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2日目

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「長老様!?」

 反応がないと思っていると、寝息を立てはじめた。

(寝落ちた!?)

 ヒルダが困惑していた、その時――

「祖父は――長老は最近、よく眠るんですよ。こうなったら、もう3日は起きない」

 長老の背後にいつの間にか、黒髪の若い青年が立っていた。
 ジークフリートとは違ったタイプで女性受けしそうな、真面目そうな男性だ。

(いつのまに……?)

 もしかしたら、ずっと後ろに立っていたけれど、存在感が薄くて気づかなかったのかもしれない。
 ヒルダはごくりと唾を飲み込むと、相手を見上げた。

「そうなのですか」

「ええ」

 反応に困っていると、長老の孫が続ける。

「小さい頃から待ち焦がれていた伝説の聖女、聖剣の乙女、とても麗しい女性だ」

 長老とは違ってイケメンに入る部類の男性に言われ、ヒルダの顔が真っ赤になってしまう。

「そ、そんな、急にそんなことを言われるなど……!」

 赤面したまま両手を振って否定していると――

『子猫ちゃん、俺の時と反応が違うんじゃない!? そもそも初対面で麗しいだとか美辞麗句を告げてくる男、簡単に信じちゃだめだよ、そういうやつって軽薄なやつが多いんだからさ、もう、君って本当に騙されそうだよね』

 聖剣ジークフリードが文句を言ってきた。
 ヒルダはギロリとジークフリードを睨みつける。

「ちょっと黙っておいてほしいのだが……というか、貴方が云うセリフではないだろう?」

 思わず、剣の柄を掴んだ。

「もしや、それが聖剣でしょうか?」

 長老の孫の問いかけに、ヒルダは言葉を窮した。
(初対面の人間に色々と話して良いものだろうか?)

「そういえば、僕はブライアンと申します、どうぞよろしくお願いします、聖女様」

 ブライアンが微笑みながら告げてきた。

「ああ、私はヒルダと申します。それにしても、長老が三日眠ってしまっては……伝承などについて聞こうと思っていたのに……」

 ――どうにかして、聖剣の鞘にならずに魔王を討伐する方法を見出したかったのだ。

『●×▽』

 聖剣ジークフリードが何か言いたげだったが、とりあえず柄を塞いで黙らせた。
 すると、ブライアンが続ける。

「祖父に代わって、僕が知っていることを話しましょうか?」

「いいのですか?」

「ええ、もちろんです、聖女様――いいえ、伯爵様の娘、ヒルダ様」

「父を知っているのですか?」

「ええ、もちろんです」

 そうして、ブライアンが立ったまま喋りはじめた。

「英雄ジークフリードは魔王を倒したと言われていますが、その後の人生については謎が多いのは、この国の民ならば知るところだと思います」

「ええ」

「ですが、ちょうど英雄と魔王の戦いの舞台となったこの村には、伝承が残っているのです」

「伝承ですか?」

「はい。英雄ジークフリードは魔王を討伐したのではなく、聖剣によって相手を封印したのだと……そうして、裏山に封印されており、祭りの三日間だけ聖剣は姿を現わすと言われています。ですが、この千年の間、聖剣を手にしたものはいない」
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