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side ハスライト

2.2

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ー次の日ー


今日は俺のほうが早く政務が終わったので、ミュランの王太子妃教育が終わるのをいつものサロンで待つ。

するとドアがノックされた。
ミュランが入ってくる。


「お待たせいたしました、殿下。」


「あ、ああ。」


ミュランは婚約解消を告げたこないだと態度も変わらず俺の向かいの席に座る。
ミュランは綺麗な所作でカップに手をのばす。
今日はしっかりと話さないと。
そう思い咄嗟にミュランの手を握る。


「きゃっ」

「あ!…すまない、力加減を間違えた。」


少し強めに握ってしまったかもしれない。 
大丈夫だろうか…。


「い、いえ。どうされたんですか?」



「…昨日のことだが」


そう言うと、ミュランは少しだけ驚いた顔をした。


「婚約解消の件ですね。私はいつでも大丈夫です。」


まるですぐにでもしたいと言う感じだ。
自分のせいでこうなっているのだが、やはり悲しかった。


「…随分とあっさりしてるんだな。」


「当たり前です。殿下が真に好いている方との仲を邪魔したくありませんから。」

「お前は、その…俺を好いてくれてはいないのか?」

「もちろん尊敬はしております。ただ、それが恋かというと違います。殿下もそうでは?」

「お、俺は…」


もちろん好きに決まってる。
でも今恋ではないといったミュランにこの気持ちを押し付けていいのだろうか…。
ミュランは続ける。


「手紙のやり取りはもちろん、会話もあまりしてこなかったではないですか。今の方とは手紙のやり取りをしているんですよね?」

「い、いや、」


それを言われるとやはりきつい。
今までの自分の不甲斐なさを悔やむ。


「それがすべてです。私は殿下の恋の邪魔などしたくありません。どうか婚約解消をお願いします。」


ミュランはやはり婚約解消を願っている。
ミュランを想うならそうした方が幸せなのかもしれない。
でも、


「いやだ…」

「殿下?」


「婚約解消はしない。」

「な、なんで…」


ミュランは先程よりも驚いた顔をする。
そんなに俺も婚約解消を受け入れると思っていたのか?
最後に、チャンスをくれないだろうか…


「そうだな。俺も覚悟を決めるときが来たようだ。」

「は、はぁ…」


「これからは会えないときも手紙のやり取りをしよう。」

「い、いえ。それはその令嬢とすればよいのでは…」


やはり、俺が好いているのは違う令嬢だと思っている?
それが理由なら、まだ望みはあるか…?


「確かに俺には好いてる令嬢がいる。だから、その令嬢にこれから俺を好きになってもらいたい。」


「そうなんですね。頑張ってください。」

1ミリも自分だとは思ってないようだ。
それに少し悲しくなるが、それを利用しようと思った。
今よりももっとミュランといることで、俺の緊張も和らぐかもしれない。
そして素直にミュランに告白できるようになるかもしれない。
そのためには…。

「だから、お前に協力してほしい。」

「は?」


ミュランは心底わからないといった顔をしている。
だろうな。
俺も自分で何言っているかわからない。
それくらい君を引き止めるのに必死なんだ。


「俺はあまり話すのが得意ではない。愛を囁くのも難しい。その令嬢に振り向いてもらうために、力を貸してくれ。」


「わかりました。ではその令嬢に振り向いてもらえたらこの婚約はなかったことにしましょう。」


ミュランは呆れた顔をしていたが、了承してくれた。
昔から頼まれると断れない性格なのは変わってないようだ。
それに今はつけ込むしかない。
それでもミュランに好かれなかったら…そのときはミュランの望むようにしよう。


「ああ、ありがとう。よろしく頼む。」



こうして俺とミュランのやり取りが始まったのである。
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