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本編

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 見れば、アーサー兄さまは不安そうに眉を寄せている。

(もしかして私が採取初心者だからと不安に思っているの……? どうにかして、お兄様の不安を払わないといけない……)

 そんなことを思っていたら、咳ばらいをしたアーサー兄さまが私に向かって声をかけてくる。

「それにだ、リーリア、お前は異性が一人で何かをやっているところを見るのだって初めてだろう?」

「ええっと……そうですね……」

 どうにかしてアーサー兄さまの不安を払拭するのだ。
 無理やり過去に思いを巡らせる。
 人間の男性ではなかったが、地下で飼っている魔獣が射精している姿を見たことがあった。惚れ薬製造の一環で彼らの精液を採取することがあったのだ。

『研究者は時としてハッタリを利かせるのも大事なんだよ、リーリア』

 亡き父侯爵の言葉が脳内に閃いた。
 深呼吸をすると、きっとアーサー兄さまへと視線を送った。

「一応見たことはあります」

「何……?」

 アーサー兄さまの肩眉が跳ね上がった。一瞬だけ唇が戦慄いた後、一度大きなため息を吐くと、キリリとした視線をこちらに向けてきた。

「それは、俺の知っているやつなのか?」

「ええっと……」

(地下で飼っていた魔獣の世話をお兄様にも頼んでいたこともあったわけだし、アーサー兄さまが知っているやつという認識であっているはずよね……)

 そうして、コクリと頷いた。

「もちろんです」

「……っ……」

 目の前の兄さまは愕然としたかと思うと、悔しそうに歯噛みしはじめる。

「ケンダルのやつめ……」

 小さくて何を言っているのか聞こえなかった。

「俺が仕事に精を出している間に、お前は大人になってしまっていたんだな……」

「……?」

 なぜかアーサー兄さまは項垂れた様子でガックリと肩を落としていた。

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