上 下
25 / 60

第9話① 人気の騎士様の正体は、変質者だったんですか?

しおりを挟む



 シルヴァが出て行ってからすぐ、屋敷へ一枚の手紙が届いた。

『忙しいからしばらく帰れない。使用人も年老いているから、戸じまりはしっかり』

 端的な文章だったが、彼の優しさを少しだけ感じることが出来るものだ。

 シルヴァが出ていった日――。

 感情的になってしまったせいで、結局のところ何が本当で何が嘘なのかを知ることは出来なかった。

(シルヴァお兄ちゃんが話したいことがあるって言っていたのに、それも聞くことが出来てない……)

 自室でふうっとため息をついていると、屋敷に尋ね人があった。

(もしかして、お兄ちゃんが帰ってきたのかしら……!?)

 慌てて玄関へと向かうと、そこにいたのは想像とは違う人物たちだった。

「天使のお姉ちゃん、また遊びに来てくれなくなったから、今度は私たちが遊びに来たよ!」

 見ると、孤児院の子どもたちが庭にたくさんいるではないか。
 彼らの姿を見ると、自然と心が和む。
 リモーネお姉ちゃん、天使のお姉ちゃんと言って、私に声をかけてくる。

「皆、ありがとう」

 少しだけ涙ぐんでしまった。

「天使のお姉ちゃん、目がはれてるけど、あの怖い騎士のお兄ちゃんにいじめられたの?」

 近くにいた幼い少年がそう声をかけてくる。
 他の男の子たちも、シルヴァの悪口を口にし始めた。
 だが、すぐに近くにいた女の子が否定する。

「男の子たちは何もわかってないわね……! あの怖い顔の騎士様は、お姉ちゃんにぞっこんだったわ……むすっとしてたけど、お姉ちゃんに話しかける時だけ、すごく優しかったもの」

「そうそう、すごく大事そうに手をひいたりしてたし……まさに、絵本に出てくる姫に仕える騎士のような振る舞いだったわ――あのお兄ちゃんにとってのお姫様は、天使のお姉ちゃんだってすぐにわかったわ」

 少しだけませた印象のある女の子たちが口々にそう言った。

 そして――。

――子どもたちの一人が驚くべきことを口にする。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私のバラ色ではない人生

野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。 だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。 そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。 ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。 だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、 既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。 ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。

ふつつかものですが鬼上司に溺愛されてます

松本尚生
BL
「お早うございます!」 「何だ、その斬新な髪型は!」 翔太の席の向こうから鋭い声が飛んできた。係長の西川行人だ。 慌てん坊でうっかりミスの多い「俺」は、今日も時間ギリギリに職場に滑り込むと、寝グセが跳ねているのを鬼上司に厳しく叱責されてーー。新人営業をビシビシしごき倒す係長は、ひと足先に事務所を出ると、俺の部屋で飯を作って俺の帰りを待っている。鬼上司に甘々に溺愛される日々。「俺」は幸せになれるのか!? 俺―翔太と、鬼上司―ユキさんと、彼らを取り巻くクセの強い面々。斜陽企業の生き残りを賭けて駆け回る、「俺」たちの働きぶりにも注目してください。

(完)妹が全てを奪う時、私は声を失った。

青空一夏
恋愛
継母は私(エイヴリー・オマリ伯爵令嬢)から母親を奪い(私の実の母は父と継母の浮気を苦にして病気になり亡くなった) 妹は私から父親の愛を奪い、婚約者も奪った。 そればかりか、妹は私が描いた絵さえも自分が描いたと言い張った。 その絵は国王陛下に評価され、賞をいただいたものだった。 私は嘘つきよばわりされ、ショックのあまり声を失った。 誰か助けて・・・・・・そこへ私の初恋の人が現れて・・・・・・

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

不妊を理由に離縁されて、うっかり妊娠して幸せになる話

七辻ゆゆ
恋愛
「妊娠できない」ではなく「妊娠しづらい」と診断されたのですが、王太子である夫にとってその違いは意味がなかったようです。 離縁されてのんびりしたり、お菓子づくりに協力したりしていたのですが、年下の彼とどうしてこんなことに!?

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後

綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、 「真実の愛に目覚めた」 と衝撃の告白をされる。 王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。 婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。 一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。 文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。 そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。 周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

処理中です...