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1日目
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しおりを挟む「誰だ!?」
誰何するが、答えはない。
しばらくすると、剣が抜けた岩の隙間から、ブワリと黒い靄が湧きだしてきた。
あげく、手にしていた剣が熱を帯びる。
咄嗟に離すと、光の粒子になって弾けて消えてしまうではないか。
「なんだ……!?」
腕で顔を覆っていると、光と靄は消えてしまっていた。
キョロキョロと首を回して、先ほどの声の主を探すが見当たらない。
「今のは何だったんだ……? 魔物の類か?」
山の中などは魔物や霊が現れやすいという。
ドクドクと落ち着かない心臓を抑えながら、その場を離れようとしたが――
グルグルグルグル
獣の呻き声が聞こえる。
「なんだ!?」
気づけば、少しだけ離れた周囲を、獣たちに取り囲まれていた。
(この魔獣たちは……1、2、……8匹)
黄金の毛並みをした幼犬型の魔獣。
ふわふわで愛らしい見た目をしている。
本来は穏やかな気性の持ち主であり、ペットとして飼われることもある。
だというのに、今はこちらを威嚇していた。
しかも、周囲に黒い靄のようなものがかかっている。
(先ほどの靄? なんだ、これは?)
そう思う間もなく、魔獣がこちら目掛けて駆けてくる。
腰に下げていた剣をスラリと引き抜くと、襲い掛かってきた魔獣の牙を受け止める。
「くっ……!」
ものすごい圧だ。
束で掛かってきたとしても、戦闘力はほとんどない生き物だから。
そう思って油断していたのが悪かったのか。
なんとか一匹振り払ったが、次々に襲い掛かってこられると太刀打ちできない。
(油断した……!?)
このままここで魔獣に殺されて朽ちるしかないのか?
脳内に走馬灯のようなものが流れる。
(どうにかして、伯爵家を再興したかった……)
そんなことを考えていると――
『俺を使えば、そいつらすぐに払いのけられるよ』
またしても声が聴こえてきた。
「さっきから、何なの……!?」
すると、今度はしっかりと返答があった。
『君の抜いた剣だ』
「剣!? ――きゃっ……!」
声に気を取られて、そのまま地面に倒れてしまった。
草の露が頬にかかる。
倒れた身体にグルグルと魔獣が一斉に遅いかかってきたのだ。
剣で凌ぐが、このままだと食われて死んでしまう。
「どうしたら……」
しかしながら、剣は先ほど光となって消えてしまったのだ。
『ねえねえ、名前を呼んでほしいな』
緊迫した場だというのに……。
軽い調子の口調で喋りかけてこられるから、ちょっとだけ腹が立つ。
だが、背に腹は代えられない。
藁にもすがる思いで、問いかけた。
「名前って、いったい……?」
すると――
『魔王を倒した聖剣を扱っていた英雄、この国に住んでるなら知っているでしょう?』
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