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冬の短歌

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鐘の音聞きつつ書いた年賀状夜明けの神社で君に手渡す

ヤドリギの下じゃないけど君とキス強いて言うなら「目が合ったから」

いつまでもコスモクロック撮る君にまだ教えない「0時消灯」

四ヶ月ツイートのないあの人へ「あけおめです」の送信待機

幸せが何かはイマイチ分かってないでも君といるとなんかほっこり

「食べる?」とも聞かずにみかんを割った手に愛を見つけたような気がした

「長すぎて引かれるかな」と削っても削ってもまだ長すぎるLINE

意味もなくふざけたスタンプ送ったら君からはもっとふざけたスタンプ

使い時分からなすぎるスタンプも君には送るよ、お互い様だし

年7で長文会話する仲も「ねーヒマ」とだけ送る仲もある

グダグダとダベってたのに突然の「もうすぐ誕生日じゃん、おめでとう」

なんとなくでつるんで今年で16年進歩がないのも悪くないかも

7年前2秒で決めたアカ名で本名よりも呼ばれた今年

誕生日登録してないのに「ハピバ!」愛って意外と身近なもんかも

「ごめんけど何言ってんのか分からない」「大丈夫、私も自分で分からん」

会った日を数えてみたら年3回もっと会ってた気がするけどなあ

このメアドいつどこで会った誰だっけ思い出せない…まあ残しとこ

見た途端「これあの人にも教えよう」これって愛なんじゃね、知らんけど

好きな色着るとやっぱりアガるよね似合うかどうかはまあ置いといて

来年もその翌年もその次も何だかんだで何とでもなる

「元彼がこの県出身だったなあ」それ以上でも以下でもない土地

大人にも背伸びをしたい時があるたとえば6つの姪っ子の前

新しいリップがめちゃくちゃ似合うから今日という日の私は最強

動かした箪笥の裏から謎物体思い出せない…マジで何これ

強がりをまぶして丸めて呟いて一晩おけばそれが真実

昨日より前進した気はしないけど茶がうまいから今日もまあ良し

「なんか今日良いことありそう」起き抜けに根拠はないけどそう思った日

連絡の取れなくなった友だちがライブで弾いてたあの曲が好き

口実が見つかったから即LINE駆け引きなんてやってられるか

ちゃんとした挨拶するのが照れ臭く折衷案の「あけおめござます」

高台の公園で皆が見る空にコンパス見ずとも「あっちが東」

「撮影者:わたし」でめっちゃ映え写真富士山てほんと全方位イケメン

「そんなには興味ないな…」は取り消します やり始めたらめちゃくちゃ楽しい

「帰宅中」一応送ったけど今日も既読付く前に家に着きそう

当然のように分け合う一番茶よく考えたら当然じゃないね

初日の出待つ人々の立ち姿 既視感の正体あれだ モアイだ

「都々逸か、知らんかったけどおもろいな」言ってた元彼どうしてるかな

ばったりと君に会うのは嬉しいができれば風の弱い日が良かった

美人とか可愛いとかではないけれど鏡で見るにはまあ良い感じ

「あんがとー」「あざます」「どもあ」砕きすぎ星くずみたいな言葉を交わす

ふと見たらポイント残高123意味はないけどなんかめでたい

ここでしか生きていけないわけじゃない離脱の準備は常に万端

陰口も仕事の愚痴も出ない席 それより今の推しどんな人?

