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後日談2② プロポーズやりなおし
しおりを挟むそうして、村から城にまた戻ると思っていたのだったが、想像とは違う場所に連れて行かれた。
その場所というのは、城が立つ崖の下にある、海岸だった。
磯の香りが鼻腔をくすぐる。潮風が、わたしの金の長い髪を巻き上げた。
普段はエメラルドグリーンに輝く海は、夕陽の光を反射し、マリーゴールドのような輝きを帯び、幻想的にゆらゆらと揺れる。
波は時化てはおらず、穏やかに引いては寄せる。遠くに一隻の船が見えるが、それ以外に人の姿は見えなかった。
「ルビー」
「アイゼン様」
波打ち際まで歩いたわたしたちは、海に沈む太陽を横目に向きなおった。
砂浜に、長い影が伸びる。
「左手を――」
彼に促され、手を差し出すと、長い指にからめとられた。
「ルビー」
そうして彼は、わたしの指の一本一本に口づけていく。
夫婦になってから、毎日彼がおこなう儀式のようなものだった。
口づけが終わった後、彼は懐に手を伸ばし何かを取り出す。
「それは……」
そうして彼が、そっと左手の薬指に何かを嵌める。
そこにあったのは――。
「ルビー、君と同じ名前の宝石だよ」
――一粒のルビーが輝く、金の指輪だった。
夕陽がルビーを反射して、きらきらと黄金色に煌めかせている。
「アイゼン様……」
砂浜の上、私の前に跪いたアイゼンは、恭しく左手に口づけながら告げる。
「初めて出会った時から、君の穏やかで優しくて、だけどしっかりしていて――そんなところに惹かれていったんだ」
夕陽と空が交じり合ったような、アイゼンの瞳。
いつになく美しい彼の想いが、胸を震わせてくる。
いつの間にか、彼の姿が涙でぼやけていた。
「改めて、私の妻として、一生そばにいてほしい。誰よりも、いや、この世で君以外の女性が見えない。実際に、愛することなどできなかった」
婚姻関係を結び、妻として迎えた偽のルヴィニ夫人に手を出すことが出来なかった、潔癖なアイゼン様。
「これからは、自身の気持ちに正直に生きていきたい。愛している、ルビー。君が真の妻、永遠に君だけを愛し続けるよ――」
彼の想いを紡ぐ声が、鼓膜を震わせる。
寄せては返す波の音が、まるでわたしたち二人を祝福しているようだった。
夕陽に照らされた二人の影が重なる。
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