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一難去って――

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「――そうか。また何か分かった事があったら報告してくれ。それじゃあ…」

ピッと黒崎は通話を切ると薄い笑みを浮かべながら窓の外を見つめる…

―――やはり――
   俺が如月さんを攫った事に“アイツ等”…相当焦っている様だな…
   ま、無理もないか。

黒崎がポケットから煙草を取り出し、ジッポで火を点ける

―――今までは簡単に捕まえられると思っていた一介のホームレスが――
   今じゃそう簡単には手を出せない
   “ヤクザの総本山”に捕らわれちゃってるんだから…

黒崎がパワーウィンドウを下げ、煙を外へと吐きだすと
運転手に「出せ。」と短く告げ
黒崎を乗せた高級車はゆっくりと路肩から動きだす

―――どんな気分だ?
   “お前”があれこれ画策し――陥れてでも手に入れようとしていた人物が…
   途中から現れたトンビにいきなり掻っ攫われ
   そのまま手の届かない場所へと連れ去られた気分は…

黒崎は耐えきれずにクックックッと喉を鳴らして笑いだす
   
―――さぞ悔しいだろーなぁ~…wけど――
   オメーにだけは絶対に渡さねーよ…?


   元秘書の霧谷さんよ…


黒崎は流れる外の景色を見ながら、ほくそ笑むと
如月の今の様子が知りたくて
自分が留守の間の世話を任せた柳葉に電話をかけ始めた…





―――迷った…

如月は屋敷の二階の廊下から窓の外を眺めながら途方に暮れる

―――考えなしに…出歩くもんじゃないな…人の家は…

まさか家の中で迷子になるなんて思ってもみなかった如月は
そのまさかの事態に苦笑を浮かべる

―――さて…どうしたものか…

如月は窓に手を添えながら小さく溜息をついた…

事の発端は食後…と言っても卵焼きを半分食べたところで
屋敷内を自由に見て回ってもいいという柳葉の言葉を思いだし

如月はこんな自分のようないい歳をした男が
女物の浴衣を着て出歩いているところを他の誰かに見られるのは嫌だったが――
自分が犯された部屋に一人でいるのは流石に気が滅入り…

どうせこの屋敷に居る者達は皆黒崎の配下で
自分が昨日、散々黒崎に“何か”をされた事は知れ渡っているのだろう…と
腹を括り

如月は気分転換に未だ節々が悲鳴を上げる身体に顔を歪めながらも
ベッドから下り、ドアを開けて辺りに人がいない事を確認すると
恐る恐る部屋を後にした…

その後暫く一階部分を如月が見て回っていると
廊下の先にスーツを着た男2人が現れ――

「おい、あそこにいる人って――」
「シッ!声が大きい!
 それにしても――女物の浴衣か…?アレ…」
「ッ、」

如月は2人の話し声に居ても立っても居られなくなりその場を後早々にするが
その後も行く先々で好奇の目に晒され

耐えきれなくなった如月は
逃げ回って居るうちに自分の居場所が分からなくなり、現在に至る…

―――何やっているんだろう私は…

こんな所で――と
如月は窓に手を添え、窓の外を眺めながら考え込んでいると――

「おや…これはまた――随分な別嬪(べっぴん)さんがいるじゃねーか…」
「ッ!?」

如月が突然の声に驚き、声のした方を見る
すると一室から出てきたばかりらしい紺の着流しを着た長身の男性が
如月の事を品定めするかのように見つめており――

「…お前さん…ひょっとしてアレか?
 弟が昨日連れ込んだっていう…」
「…弟…?」
「――まあいい…どうだい?アンタ…俺の部屋で一杯…」
「…いえ…私はあの――」

男性は端正な顔立ちに笑顔を浮かべてはいるものの――
如月は何だか目の前に居る男性が怖くなり、思わず後ずさる
しかし男性は急に如月に近づき、その腰を抱き寄せると

「まあまあ…そーいわずに…
 どうせアイツとの初夜はもう――済ませたんだろ…?」

男性は如月の耳元に唇を寄せながらそっと囁く

「…ッ!何をっ、言って――」
「アイツのようにはしつこくしねーから安心しろ。」
「ちょッ、」

如月は身を捩って逃げようとするが
自分の腰に回された男性の腕は振りほどけず…

「離して…っ!」
「諦めな。優しくしてやるから…」

男性は嫌がる如月をほぼ抱えるようにして近くの部屋に連れ込むと
後ろ手にドアを閉め
カチッと部屋の鍵を閉めた
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