上 下
41 / 51
3日目

41 最初の記憶2

しおりを挟む



 最初の記憶だ。

 ヒルダは岩に刺さった聖剣を引き抜き――剣の遣い手――聖女となった。
 村の中、聖女として好待遇を受けた後、2日目の夜に魔王を召喚。
 黒髪の若い男の風貌をした相手は、あっさりとヒルダの扱う聖剣によって討伐された。

 だが、ここで問題が起こった。

 倒されたはずの魔王から、禍々しい真っ黒な靄が噴出して、聖剣へと吸い込まれていく。

『これは何が起こっているんだ?』

『ヒルダ、危ない、離すんだ!』

『ジーク、だが、どうしても手から離れてくれなくて……きゃあっ……!』

 聖剣に収まりきれなかった靄が、ヒルダまでも包み込んだ。
 ヒルダの身体の中へと黒い靄が侵入していく。
 ジークフリートがどうにか払おうとしたが、すぐには消えてはくれなかった。
 ヒルダの金色の髪が真っ黒に染まっていく。

『ヒルダ、ヒルダ……!』

 ヒルダの身体から放出された黒い閃光が、湖のある山全体を包み込む。
 次に彼女が目を開いた時、周囲から木々は消えてしまっていた。
 露出した岩肌が、やけに生々しい。
 全ての生物が消滅してしまったのか、周囲からは生命の息吹を感じなかった。
 見回せば、すっかり湖も干からびてしまっている。

『何が、起きて……』

 真っ黒に染まった剣を抱きかかえて、ヒルダは誰もいない場所を彷徨った。
 枯れた湖の中、少しだけ残る水たまりへと向かって顔をかざす。

『これは……――!』

 金色だった髪は、手に持った真っ黒な剣のように、漆黒に染まっていた。
 何が起きたか分からないからか、自分自身の顔色がやけに白かった。

『ジークは? 魔王は、どこに……』

 焦燥に駆られながら周囲を見回す。
 近くにポツリと人が倒れているのが見えた。

『ジーク……? ジーク……!』

 ヒルダは護衛騎士である彼の元へと駆けよる。
 息も絶え絶えだが、まだ生きているようだった。
 半狂乱に陥りながら、ヒルダは叫んだ。

『ジーク、どうして、何が起きて……?』

『ヒルダ……』

 かろうじて生きているが――もう事切れる寸前だ。

(魔王を倒してしまえば、愛しいジークフリートとの未来が待っていると信じていたのに――)

『何が起こったの? どうして、こんなことに……』

 涙が止めどなく溢れて止まらない。
 聖女に選ばれたが、元は騎士でしかなく、癒しの術が使えない自分が怨めしかった。
 その時――

『ヒルダ様』

 何者かが声を掛けてきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

終 R18 寸借詐欺にまんまと引っ掛かったところ、異世界に飛ばされてしまいました

にじくす まさしよ
恋愛
R18、タグをお読みになり合わないと思ったらバックお願いします 駅から出てすぐ、「財布落としたから、帰りの電車賃500円貸してもらえませんかのぅ? 早く帰ってばあさんの介護をせにゃならんのじゃ」と見知らぬおじいちゃんに頼まれた。本当に困っているようなので、硬貨がなかったから1000円渡す。 その話をしたら友達に呆れられ、そこで漸く寸借詐欺にあったのだと気づいた。そんな詐欺に引っかかるなんてバカだけだと思っていたのに、見事にひっかかったと笑うしかない。しかし、翌日駅を出たら、おじいちゃんが自分を待っていて、お礼がしたいと言ってきて── 右手はある。 ざまあなし よくあるご都合ラブファンタジーです R18 おまけ召還された不用品の私には、嫌われ者の夫たちがいます R18 異世界に召喚されたら、いきなり頬を叩かれました。 の世界観です。違う時間軸、違う国ですので旧作の登場人物は出ません。あちらは一妻多夫ですが、今回は嫉妬深い夫なので複数無し。バイクあり。

