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 初めてアルベルト様と結ばれた翌週、涙ながらに船に乗る彼を港で見送った。

(アルベルト様が留学して、もう二週間が経つのね……)

 あの日以来、彼からの手紙を待って女子寮のポストをそわそわと覗くのが、最近の習慣になってしまっている。

(海外でも元気にしているかしら……?)

 彼からの手紙には、外国の皆と楽しく暮らしている様子が記されていた。

(アルベルト様は社交的な方だから、どこででも誰とでも仲良くなられる……)

 そんな彼に対して、少しだけ寂しさを覚えなくもない。

 ちょうどその時――。

 ガラガラと門扉の前に一台の馬車が停まった。

(郵便屋さんかも……!)

 そう思って、馬車に走り寄ると、そこには――。

「え……?」

 思わず目をこする。

(見間違い……?)

 扉から颯爽と降りてくる彼は――。

 アッシュブロンドの髪に、エメラルドのような碧の瞳をした青年――。

「アルベルト様……!」

 二週間前に学園を旅立ったはずの彼が、私の前に立っていたのだった。


「メアリー」


 私の名を愛おしそうに呼ぶと、彼はぎゅっと抱きしめてくる。

(え? え? 一体、何がどうなって――)

 頬を自分でつねるが、どうやら幻覚ではなさそうだ。

「アルベルト様、海外留学はいったいどうしたんですか!!!?」

 私が問いかけると、彼はきょとんとした表情を浮かべていた。

「行ってきたよ、海外留学に」

「へ?」

(確かに海外留学に行って――)

「途中で辞めたのですか!!?」

 どういうことだと頭の中が混乱する。

「え? 辞めてはいないよ」

「だ、だって、まだ二週間しか経ってないですよ!?」

 アルベルト様は顎に手を当てて考え込んでいた。


「滞在期間は十日前後だって、言ってなかったかな?」


 十日前後――?


「って、ええええ――――!??? だって、手紙をあんなに毎日送ってきてましたよね!?」


 叫ぶ私を見て、アルベルト様は困惑していた。

「そうだけど……あれ? メアリー? 俺はてっきり、十日間俺と離れるのをあんなに泣くぐらい悲しがってくれているのかと思っていたんだけど……」

 しょんぼりと捨てられた子犬のような縋る瞳を、彼は私に向けてきている。

(そ、そんな、なんてしょうもないオチなの――!?)

「まあ、良いか、相変わらず可愛いなメアリー。俺は二週間離れてるのが辛かった。そうだ、さあ、馬車に乗ってごらん――」

 突然馬車の中へと促された私は困惑してしまう。

「ど、どうしてですか?」

 彼はさらりと告げた。

「両親に君を紹介して婚約の話をとりつけるんだ。君の両親も呼んでいるよ。マダム・モリスンも呼んでいるから、チョコ食べ放題だよ」

「ええ!!!?」

 話の展開についていけない。

「約束してただろう、帰ってきたら婚約するって――」

「え? いや確かにそう言いましたけど……」

(それはだって、数年後だって思ってて――)

 まさか学生時代に婚約だなんて――!

「契約を反故するのかい、メアリー?」

「そ、そういうわけじゃ――!」

「だったら行くよ。ほら、今日の我が家の馬車はメアリー仕様だ!」 

 そう言われ、馬車の中を覗くと――。

 ――おびただしい数のチョコの箱。

「馬車には海外産のチョコをたくさん乗せてあるよ、メアリー」

 よだれが出かけていた私は反射で返事をした。

「はい! ぜひ、ついていかせてください!!」

 そうして、策略家であるアルベルト様のチョコ作戦に釣られた私――二人の婚約は、あれよあれよという内に決まり――。
 


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