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第11話③ 私ははめられたんですか、お兄ちゃん?
しおりを挟むまだ池の中に沈んでいるのではないかと錯覚するほどに、濡れたまま外気にさらされ冷たくなった身体が、どこまでも重く感じる。
その時、シルヴァが私にこっそりと耳打ちをしてきた。
彼の言葉を聞いた私は、こくりと頷く。
シルヴァが、セピア公爵令嬢に向かって口を開いた。
「セピア嬢、妊娠しているお体に障りますよ――あまり叫んだり、違法薬物を吸い続けるのは辞めた方が良いのではないですか? まあ、もっとも、それだけ活発に動かれた上に、違法薬物の匂いまでしている……妊娠などしていないのか――?」
シルヴァの言葉に、クラーケは「え?」と動揺した。
クラーケは、腹部が痩せたままの妻の姿を見る。
ふん、とセピアは鼻で笑った。
「妊娠の診断に関しては書類もちゃんとございますわ。私に振られたからと言って、適当なことをでっちあげるのはやめてくださいますか? そもそも――」
彼女にクラーケは話しかける。
「妊娠していないのかい? セピア?」
「クラーケ、貴方まで、どうしてシルヴァの言うことに耳を傾けているのですか!? 嘘に決まっているでしょう? ちゃんと証明書もあって……」
少しだけもめている二人に、シルヴァが火種を投入した。
「でも、その証明書は、あなたの言う平民の産婆が書いた文書ではないですか? 貴方はわざわざ屋敷に医術士は呼ばずに、平民街の産院に通われているようだった……あなたの言い分なら、平民の書いた文書は信用に値しないということになるのでは――?」
「それとこれとは話が別ですわ――! いい加減にしてください!」
むきになって、セピア公爵令嬢は叫んだ。
シルヴァが畳みかける。
「いいえ……産婆を悪くいうつもりは全くありませんが、あなたの言い分を信じるならば、信用が出来る文書かどうかが分かりません。しっかり貴族の医術士に調べなおしてもらった方が良いのではないですか?」
クラーケがわなわなと震え始めた。
「そんな、医術士の診断は受けてないのかい? 僕は、セピアに子どもが出来たって聞いたし、借金も立て替えてくれるって聞いたから――だから、セピアの言う通りになんでもしてきたっていうのに――もし子どもがいないと分かっていたら、僕はリモーネと結婚――」
彼の発言に、セピアは眉をひそめ、わめき散らした。
「何を言っているの、クラーケ……!? その言い分だと、子どもが出来たから仕方なく、私と結婚したという風に聞こえましてよ――!? 貴方みたいな、冴えない侯爵と結婚してあげたんだから、感謝すべきじゃなくて――!? もう貴方のような男は、早く牢屋に入ってしまいなさい――!」
「そんな……この違法薬物だって、君が僕に勧めてきたから使ったんであって……」
「な……! お黙りなさい、クラーケ!!!」
二人は醜い口論を始めた。
「そもそも僕は、君に言われてリモーネをこの廃墟に連れてきたんだ――そしたら、君が紹介してくれたごろつき達が突然、火をつけ始めたから――」
クラーケは続ける。
「どうして、火をつける件を僕に話してくれなかったんだ――? なんだかやたらと今日は眠くて、あの時、目が覚めてなかったら、僕も死んでたんだよ――まさか、僕も一緒に殺そうとしていたんじゃ――?」
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ほっとしたような気持ちになる。
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「リモーネ、あとは騎士達に任せて、帰るぞ――」
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セピア公爵令嬢――いや、今は薬物所持や放火の罪人である――セピアが、私たちに向かって叫んだ。
「待ちなさい! シルヴァ! 本当は、私のことを好いてくれていたのでしょう!?」
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