21 / 24
第21話 光と竜と
しおりを挟むグラムが手にした宝玉から放たれた光が、ガウェインに直撃してしまった。
閃光とともに、姿を消したガウェインだったが――。
海賊船の真下にある小舟の上に、ハーフエルフの銀髪の少女シレーナと、エルフの美男子グラムが乗っていた。
突然、激しく海面が揺れ動き、小舟もグラグラと揺れ始めた。
「なに……!?」
「なんだ……!?」
揺れに耐えるため、シレーナとグラムは、木で出来た船に跪いた。
なかなか揺れがおさまらない。
(船の端をつかまないと落ちちゃう……!)
そうは思ったシレーナだったが、そのままずるりと体勢を崩してしまう。
「きゃっ……!」
「シレーナ!」
持ち崩した彼女は、そのまま荒れ狂う海の中へと飲み込まれてしまった。
(苦しい……!)
海の中で、シレーナは必死に手足をばたつかせる。
シュミーズドレスが水を吸い、どんどん重くなっていく。
彼女がもがけばもがくほどに、海面は遠くなっていった。
口からはごぼごぼと、空気が逃げて行ってしまう。
海のうねりは強く、彼女の身体を引きちぎってしまいかねない程だった。
(ああ、私は、もう……)
彼女の脳裏に、藍色の肩先まである髪に、自分と同じ黄金の瞳をした、端正な顔立ちをした青年の姿が浮かぶ。
(ガウェイン……)
初めて出会った人間の異性。
憧れていたグラムとは違い、紳士的ではなく強引なところもあったけれど、心根は優しい男の人。
声の出ないシレーナの話を、遮らずに、一生懸命分かろうと努力してくれた人。
誰からも大事にされてこなかったシレーナの、身体と心を大事にしてくれようとしていた――。
彼女の声が出た時に、自分のことのように優しく喜んでくれたりもした。
気持ちがはっきりとしないまま、どんどん惹かれていく彼と結ばれてしまったようなところもあけれど、お互いに「好き」だと言い合うことの出来た彼。
(ガウェインに、最期に『ありがとう、大好き』って伝えたかった……)
意識が朦朧とするシレーナは、海底に沈みながら、そんなことを考える。
(ガウェイン、さようなら……)
届かない程に遠い、光の差す水面へと、シレーナが手を伸ばした、その時――。
(え――――!?)
突然背中を、何かに圧される感覚があり、そのまま彼女の身体は海面へと上昇していく。
一瞬、身体に鋭い痛みを感じた後、ざぱぁんと大きな音を立て、彼女の顔が外へと飛び出した。
そのまま、一気に空気が肺へと送り込まれ、シレーナはごほごほとむせ込んだ。
そうして、彼女の身体は、海賊船よりも遥かに高い位置へと浮上していく。
「なに――――――!?」
困惑する彼女は、自身が何か硬い鱗に覆われた生き物の身体の上に乗っていることに気づいた。
シレーナの身体何人か分の頭に、少しだけ明るい藍色をした、盾のように硬い鱗、腹部も尖った鱗に覆われた、まるで蛇のような長大な生き物――。
彼女の耳に、エルフの美青年グラムの叫びが聞こえる。
「――伝承の、海に棲む竜!?」
そう、シレーナは光り輝く鱗に覆われた、竜の身体の上に乗っていたのだった。
竜は、蛇のごとくうねりながら、海中を這うようにして、海賊船の近くにたたずむ小舟の近くへと向かう。
(なんだろう、この竜の身体の色……異形の化け物の上に乗っているはずなのに、心が休まる感じ……)
シレーナは、ちらりと見える竜の巨大な瞳の色を見て、確信を得た。
その瞳は、黄金色をしている。
「ガウェイン――!!」
彼女が名を呼ぶと、その通りだといわんばかりに竜が哭いた。
風と水面を震わせるような大きな声が、周囲に拡がっていく。
竜の頭は、エルフの美青年グラムへと迫った。
異形の怪物が嘶くと、強風が強く、グラムの手から宝玉が離れる。
「宝玉が――――!」
そのまま、ほのかに光る玉が海の中へと落ちたと思いきや――。
海の中から天に向かって、光の柱が出現したのだった。
2
お気に入りに追加
446
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる