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後日談
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しおりを挟むアーサー兄さまが剣を鞘の中に仕舞うと、くるりとこちらを向いてきた。
「すまない、遅くなった、リーリア」
そうして、私は彼に抱き寄せられる。
運動しても汗ひとつかかないアーサー兄さまだというのに、かなり焦ってきたのだろう。珍しく汗をかいていた。
「アーサー兄さま、どうして……?」
「部下たちに挙動のおかしな魔獣の調査に当たらせていたんだが、背後にフープ侯爵が絡んでいたようでな……どうやら魔獣に違法な薬を盛っていたらしいんだ。森の方に向かったというから、慌ててこちらに来たんだよ」
「そうだったんですね……!」
フープ侯爵というのは倒れ伏している魔術師の名前なのだろう。
そうして、ひしと抱きしめられると、
「ああ……良かった、リーリア、お前に何もなくて……」
その時、森の向こうから騎士たちがずらずらと現れる。
アーサー兄さまが指揮を出すと、倒れている破落戸たちを捕縛しはじめた。
そちらの任務に当たっていない部下たちが、アーサーとリーリアを囲んできた。
すると、若い騎士たちが歓声を上げる。
「アーサー様が森の塔に隠されているという美姫リーリア様を見れるとは……!」
「これは隠したくもなりますよ、すっごく可愛いですもん!」
唐突に拝まれはじめた。
(アーサー兄さまが私を森の塔に隠している……? 世間の噂ではそんな話になっているの?)
彼らは次々と口を開きはじめた。
「突然、『リーリアに危険が迫っている』とか言って愛馬で駆けだした時には、皆も驚いてましたよね」
「どうしてか尋ねたら、『本能でわかる! リーリアが危険だ! ついてこい!』とか意味わからなくて混乱しましたよ」
まさかそんな件だったとは……
「俊足の魔術でもかかってるのかというぐらい馬を繰るのも早いし……」
「アーサー様は、魔力なしでも魔術を陵駕する騎士団長として有名ですものね」
「魔獣によっては、魔術防御なんかを掛けてもらって望まないといけないやつもいるのに、そんなのなしで倒しにいっちゃうからな……」
「物理最強の騎士団長だからな……」
皆がざわつきはじめた。
その時、咳ばらいをしたアーサー兄さまが皆に声をかける。
「お前たち、とにかく捕縛した者たちを王都に連れて帰るぞ。リーリア、すまない、また夜に戻ってくる」
その時――部下の一人が口を開いた。
「騎士団長、せっかく新居に帰ってきたんですから、今日は早上がりで良いですよ、皆もそれでいいよな?」
すると、他の部下たちも賛同しはじめた。
「だがな、お前たち……」
別の部下が口を開く。
「騎士団長、真面目過ぎて全く休まないから、僕たち休みにくいんで、休んでください」
「このままだとブラック騎士団って呼ばれるんで、ちゃんと有給消化してください」
「俺たちも有給消化させてください」
「俺たちは貰えてるだろう?」
「ね、騎士団長?」
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