去年から進捗ないけどまあいっか何だかんだで何とかなったし

短歌ってそもそもどんなものだっけまあ文字数に収まればいいか

年末に会うはずだった友人に渡せなかったクッキーをかじる

カメラ越し星燃やす眼に射抜かれて落ちるというより「アイドルすごい」

君のため子やぎの和毛の手ざわりの語彙を紡いで毛布を織りたい

またひとつ積み重ねていく年齢をカラットで数えるこのノリが好き

なんとなく心が濁る朝だから澄んだ紅茶に練乳を溶く

君がいることで救われはしないけど私を救おうという気になれる

温かな泥濘に似た眠りから覚めて君待つ朝へ駆け出す

言の葉の種は尽きたと思えてもまた芽吹くから泣く暇がない

どんな色かたちの芽が出て花ひらく名知らずの種の無限大の夢

やさしさで染めたことばで糸つむぎその織布ごと抱きしめたい人

書くことは倦み疲れてもやめられない その夢の果てを見たい限りは

(アステカ神話)
死に堕ちた光を慕い血を注ぐ亡き王国の祈りのこころ

(アステカ神話)
「朝がまた来るのは当然ではない」と教えた神話が胸に染む夜

さびしさにTwitterひらき眺めればだれかさん達の「なう」のモザイク

化粧したくらいでそうそう変わらない期待せず見た鏡に「……誰これ?」

慣性の法則だけならここにいない誰より自分に証明したい

常日頃笑って諌める役柄の友が誰よりはしゃいでいる日

産声を待つ人々の静けさで東を望むはじまりの朝

どんよりと心曇る日は憂鬱を味わいながらぬるい湯を飲む

刺々しい言葉吐きそうな口のなかあめ玉のような闇を転がす

いきものの温度に近い湯たんぽを幼獣のように膝の上に抱く

待合の片隅に育つ親近感私と似ている咳してる人

学童の頃から通う病院の古びた時計がいつも歌う曲

動物の話の輪の中推し量る「カナヘビ大好き」言える空気か

臆病な心配性を変えたくて胸に育てるガストンごころ

寒いねと話しかけたらユーモアを返してくれたSiriに胸キュン

往ぬる逃げる去る四半期のその前も師走で冬とは駆け通す時期

化粧する気概のない日は下地だけ塗ってなんとかなったことにする

何もかも疎ましくなる夜だから棚上げして寝て朝考える

愛着はそこまでないけど着やすくて前の辰年も知ってるコート

枯れ枝に隠れそこねた鳥影を撮ろうとしたけど即逃げられた

淑やかに歩み進めるご婦人に憧れながら駆け降りる坂

工事中のフェンスに囲わる公園の奥に咲く花が今日だけ気になる

(アステカ神話)
沈みては再び昇る太陽を無邪気な世界が当然に待つ

(アステカ神話)
再びの朝日を希った文明に想いを重ねる薄明けの空

巻き戻し再挑戦権もしあれど今この私を消してまでしない

「あれ私、何買いたくて来たんだろ」思い出せずにポテチを拾う

「やばい急げ!」脇目も振らない我の咎は四時から六時の時間指定便

声重ね「そんな時代もあったねと」歌う妻子を気にしない父

この恋を最後の恋にしたい理由「恋愛沙汰は色々疲れる」

夢覚めて朝の岸辺に上がりかね遠ざかる波に耳そばだてる

宝箱に詰め遠く深く沈めても捨てたつもりの夢がまた呼ぶ

肩寄せて指絡ませて見上げてもそれぞれの目にはそれぞれの青

ねこの子が毛玉吐くように胸の奥積もりゆく澱を丸めてこぼす

胸の底澱みを湛える深淵を覗いていたい濡羽色の夜

きっぱりと乾いて晴れた冬空に胸の澱みも揮発する朝

眠れずに耳がさびしがる真夜中にLINEと迷ってラジオを選ぶ

部屋中を音で満たせるiPhoneを私へ直結させるイヤホン

「おはよう」と「こんにちは」との汽水域で言葉に迷い送る「おひさです!」

寝落ちした後で君からきたLINEログインボーナスにして起き出す

でたらめな七草の粥食べる昼 長寿息災は自力で掴む

置き忘れ渋く濃くなった紅茶へとミルクと蜂蜜混ぜた味の恋

沈黙が重くならない友人に向く友情と愛のエマルジョン

なにげない幸せの記憶見渡せば出席率7割超えの君

抜けたとも気付かぬ髪のような何か落とし続けて大人になった

人間をやってく気力が尽きてる日ホットミルクを飲んだから加点

夏休みラジオ体操のスタンプのカードを埋めていくような日々

三日間凹んでたけど不意に元気出たから今日は我が復活祭

一昨年の自分のことが分からない何をあんなに悩んでたのか

歯を長く磨くとえずく自分だと知っているけど虫歯も怖い

きっともう行くことのないアメリカの街ののどかな夢を見た夜

今はもう訪ねる理由を探せない父が単身赴任した街

咳止めが効かず血の味してるけど正岡子規にはなれそうもない

抜け髪を気付かず落としてきたようにもう戻らない無数の私

切った爪抜けた髪すべて集めたら忘れた想いも戻るだろうか

極彩に飲まれて自分を見出せずメエルシュトレムに似た多様性

誰よりも知っているようでほぼ何も知らない謎の人物「ワタシ」

テスト開始3分前に知る事実「待って、今回この章もなの?」

誕生日1日違いの旧友と祝い祝われる小休止の日

「今年こそスマホ依存を脱却す」鉄の決意をスマホに記す

ただここで居合わせただけの赤ちゃんが手を振ってくれて元気100倍

出し惜しみしてたお気にのハーブティー開けたから今日もまあ頑張ろう

歩くこと自体が好きな父母と道の先の店だけ行きたい私

マチュピチュもテオティワカンもまた行きたい同じ地球だし近い近い近い

揚げ物を爆食いしたい日だったから胸焼けした今一点の悔いなし

飲み忘れた薬を翌朝飲むようにどこかで帳尻合えばOK

この恋を君が運命と呼ぶのは良いけれど私にそれを強いるな

仰ぐような恋は知らないいつだって手の届く距離の恋をしてきた

我を見て「恋を特別に思いすぎ」と指摘した友の旧姓もつひと

気が合うと互いに思えて友情の延伸先を恋と名付けた

散ると知りなお咲く花の潔さいまこの時を一心に照る

あの言葉許したことも予定もないダルヴァザの怒り胸底に燃ゆ

懐刀を置いてにじり口くぐるような心で化粧を剥がし振り向く

人知れず血を吐く思いで生きるけどあなたの痛みを私は知らない

空目指し一心に泳ぐ幼龍のけなげさで進む園児の行軍
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