしましょうか。
殿下直々に送ってくださったとなれば父もお礼を言わずにはいられませんし、それまでにこれからの道筋を描いておきませんと」
ね?と微笑む顔は少しの照れを滲ませ、俺を真っ直ぐに見ていた。
ぐっと拳を握って額に当てる。
「ルークのやつはずっとこれに耐えてたとかマジか……」
まだ大手を振って想いを告げられる関係になったわけじゃない。
それなのに未来を共に歩むための話をしようと言われただけでこれほど胸が騒ぐとは思わなかった。
触れたいし想いを告げたい、何なら大声で叫んで周りに牽制しまくりたい。
「ダメだ俺……」
頭を抱えた俺にどうしたんですかと柔らかいけれど心配そうな声が降ってくる。
額を押さえたまま顔を傾けてグレイスを見つめる。それだけで胸がぎゅん!と掴まれたように暴れ出した。
「俺、自覚してるよりずっと育ってたみたいだ……」
恥ずかしい。あんなに断られたら諦めるなんて言ってたのに今はどうやったら諦められると思っていたのか、もうわからない。
羞恥に顔も赤いだろうし瞳まで潤んでる気がする。情けなくて消えたい……。
けど、視線を合わせていたグレイスの顔が赤く染まっていくのを見て。
ますます側にいたい気持ちが強くなる。
「頑張るわ、俺」
まずはグレイスのお父上に受け入れてもらえるよう作戦を練らないとな。
あとグレイスの側で平静でいられる自信ないから護衛で来てるあいつにも話をして協力してもらわないと。
隣にいられる身分になるまで、溢れそうな気持を宥めつつ関係を確かなものにしていこう。
頬を染めたグレイスが頷く。
フェリシアが聞いたらなんて言うだろうな。
別れではなく再会の約束をしよう。
いつか今日のように俺たちを祝ってくれと。きっと喜んで了承してくれるだろうから。
浮かれた頭でそんなことを考える。
二人で顔を赤らめて笑い合っている俺たちに話しかけてくる猛者はもういなかった。
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