インバーション・カース 〜異世界へ飛ばされた僕が獣人彼氏に堕ちるまでの話〜

月咲やまな
BL
 ルプス王国に、王子として“孕み子(繁栄を内に孕む者)”と呼ばれる者が産まれた。孕み子は内に秘めた強大な魔力と、大いなる者からの祝福をもって国に繁栄をもたらす事が約束されている。だがその者は、同時に呪われてもいた。  呪いを克服しなければ、繁栄は訪れない。  呪いを封じ込める事が出来る者は、この世界には居ない。そう、この世界には——  アルバイトの帰り道。九十九柊也(つくもとうや)は公園でキツネみたいな姿をしたおかしな生き物を拾った。「腹が減ったから何か寄越せ」とせっつかれ、家まで連れて行き、食べ物をあげたらあげたで今度は「お礼をしてあげる」と、柊也は望まずして異世界へ飛ばされてしまった。 「無理です!能無しの僕に世界なんか救えませんって!ゲームじゃあるまいし!」  言いたい事は山の様にあれども、柊也はルプス王国の領土内にある森で助けてくれた狐耳の生えた獣人・ルナールという青年と共に、逢った事も無い王子の呪いを解除する為、時々モブキャラ化しながらも奔走することとなるのだった。  ○獣耳ありお兄さんと、異世界転移者のお話です。  ○執着系・体格差・BL作品 【R18】作品ですのでご注意下さい。 【関連作品】  『古書店の精霊』 【第7回BL小説大賞:397位】 ※2019/11/10にタイトルを『インバーション・カース』から変更しました。

【R-18】あなたの幸せのために死んだはずが、なぜあなたに溺愛されているのかわかりません

桜百合
恋愛
侯爵令嬢のアリステアは、『自分の命と引き換えに一人だけ命を救うことができる』というスキルを持っていた。 そんなアリステアは公爵令息で幼馴染のサイモンと婚約していたのだが、彼は病に侵された別の貴族令嬢へ心変わりしてしまう。 彼の裏切りに深く悲しみ傷ついたアリステアは自暴自棄となり、スキルを使用することを決意する。 詳細ではありませんが残酷表現(主に流血)があります。 Rシーンには※をつけます。 思いつきで書き始めましたので色々とゆるふわ設定なところがありますが、大目に見ていただけると助かります泣 ムーンライトノベルズ様にも掲載中、そちらは完結済みです(6/27日間1位、6/30週間1位)。

魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される

ねこいかいち
恋愛
魔法で栄えた国家グリスタニア。人々にとって魔力の有無や保有する魔力《オド》の量が存在価値ともいえる中、魔力の量は多くとも魔法が使えない『不良品』というレッテルを貼られた伯爵令嬢レティシア。両親や妹すらまともに接してくれない日々をずっと送っていた。成人間近のある日、魔導公爵が嫁探しのパーティーを開くという話が持ち上がる。妹のおまけとして参加させられたパーティーで、もの静かな青年に声をかけられ……。 一度は書いてみたかった王道恋愛ファンタジーです!

あなたは愛さなくていい

cyaru
恋愛
全てを奪われた女、ファティーナ。 冤罪で裁かれ、国外追放された日から13年。 幾つかの思惑が重なり、第1王子暗殺未遂事件の主犯として裁かれたファティーナ。 ファティーナの言葉を聞き入れてくれる者は誰もいなかった。 ファティーナを嵌めたのは婚約者のアロンツォ、そして従妹のマリア。その2人とは別枠でマリアの父、アロンツォの両親も明確な意図をもってファティーナを嵌めた。 全てをつまびらかにするには証拠が足らず、第1王子はファティーナの極刑だけは回避できたが当時は力もなく出来るのはそこまでだった。 稀有な力を持つ魔導士でもあるファティーナは追放された先で誰かを妬み、恨み、憎む気持ちも13年の時間をかけて鎮め、森の中にある小さな家で魔力を込めた薬を作り倹しく生きていた。 そんなファティーナを探して1人の青年シルヴェリオが森にやって来た。 運命は静かに暮らす事は許してくれないらしい。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★8月2日投稿開始、完結は8月4日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

【R-18】白木蓮三重奏(マグノリアトリオ)~縁結びを神頼みしたら夫からも神からも愛されました~

臣桜
恋愛
「アリアって、本当に滅多にお目にかかれないほどの美女なのに、どうしてか男運がないわよね」はじまりは親友の一言だった。いずれ自分は誰か素敵な男性と巡り会い恋に落ちると信じていたアリアは、思いも寄らないことを言われて自らの恋愛を不安視してしまった。友人たちに言われて占い師を紹介された先で言われたのは、アリアには妖精の魔法が掛かっているということ。妖精たちがアリアを愛するあまり、男を寄せ付けないようになってしまった。妖精の魔法を解くために、アリアは単身マグノリアの神木に祈りに行く。そこから、アリアの人生に変化が始まった。 ※ムーンライトノベルズさまにも投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活

束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。 初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。 ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。 それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。

悪役令嬢に転生したのですが、フラグが見えるのでとりま折らせていただきます

水無瀬流那
恋愛
 転生先は、未プレイの乙女ゲーの悪役令嬢だった。それもステータスによれば、死ぬ確率は100%というDEATHエンド確定令嬢らしい。  このままでは死んでしまう、と焦る私に与えられていたスキルは、『フラグ破壊レベル∞』…………?  使い方も詳細も何もわからないのですが、DEATHエンド回避を目指して、とりまフラグを折っていこうと思います! ※小説家になろうでも掲載しています

処理中です...