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支配欲
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「っ!?」
それは突然のことだった。
一日の授業を終え廊下を歩いていると、いきなり後ろから誰かに強く首輪を引っ張られた。
悲鳴を上げる間もなく近くの教室の中へ連れ込まれ、どんどん教室の隅まで追いやられる。
「…よぉ……竜前のペット。」
バンッと荒々しく顔の両横に手をつかれ、恐る恐る顔を上げると、そこには至近距離で俺を見下ろす性根の腐った飼い主…黒沼樹がいた。
「っ、くろ…ぬま…」
「久しぶりだなァ…あー、お前名前なんつったっけ?……か……かな…かなで?」
「……、…」
距離を取ろうにも後ろは壁。
教室内に他に人はおらず、逃げ場はない。
「……離れ、ろ…」
「ククッ…嫌だね」
「っ……凪の、…許可無く俺に触るのは、校則違反だろ…」
「あ?触ってはねーだろ」
「……」
たしかに、触れてはいない…が、
「…逃げられないように、してるじゃねぇか……クソ野郎…」
「へぇ…顔に見合わず、意外と口悪ィんだなお前」
「………何の、用だよ…」
「話してーだけ。竜前がいると邪魔なんだよなァ」
「…」
「この前は嵌めちまって悪かったな。怒んなって。ああでも言わねーとあいつお前のこと捨てなさそうだったし、しょうがねぇだろ」
あまりに自分本位の謝罪に腹が立ち、恐怖心を堪えキッと睨み上げる。しかし目の前の男はニヤッと口角を上げ更に距離を詰めてきた。
「…まじで好みなんだよなァお前……見た目は完璧…気が強ェーのも悪くねぇ……なぁ、竜前より可愛がってやるから、俺のモンにならねぇか」
耳元で囁かれたその瞬間、制服のポケットに入れておいた俺のスマホのバイブが突如として震えた。
ヴーッヴーッと繰り返し振動するそれ。
手を差し入れ画面を確認すると、主人からの着信だった。
「竜前か?」
問われ、ゆっくりと頷く。
「チッ…エスパーかよあいつ。キッショ」
「…」
…主人に、助けを求めるべきだろうか。けれどまた誤解されるかもしれない…
「スピーカーにして出ろよ。止めねーから」
ニヤニヤと愉快そうな男はこの状況を楽しんでいるらしい。
この男の残虐性は藤白本人からも聞いていたし、実際に幾度となく目撃もしている。
このままこの男と、二人でいるよりは…
逡巡の末、スピーカー機能をオンにして応答した。
「……は、い…」
『奏多?』
「っ…」
『今どこ?さっきから君の部屋のインターホン押してるんだけど。部屋にいないの?』
「……」
『ねぇ…まだ学校?』
「……」
『何で答えないの?何かあっ…』
「今は俺と一緒だ」
『っ!!……今の声もしかして黒沼?…一緒に居るわけ?…おい、居るなら返事しろ、黒沼。』
「へーへー居ますよー」
『…俺、次また奏多に何かしたら許さないって言ったよね?言葉も理解できないほど馬鹿なわけ?』
「うっぜーな、何もしてねーよ。ちょっと話してるだけだろうが。」
『…今どこ』
「あー、校舎2階の…空き教室。科学室の横の。お前も調教で使ったことあるなら知ってるだろ」
直後、スマホ越しにバタバタとしたノイズが響いてきた。
『っ…奏多、すぐそっち行くから動かないで。電話も繋げたままにして。黒沼、奏多に触らないでよ』
「しつけーな触んねぇよ。何かしたらお前また先公に告げ口すんだろーが」
スピーカーの向こうから聞こえるのは主人の駆ける足音と荒い呼吸音だった。
「良かったなぁ。飼い主様が迎えに来てくれるってよ」
「……」
ニヤニヤとした黒沼の視線に耐えることしばらく。廊下からもバタバタとした足音が聞こえ、直後息を切らせた様子の主人が扉を開けて現れた。
主人は俺の姿を確認すると、黒沼に鋭い視線を投げる。
「お前まじでふざけんなよ……おいで奏多。帰るよ」
「…あぁ」
主人は俺の腕を掴むと直ぐさま踵を返した。その背にかかる声は、当然黒沼のもので。
「なぁー竜前。」
「話しかけないで」
「そう言うなって。こいつ、間宮には貸したんだろ?」
「…だったら何」
「交換条件ならいいだろ?俺のペット好きにしていいからよォ、俺にもこいつ貸してくれよ」
「っ……」
「俺のペットはお前のペットほどじゃねーけどツラも悪くねーし、調教済みだ。何時間でも何日でも好きにしていい。だから、」
「悪いけど君のペットには一ミリも興味ない。それにもう玲にも奏多は貸さないし、ましてやお前になんか絶対触らせないから。潔く諦めてよ」
取り付く島もない主人の拒絶の言葉に、黒沼はチッと盛大に舌打ちをした。
「…そーかよ。(…結局駄目なんじゃねぇか)……んじゃ、また2人で話そうぜ。奏多ちゃん」
いつかのときと同じように、俺に向かってひらひらと手を振る黒沼。
「っ…」
「死ね」
主人は黒沼に向かって吐き捨てると、勢いよく扉を閉めた。
そして俺の手を引きスタスタと廊下を歩きだす。
掴まれた手は痛みを感じるほどではなかったが、主人が苛立っていることは明白だった。
