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第1章 2年前、出会った頃の2人

2-1 秘書になった日

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 先日、突然現れた二階堂総悟副社長の命令で、桃花は彼の専属秘書になることになった。
 さすがにあまりに急な話だったので、退出したばかりの秘書課に戻って、事実確認をおこなうことにしたのだ。
 そうして、竹芝部長に声をかけたところ、すでに桃花の異動内容について承知しているようだった。

『総悟……二階堂副社長が梅小路さんを専属秘書にしたいと入社当時から話していたのですが、まさか本人が直接伝えに向かうとは……しかもこんなに早く』

『入社当時からですか?』

『ええ、梅小路さんを見て何か思い出したとか何とか話していまして……ああ、大丈夫、きっと悪いことにはならないと思いますから。私ども社員一同も幸せな未来を楽しみにしています』

『……?』

 入社当時に二階堂副社長と竹芝部長の間でどんなやり取りがあったのかは分からないが、二階堂副社長の専属秘書に桃花が選ばれた事実は覆られないことが判明したのだ。

(こうなったら、二階堂副社長に気まぐれに解雇されないように気合を入れるしかないわね)

 幸せなマイホームマイライフを目指して頑張る予定だったのに、まさかこんな珍事に巻き込まれてしまうとは……

(昔から神様は私に対して意地悪だわ。ここは絶対に気合で乗り切るしかない)



 そうして、覚悟を決めた桃花の専属秘書一日目が幕を開けたのだった。



 二階堂商事のビルの最上階よりも一つ下の五十四階。
 桃花はエレベーターの扉から颯爽と身を翻した。
 窓から外を見下ろせば、眼下にはひしめくビル群を眺めることができる。
 通路を渡り、奥にある副社長室へと出向くと、ノックをして室内へと入った。

「失礼いたします」

 すると……

「ひどいです! 二階堂副社長! やっぱり遊びだったんですか!?」

 甲高い女性の声が響き渡る。

(朝早くから何事なの……?)

 執務机に座る二階堂副社長は肘をついて顔を顎に乗せたまま、はあっと盛大な溜息をついていた。

「……君のことは遊びも何もさ……」

 桃花の頬がひくつく。
 初日早々、総悟が女性社員に絡まれている現場に遭遇してしまった。
 秘書たるもの、どんな事態でも上司を助ける存在でなければならない。
 だがしかし、これは仕事とは無関係の男女の痴情のもつれの現場でしかない。
 ……そんなものに巻き込まれるわけにはいかない。

(出直しましょう)

 そうして、桃花はそっと扉を閉めて廊下で待機しようとしたのだけれど……

「ああ、桃花ちゃん、来てくれたんだね!」

 桃花が来室したことに二階堂副社長に気付かれてしまった。
 彼は椅子から立ち上がるなり、女性社員を完全スルーして、桃花の方へと歩み寄ってくる。

「時間通りに来てくれたってわけだ、真面目な子で本当に良かったよ」

 喜々として話す総悟の背後から女性社員の冷ややかな視線が桃花に突き刺さってくる。

「お取込み中、申し訳ございません。外で待機しておりますので……きゃっ……!」

 
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