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2日目

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 早朝、太陽が昇る頃に、ヒルダは目を覚ました。

(朝か……)

 今は夏休みの身の上だ。
 だが、辺境騎士団の朝は早く、それに身体が慣れてしまっている。
 そのため、休みだけれど身体が勝手に覚醒してしまった。
 うすぼんやりとした意識のまま考える。

(私は確か、父様の遺言に書かれていた通り、山を登ったんだった)

 そうして……。

(魔王を倒した英雄でしたが聖剣に封印されていたという、聖剣の化身ジークフリードに憑りつかれて……追い掛けられるわ、聖女像にくすぐられるわ、疲れすぎて人生相談してしまうわ、最後には可愛らしいドレスに着替えさせられるわ……)

 そこで、ぱっと目を覚ました。

「そういえば、あの御方はどこへ……!?」

 ガバリと上半身を起こす。
 ハラリ。
 身体を覆っていたシーツが舞う。

(なんだ? ひんやりして……)

 そこで自身の胸元を見る。

「な……!?」

 ドレスを纏っていたはずだったのに……!

「なんで裸なんだ!」

 そう、白いベッドの上、一糸まとわぬ姿になっていたのだった!

「なぜ!? どうして!? というか、ここはどこだ!?」

 顔を真っ赤にしながら悲鳴に近い声を上げる。
 すると――


「そんなの、寝苦しそうだったから、俺が脱がせたに決まってるだろう?」


 横座りをした足先に目をやる。

「きゃああっ……!」

 そこには、金髪赤目の美青年――聖剣の化身ジークフリードが横たわっていた。
 ただ、横になっているだけじゃない。
 なんと、脚にしがみついているではないか――!
 しかも、恍惚とした表情を浮かべたまま……。

 ざわ。

 ヒルダの全身に鳥肌が立った。

 ジークフリートはうっとりとした口調で告げる。

「昨日の夜は俺と追いかけっこしてたからか浮腫んでたけど、すっかりスッキリなって……ああ、俺が君の足に良い感じにしがみついてたからかな……」

 ざわざわ。

 あげく、ジークフリードがヒルダの脚に頬を何度も摺り寄せる。

「きめのこまかい肌だ。こんな気持ちの良い肌なら、一晩中どころか三日三晩、愛せそうだよ……」

 すると、ジークフリードが爪先にちゅっと口づけてきた。

 ざわざわざわ――。

 ヒルダの限界値を突破した。


「いやああ、気持ち悪い!!」


 勢いよく相手を振り払う。

 ――べしゃり。

 相手が微動だにしなくなる。

「あ……」

 絶世の美青年の顔面には、彼女の踵がクリーンヒットしていた。

 
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