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本編
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しおりを挟むそれから、いくつかの重要施設を案内してもらった。
その中でわかったのは、王宮内は色々な国の伝統を受け継いでつくられていることが多いことだった。
ルークによると、かつての王族は様々な国から妃を娶っていたので、その時の妃が過ごしやすいようにつくられているそうだ。
より多くの国の伝統を受け継ぐことで、他国からの賓客も喜ばれるそうだ。
また、そこから新しいビジネスが始まることも少なくないらしい。
初めての王宮はとても興味深かった。
ただ、案内されるときに多くの人とすれ違う際、なぜか私を紹介してくださるのが不思議だった。
私とは一時だけの関係のはずなのに…
「すごく勉強になりました。けど仮初の婚約者なのにここまで内情を知っていてもよろしいのですか?それに私のことはあまり広まらないほうがよろしいのでは…」
「ああ、今後王宮に来ることも多くなると思うからむしろ知っておいてほしい。何かあったときも顔がわかると対応しやすいしね。」
なるほど。確かに私の顔がわかっていたほうが、もし何かあったときルークに繋げることができる。
「わかりました。お気遣いありがとうございます。」
ルークは曖昧な顔をして微笑む。
少しずつ、けれど着実に外堀を埋められているのだが、チュリが気づくことはなかった。
「じゃあ、お待ちかねの厨房へいこうか。」
「!!!はいっ!」
王宮も興味深かったが、チュリの一番の目的は料理である。
どんな料理が私を待っているのだろう…
わくわくが止まらないチュリであった。
「ついたよ。」
「わぁ…」
王宮の厨房なだけあってチュリの家の厨房の数倍の広さだった。
「ロン。こちらがリーヴェン侯爵令嬢で私の婚約者のチュリだ。チュリ、こちらはうちの料理長を努めているロンだ。」
「はじめまして。チュリ・リーヴェンです。宜しくお願い致します。」
「ご丁寧にありがとう御座います、チュリ様。ロンと申します。厨房に来たときは何なりとお申し付けください。」
一通り挨拶が済み、ルークが話す。
「ロン、頼んでおいたものを。」
「かしこまりました。ただいま。」
そう言ってロンが持ってきたのは、まだ見たことがない異国の料理。
茶色くてドロドロした液体の中に野菜や肉がゴロゴロと入っていた。
初めて見る料理に驚いていると、
「こちらは南西から伝わって来たルゥと言うものに野菜と肉を入れて煮込んだものです。パンと合わせて食べられると美味しいです。どうぞ」
一般的にはこんなドロドロした液体など好んで食す人はいないでしょう。
だから私が選ばれたのね。
見た目がどんなに食べれるものじゃなくても一度は口にしてみたいと思うもの。
「いただきます。…!!これはすごく辛味が聞いてて、でもお野菜が甘くてとても美味しいわ!!」
「っ!!ありがとうございます!」
「これはロンの創作なんだ。何も言わず食べてくれたのはチュリが初めてだよ。」
「まあ、こんな美味しいものを見た目だけ判断して食べないだなんておかしいですわ。」
「ああ、そうだね。チュリはやっぱり素敵な人だ。」
そう言ってルークは目を細める。
「?」
話が噛み合ってないと思うが、チュリは目の前にある食べ物に夢中でそこまで考えることができなかった。
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