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本編
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しおりを挟むそれからは会えないときも手紙のやり取りを行うことになった。
殿下の手紙は、その日の出来事、私の身を案ずる言葉、そして愛の言葉が書かれていた。
そしてリナリアの花を添えて。
「なんだか私に言われているように勘違いしてしまうわ。」
そういえば昔王宮の庭に咲いているリナリアの花を誰かと一緒に見た。
お父様だったかな?
そんなことよりお返事を書かなくては。
そのことを思い出すこともなく、殿下に返事を書いた。
なんだかやり取りをしているうちに、殿下の言葉はどんどんと直接的な言葉になっていった。
〃君に会いたい〃
〃君と話がしたい〃
〃君に触れたい〃
相手が私でなければ勘違いしていたであろう。
私ですらドキドキしてしまう。
そして殿下とのお茶会にも変化があった。
普段は私が一方的に話すことが多いのだが、殿下から聞いてくることも多くなった。
そして殿下が私を見る目も少し変わったように思う。
「今日はなにをしていた?」
「い、いつもと変わりありません。王太子妃教育をしておりました。」
「そうか、お前は優秀だと教師から聞いている。」
「ありがとうございます。」
今まで言われたこともなかったのに。
「そうだ、今度城下へ行こう。お前の好きなものが知りたい。」
「は、はい。でも、私のことを知っても意味ないのでは」
「そ、そうだったな。女性の好みがわかるように教えてほしい。」
そういうことか。
「わかりました。」
「では、詳細は後日手紙に書く。」
「はい。」
そうして殿下と出かけることになった。
「ここは今令嬢たちに人気のカフェです。」
「そうみたいだな。お前も好きで結構行くと聞いた。」
「そ、そうですね。私も気に入っております。」
「ではまた来よう。」
なんで、私の好みを知っているんだろう。
話したことなかったはず。
殿下とこうして来るなんて思っていなかったし。
カフェに入ると女性たちは一斉に殿下を見て顔を赤くする。
殿下は、表情を変えなくても綺麗な顔立ちをしているため人気なのだ。
そして私を椅子に座らせ、自分も腰掛ける。
紅茶を飲む姿でさえも様になっていて惚れ惚れする。
ふと、殿下が紅茶を一口飲んで
「美味しいな。」
微小だが微笑んだ。
その瞬間心臓が跳ね上がった。
え?え?
今までこんなことなかったのに。
なんでこんなに動悸が…。
「どうした?飲まないのか?」
「の、飲みます。」
殿下と初めて城下に行くから緊張していたんだ。
きっとそうだわ。
そう思い込んで紅茶に口づけ、心臓の高鳴りをおさえる。
「やっぱり美味しい…」
「今度の茶会はここの茶葉を使おう。」
「いいんですか?」
「ああ、好きなものを選ぶといい。」
「ありがとうございます。」
殿下は義務的なやり取りしかなかったが、今までもお茶会のケーキや茶葉は私の好きなものを選んでくれていた。
さりげない気遣いが私はとても嬉しかったことを思い出す。
このようなことをかの令嬢にもするのかしら。
そう思うとなぜか心の奥がズキッとした。
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