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第19話 追いかけてくる
しおりを挟む轟音とともに、海賊船が激しく揺さぶられた。
「きゃっ――!」
「大丈夫か、シレーナ……」
シレーナを抱きしめ、船内の梁に身体を寄せたガウェイン。
彼らとは対照的に、シレーナの父だと判明したアストラル騎士団長は、揺れに耐えきれずに床を転がっていた。
「うわ~~、もう、なになに、これだから船は怖いんだよ~~」
笑いながら床に倒れている、栗毛の青年の姿を見て――。
(あれが……私のお父さん……)
――シレーナは悲しい気持ちになっていた。
そんな彼女の気持ちは露知らず、ガウェインが声をかける。
「シレーナ、俺から離れるなよ」
「うん、ガウェイン……!」
シレーナは、ガウェインの身体にしがみついた。
それを見たアストラル団長は、何かわめいていたが、無視して二人は、甲板へと飛び出る。
どうやら、轟音の正体は、船がエルフの島の岬にたどり着いたから起きたものではなかった。
ガウェイン達の乗る海賊船の船首を見渡すと、大きな別の船の船首がぶつかっていた。海賊船の船首像として掲げられていた、麗しき女神の木像が、見るも無残にひしゃげている。
ガウェインとシレーナの元に、怒りの声が届いた。
「誰だ! 俺の愛するダイヤ姫をぶっ潰してくれたのは! 絶対に許さねぇ!」
黒髪を後ろで束ね、黒い眼帯をした、海賊船の船長アーサーの声だった。
ちょうどその時、相手の船から大砲が鳴る音が聞こえる。
それらを合図に、ぶつかってきた船の方から、エルフの大群が海賊船に乗り込んでくるではないか――。
「ガウェイン……!」
「シレーナ、大丈夫だ――」
彼に抱き寄せられ、シレーナは安心感に包まれる。
「こっちだ――」
ガウェインに手を引かれ、船尾へとシレーナは駆ける。
どうやら彼は、避難用に準備されている小舟に乗って、一旦海賊船を離れようという算段のようだった。
弓がしなる音や、カトラス同士の剣戟の音が、船上に響き渡っている。
ガウェインは、船員たちに声を掛けつつ、木で出来た床を駆け抜けていく。
ついに船尾へとたどりついた二人は、縄で縛られた小舟を、揺れる海の上へと垂らした。
「ガウェイン……ごめんなさい」
(本当は船の皆と一緒に戦いたいはずなのに……)
シレーナを争いに巻き込まないように、陸路に降りる選択をガウェインはとったのだ。
彼女に心配をかけまいと、彼は優しい声音で告げる。
パシャンと音を立てて、小舟は水面に浮かんだ。
「お前を縛っている魔術の珠の一件もある。結局、魔術師と対峙はしないといけないだろう――それが今日だっただけだ――行くぞ」
ガウェインは片腕でシレーナを抱きしめ、片腕で縄を伝って小舟まで降りていく。
(ガウェイン、すごく力持ち……)
片腕で抱きしめられ、運ばれる彼女は不謹慎ながらもそんなことを思った。
間近にある彼の端正な顔立ちに、シレーナの鼓動は跳ねる。
「ついたな、さあ陸に戻るぞ」
二人は小舟に降り立った。
「うん」
ガウェインが櫓をこぎ、海の上を進もうとした、その時――。
「待て! 逃げるな! シレーナ!」
二人の頭上から、聞き覚えのある声が聴こえる。
シレーナが見上げると――。
「ちっ……あの男、しつこいな……」
逆光で顔が見えない――。
だが、あのシルエットは――。
「グラム……」
シレーナに執着するエルフの美丈夫グラムが、海賊船の船尾に立っていたのだった。
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