「…凪…」
「部屋まで送る。そこで何があったか話して。」
それは突然のことだった。
一日の授業を終え廊下を歩いていると、いきなり後ろから誰かに強く首輪を引っ張られた。
悲鳴を上げる間もなく近くの教室の中へ連れ込まれ、どんどん教室の隅まで追いやられる。
「…よぉ……竜前のペット。」
バンッと荒々しく顔の両横に手をつかれ、恐る恐る顔を上げると、そこには至近距離で俺を見下ろす性根の腐った飼い主…黒沼樹がいた。
「っ、くろ…ぬま…」
「久しぶりだなァ…あー、お前名前なんつったっけ?……か……かな…かなで?」
「……、…」
距離を取ろうにも後ろは壁。
教室内に他に人はおらず、逃げ場はない。
「……離れ、ろ…」
「ククッ…嫌だね」
「っ……凪の、…許可無く俺に触るのは、校則違反だろ…」
「あ?触ってはねーだろ」
「……」
たしかに、触れてはいない…が、
「…逃げられないように、してるじゃねぇか……クソ野郎…」
「へぇ…顔に見合わず、意外と口悪ィんだなお前」
「………何の、用だよ…」
「話してーだけ。竜前がいると邪魔なんだよなァ」
「…」
「この前は嵌めちまって悪かったな。怒んなって。ああでも言わねーとあいつお前のこと捨てなさそうだったし、しょうがねぇだろ」
あまりに自分本位の謝罪に腹が立ち、恐怖心を堪えキッと睨み上げる。しかし目の前の男はニヤッと口角を上げ更に距離を詰めてきた。
「…まじで好みなんだよなァお前……見た目は完璧…気が強ェーのも悪くねぇ……なぁ、竜前より可愛がってやるから、俺のモンにならねぇか」
耳元で囁かれたその瞬間、制服のポケットに入れておいた俺のスマホのバイブが突如として震えた。
ヴーッヴーッと繰り返し振動するそれ。
手を差し入れ画面を確認すると、主人からの着信だった。
「竜前か?」
問われ、ゆっくりと頷く。
「チッ…エスパーかよあいつ。キッショ」
「…」
…主人に、助けを求めるべきだろうか。けれどまた誤解されるかもしれない…
「スピーカーにして出ろよ。止めねーから」
ニヤニヤと愉快そうな男はこの状況を楽しんでいるらしい。
この男の残虐性は藤白本人からも聞いていたし、実際に幾度となく目撃もしている。
このままこの男と、二人でいるよりは…
逡巡の末、スピーカー機能をオンにして応答した。
「……は、い…」
『奏多?』
「っ…」
『今どこ?さっきから君の部屋のインターホン押してるんだけど。部屋にいないの?』
「……」
『ねぇ…まだ学校?』
「……」
『何で答えないの?何かあっ…』
「今は俺と一緒だ」
『っ!!……今の声もしかして黒沼?…一緒に居るわけ?…おい、居るなら返事しろ、黒沼。』
「へーへー居ますよー」
『…俺、次また奏多に何かしたら許さないって言ったよね?言葉も理解できないほど馬鹿なわけ?』
「うっぜーな、何もしてねーよ。ちょっと話してるだけだろうが。」
『…今どこ』
「あー、校舎2階の…空き教室。科学室の横の。お前も調教で使ったことあるなら知ってるだろ」
直後、スマホ越しにバタバタとしたノイズが響いてきた。
『っ…奏多、すぐそっち行くから動かないで。電話も繋げたままにして。黒沼、奏多に触らないでよ』
「しつけーな触んねぇよ。何かしたらお前また先公に告げ口すんだろーが」
スピーカーの向こうから聞こえるのは主人の駆ける足音と荒い呼吸音だった。
「良かったなぁ。飼い主様が迎えに来てくれるってよ」
「……」
ニヤニヤとした黒沼の視線に耐えることしばらく。廊下からもバタバタとした足音が聞こえ、直後息を切らせた様子の主人が扉を開けて現れた。
主人は俺の姿を確認すると、黒沼に鋭い視線を投げる。
「お前まじでふざけんなよ……おいで奏多。帰るよ」
「…あぁ」
主人は俺の腕を掴むと直ぐさま踵を返した。その背にかかる声は、当然黒沼のもので。
「なぁー竜前。」
「話しかけないで」
「そう言うなって。こいつ、間宮には貸したんだろ?」
「…だったら何」
「交換条件ならいいだろ?俺のペット好きにしていいからよォ、俺にもこいつ貸してくれよ」
「っ……」
「俺のペットはお前のペットほどじゃねーけどツラも悪くねーし、調教済みだ。何時間でも何日でも好きにしていい。だから、」
「悪いけど君のペットには一ミリも興味ない。それにもう玲にも奏多は貸さないし、ましてやお前になんか絶対触らせないから。潔く諦めてよ」
取り付く島もない主人の拒絶の言葉に、黒沼はチッと盛大に舌打ちをした。
「…そーかよ。(…結局駄目なんじゃねぇか)……んじゃ、また2人で話そうぜ。奏多ちゃん」
いつかのときと同じように、俺に向かってひらひらと手を振る黒沼。
「っ…」
「死ね」
主人は黒沼に向かって吐き捨てると、勢いよく扉を閉めた。
そして俺の手を引きスタスタと廊下を歩きだす。
掴まれた手は痛みを感じるほどではなかったが、主人が苛立っていることは明白だった。
「…凪…」
「部屋まで送る。そこで何があったか話して。」
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