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 生真面目な女騎士ヒルダは、父の遺言に従って山登りをしていた。
 辺境騎士団に所属している彼女は、金色の髪をポニーテールにしており、キリリとした猫のような碧い瞳の持ち主だ。
 騎士にしては華奢な体躯を、銀の甲冑で覆い隠して誤魔化している。
 
 もう二十歳になるから、騎士として働きはじめて五年になる。
 辺境騎士団の仕事は忙しいが、やりがいがある。だけど、身体は休めないといけない。
 夏休みを3日間もらえたので、生家が没落する前によく遊びに来ていた村に遊びに来たのだ。

(小さい頃、亡くなった父様と一緒に山を登ったことを思い出すな。夏は涼しかった)

 山登りをしたのには理由がある。
 父の遺言だ。

『辺境の村には変わった祭りがある。祭りが開催される3日間。その間に山を登って見てもらいたいものがある』

 父が何を見せたかったのかは分からない。
 だけど、言いつけは守りたい。
 そう思って、険しい山の中を登っていた。
 気づけば、太陽が中天に差し掛かっている。
 山の中腹、白い靄を抜けた先、エメラルドグリーンに輝く湖を見つけた。

「一休みしよう」

 そうして、近くの木にもたれようとしたところ、とあるものが視界に映った。
 一振りの銀の剣。
 なんと、岩に武器が刺さったまま放置されていたのだ。

「どうして、こんなところに剣が? 盗賊の類が置いていったものだろうか?」

 我が国では武器は登録することになる。
 だというのに、こんな場所に放置されているなんて……。

「誰の者かは分からないが、こんな場所に武器が置いたままなのは危険だ」

 生真面目な性格ゆえに放ってはおけない。
 そう思って、ヒルダは柄に手をかける。

(なんだ? やけに手に馴染むな……)

 岩に深々と突き刺さっているので、抜くのは大変だろうかと思っていたが……。
 スラリ。
 剣は簡単に引き抜けてしまったのだ。
 目の前で掲げると、何やら妙に惹かれるものがあった。

「それにしたって、こんな美しい剣が、どうして、こんな場所に……?」

 すらりと金色に輝く刀身、鍔には精緻な細工が施されており、とても高級なものだと分かる。
 抜き身のまま鞘がないのが気になるが、これが父が見せたいと言っていたものだろうか?

「とにかく村に戻って鑑定してもらおう」

 ちょうど、その時。


『俺のことを引き抜いてくれるご令嬢が現れるのを待っていたんだ』


 凛として涼し気だが、どことなく軽い調子の声。

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