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団長&副団長 × アミル
助言なのか罠なのか
しおりを挟む初討伐の日から団長は普通に接してくれるようになった。
カイルと言い合いしている姿を見たからか僕も気負わずに接することができている。
あんな子供みたいに治療を嫌がって暴れて言い合いをするなんて、想像もしない姿だった。
親しみが湧く姿を思い出し笑みを漏らす。
「アミル、考え事?」
「わあっ!」
急にひょいっと覗き込まれて声を上げる。
驚き過ぎだよと文句を言うカイルだけど、夜に訓練場の片隅で人に声を掛けられたら驚いて当然だと思う。誰もいないと思っていたのに。
カイルを見ると剣を手にしている。
「一人で訓練ですか?」
珍しい。カイル一人で訓練をしているところは見たことがない。
しかもこんな夜に。
不思議に思っているとカイルが意味ありげに笑い、嫌な予感を覚える。
「アミルが相手してくれないからさー、発散しとこうと思って」
初討伐の日はカイルが団長に捉まっていたせいか誘われずに済んだ。
運が良かったと思う。
あの日に誘われたらきっと断れなかった。
高揚は未だ燻るように身体に残っている。
「っていうかアミルは大丈夫なの?」
見透かしたようにカイルが問いを向ける。
答えにできた間はそれが真実ではないと表すようだった。
「……大丈夫です」
「そう……?」
薄い笑みを見せるカイルには僕の虚勢なんてわかっているんだろう。
今はね?と言いたげな瞳を見ていられなくて視線を逸らす。
いっそ飲み込まれたら楽になれるかもと考えてしまう自分が嫌だった。
「せっかくだから手合わせしようか」
剣を持っておいでというカイルを見つめ返す。
早くと言われて剣を取りに駆ける。
戻ってくるとカイルは準備運動なのか素振りをしていた。
流れるような剣の動きに見惚れる。
カイルの剣は本当に綺麗だ。
型通りの動きなのにただ型をなぞるのとは違う、説得力。
一通りの型が終わるまで動けなかった。
型を終えたカイルがアミル手招きし剣を構え向かい合う。
「アミルはまだ夜の討伐には行ったことないよね」
「はい」
夜は討伐の危険度が増すためアミルのような見習いや新人には回ってこない。
緊急度も高いため実力のある少数精鋭で向かうもので、当然カイルや団長は何度もこなしている。
「夜の討伐を危険にすることの一番は何かわかる?」
一番、とカイルの問いに眉を寄せる。
暗闇や魔獣そのものもそうだろうけれど、わざわざ問われると悩む。
答えを待たずにカイルは言葉を続けた。
「恐怖だよ」
「……恐怖」
そう、と笑みを深める。
「どこから魔獣が襲ってくるのかわからない恐怖、暗闇のそこかしこに魔獣が潜んでいるのではないかと風で揺れる木の葉の音にすら恐怖する」
淡々とした語り口がじわじわと恐怖を煽る。
そこで平常心を保てないような者は連れていけないのだろう。パニックにでもなれば本人だけでなく周りも危険だ。
「そこで平静を保つ方法はなんだと思う?」
少し考えて口にする。
「よく周りを見ることですか?」
「んー、大事なことだけど少し違うかな。
見てるつもりで想像ばかり働かせて恐怖に縮こまっちゃう奴もいるしね」
当てられなかったことに若干の悔しさを覚えながらカイルの答えを待つ。
そんな特別なことじゃないんだけどねと正解を教えてくれた。
「慣れ、だよ」
「慣れ、ですか」
そうと答えるカイルはからかっているつもりはないらしい。
確かに慣れが作る安心は大きい。普通の答え過ぎて肩透かしをされた気分だったが繰り返すと不思議とすっと心に落ちてきた。
「そうだよ。
知らない、わからないから怖いし、いつもと違う状況に迷いが生まれる。
だからアミルも慣れておくといいよ、知っているかそうでないかだけで変わるから」
ちゃんとした助言だったことに神妙に頷く。
いつかはアミルも夜の討伐に出ることがあるだろう。
今この助言をもらえたのはきっと未来の糧になる。
そんな風に先のことだと考えていたアミルの考えは一瞬で打ち砕かれた。
「だから、簡単に音を上げないでね?」
そう告げると共にカイルの姿が掻き消えた。
咄嗟に構えた双剣で降ってきた剣を受け止める。
「……くっ、ぅっ!」
重い――!
かろうじて防げた一撃を弾き距離を取る。
「――!」
離れた距離を一瞬で詰められ放たれた突きを大きな動作で避ける。動揺に体勢が崩れたのが自分でもわかった。
「――っ!!」
続けざまに放たれた突きを構えた剣で軌道を逸らす。手を襲った衝撃に違和感を覚える。
片剣が弾かれ、口の端を吊り上げたカイルにわざと剣だけ弾かれたのだと察した。
ゴウッと激しさをもって振り下ろされる剣がアミルを襲う。
先ほどのように距離を取る隙さえ与えない。
間近で感じた死の気配にぞわっと総毛立った。
残った片剣でカイルの攻撃を受け止める。
両手で持っているのに剣を取り落としそうなほど重い一撃だった。
なんとか防いだけれど反撃を考えることもできずに足が勝手に下がろうとする。
――ダメだ。
カイルの目が冷酷に細められたのを見て足を止めた。
逃げたらダメだと強く感じる。
なぜかはわからないけれど、ここで引いたら終わりだと。
カイルの挙動に集中し、剣を握り直す。
風が吹き初動の足音をかき消した。
振り下ろされた攻撃を横に受け流し、開いた脇腹を狙う。
ふっとカイルの姿が消えた。
ひたっと首に当てられた感触に動きを止め、手を上げる。
完敗だった。
「参りました」
降参を告げると当てられていた剣の腹が引かれる。
バクバクと鳴る心臓は、未だ危険と恐怖を伝えていて気持ちが悪い。
「惜しかったけど、悪くない動きができた方だね」
良い良い、と褒めるカイルにまだこっちの感情はついて行かない。
「俺の動きが見えづらくなったことで攻撃を避ける動きが崩れた。
避ける動作が大きすぎたの自分でもわかったでしょ?」
「はい」
頷いて失敗を思い返す。
見づらさと焦りからいつもより大きく避けてしまった。
「攻撃は全部防げてたし、最後も逃げないでよく見てた。
ちゃんと集中したら俺の挙動が見えたでしょう」
首肯して全部カイルの思惑通りに動かされたのだと悔しさを通り越して感心を覚える。
追い詰めるためにわざと片剣を弾き攻撃の手を減らしその上でアミルがどう行動するのかを見ていた。
『最後まで戦う意思を捨てないかどうかで生き残る人間は決まる』
前に言っていた言葉が頭に浮かぶ。
その言葉を実践で味わせられた気分だ。
先の話だと油断するなと。
素直に感謝をする気にならないのは全部カイルの手の平で踊らされたのが癪に障るからだろうか。
「卑怯ですよね」
「え? 嫌なら逃げても良いよ」
恐怖と戦いの高揚。
討伐の後に感じるそれと似たものを浴びせられ、燻っていた火種を煽られた。
カイルの笑みが深くなる。
アミルを手合わせに誘ったときからこのつもりだったんだろうか。
逃げて良いと口にしながら、その目は逃がす気はないと言っていた。
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