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〜甘い学園生活送ります〜

目立ちたがりの王弟殿

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大教室に入って教壇が見やすそうな席に座る。
初日とあって談笑している者は少ない。
ふと斜め前の席の女の子と目が合ったので微笑みかけると一瞬訝しげな顔をした後、はっと目を見開いた。
昨日もこうして微笑んだなと思いながら気づいてくれた彼女ににこっと笑いかける。
偶然にも入学式でも同じような位置に座っていた。
この領地経営学を専攻するからには彼女も私と同じように後を継ぐ立場なんだろう。
気安く話ができる関係になれたらいいな。
入学して最初の講義だからか教室には少しの緊張感と高揚感が満ちていた。

「この教室に黒髪の男はいるか!」

と、空気を破るような鋭い声が入口から飛んできた。

黒髪、と私に視線を向けた男子生徒が戸惑った顔で入口に視線を戻す。
一瞬集まった視線にお前かと怒鳴りずかずかと近づいてくる。
足音は幾つか机を挟んだ場所で乱暴な音を立てて止まった。

「昨日の入学式で騒ぎを起こして邪魔をしたのはオマエだな!
俺より目立ちやがって!」

金髪に赤い瞳でこちらを見下ろし、覇気に満ちた堂々たる様子で私への不興を口にする。
言い変えるとすごく偉そうな感じで文句を言われた。
無視することもできないし、座っているのも失礼だろうと立ち上がり机の横に立ち制服の裾を摘まんで礼をする。

失礼がないよう丁寧に行った礼に周りが静まり返る。
顔を上げると文句を言っていた相手は顔を赤くして口を開けていた。

「入学早々王弟殿下よりお声がけいただけるとは光栄なことですが、私が何か殿下の妨げになることを致しましたでしょうか」

王弟殿下など雲の上の人間との面識などあるわけもなく、不思議に思う。
騒ぎを起こしたと言っていたのは聞こえた。起こしたのは私ではないけれど。

「お、オマエ……。
その格好はなんだ?」

「ごく普通の指定制服ですが」

特にアレンジも加えていないただの制服だ。
王弟殿下が他者を指差すほど驚くものではない。

朝、ちゃんと鏡で見てシワや糸くずが付いていないか確認してきた。
髪だって派手にならないよう少しだけ編み込んで後は背中に流している。
リボンは着けているけれど、暗い色の物一本くらいならおしゃれとして許される範囲だし、私の黒髪には合っている。というか暗い場所では同化しそうなくらいの色味だ。私の瞳よりも深い紫色にルークが喜んでいた。

「化粧は身だしなみなので止めろと言われるのは困りますよ?
女子生徒みなが」

いかに王弟殿下といえどそのような横暴を口にしたら学園中の女子生徒から敵だと認定されるに違いない。

「違う!
なんで女の制服を着ているんだ!
その髪は!」

「指定制服であればどちらを着ても構わないのですよ?
強いていうなら男子の制服を着ている理由がなくなったので、今日は女子の制服にしてみました。
髪はカツラです」

切った髪で作ったカツラのおかげで髪を結うのが楽しかった。
人の髪を結うみたいにできるので器用ではない私でも綺麗に結える。

「ふざけるな!」

私のふざけたような回答に殿下が怒りの叫びを上げた。
でも本当のことなのですよ。

「一応女子の制服、男子の制服と言い表していますけれど、どちらの制服を着用すべしなどという記載は学園の規則にありませんし、過去には王族の男性が女子生徒の制服を着て通っていたこともありますよ」

殿下が愕然とした表情をした。誤解させたことに気づき言い添える。

「80年くらい前のことですが、隣国アルストリアの王族の方が。
その当時は身体の弱い御子は性別を逆に育てると丈夫に育つという言い伝えがあったそうですね」

その時の名残なのかどうかは知らないけれど、確かに今もこの学園の規則では制服の着用は義務づけられていても、『誰が』『どの』までは指定されていない。

「オマエ、俺を馬鹿にしているのか。
昨日の騒ぎもそうだし、重ねて今日まで俺の邪魔をするとは……」

「騒ぎの渦中にいたのは確かですが、私が騒ぎを起こしたわけではないのでそう言われても困ってしまいます。
それに、邪魔とはなんのことでしょうか?」

心当たりがないのですがと続けると王弟殿下の額に青筋が増えた。

「王族が入学したら普通その話題で持ち切りのはずだろ!
なんでオマエの方が話題を集めてるんだ!
おかしいだろ!!」

ええー、と教室の中にいる全員の声が聞こえた気がした。

「しかも今度は女装だと……?!
そうやって女子に取り入るつもりか!」

話の方向がおかしくなってきた。
これ以上続けるのは殿下のためにならなそうな空気を感じる。

「友人は欲しいですが、取り入ったと言われてしまう関係になるつもりはありませんよ」

気軽に話ができればそれで十分だ。

「モテる奴は皆そう言うんだ、それがオマエらの常套手段だからな。
そんなつもりはない?
わざわざ女装して女子に混ざろうとしておいてどの口が言う!」

え、そこ?
勘違いの根本がまだ正せてなかった。

「殿下、殿下。 私、性別は女性なので。
女装して女子に混ざろうとしてる不届き者扱いは止めてほしいです」

女性だと告げた途端、殿下が固まる。
そんなに疑いなく男性だと思われるほど似合っていたのなら男装して身を守るのは良い作戦だったようだ。
勘違いだったことがわかり、殿下の顔が真っ赤になる。

「とにかく! 俺の婚約者探しの邪魔はするなよ!」

そう叫んで教室を飛び出していった。

「……ああ、邪魔ってそういう」

なるほど、と呟いたのは誰だったのか。
叫びの余韻が残る教室で、何人かは思ったことだろう。

あれはモテないだろうな、と。

っていうか殿下この講義取ってたんじゃないの?
本当に文句を言いに来ただけだったのかと思いきや、2回目の講義の時は普通に参加していた。
目が合ったら顔を真っ赤にしたので、前回は羞恥に耐えられなくて飛び出したのだと判明した。
学園に通っている中で一番高貴な方がモテたい欲に正直な少年だと判明し、男子生徒たちは気安い関係を築けているらしい。
女子生徒はあれが可愛いという派と、あれはないでしょという派、もっと羞恥を与えてワナワナさせたい派に分かれているらしかった。
肯定的な意見の方が多いので、殿下の婚約者探しの見通しはまあまあ明るいようだ。


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