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しおりを挟む二人で一緒のお出かけ。行き先はもちろん――。
「アルベルト様、この新作のチョコ、最高においしいです!!!!」
「そうか、メアリーが喜んでくれたなら良かった」
にっこりとアルベルト様は微笑んでくる。
――約束通り、我々二人は、私の大好きな老舗のお菓子屋さんに来ていた。
貧乏根性丸出しの私は、この近くを立ち寄ると、いつも試食だけさせてもらっていた。
だけど、チョコ契約を交わしているアルベルト様が一緒だ。彼がポケットマネーでチョコの代金を支払ってくれたのだった。
「ごめんなさい、出していただいて……」
「メアリー、そんな時は、ごめんじゃなくて、ありがとうと言ってもらえたら嬉しいな」
爽やかにアルベルト様が返してくる。
彼の笑顔にきゅんとなりかけたのだけれど――。
(そういえば……! 大金持ちのご子息だし、アルベルト様のお父様が稼いだお金に違いないわ! 親の金よ、親の!)
彼が稼いだ金ではないはずだ!
(そんな他人が稼いだお金を、さも自分のお金のように使う男性に、私がなびくわけないのよ!)
そんなことを考えていたら、アルベルト様が自分語りをはじめた。
「俺の父は金持ちだけど、元は裕福じゃなかったそうなんだ。それでお金には厳しくしつけられてね……このお金も休日にアルバイトで得たお金で、親の金ではないんだ」
(え……!?)
お金持ちだと甘やかされた印象があったけれど――。
(アルベルト様は、他のお坊ちゃまたちとは違うんだわ……)
だからこそ、貧乏人だからと私を蔑んでこないのだろう。
(なのに私ったら、親のお金で買ったチョコを渡してきてると決めつけてしまっていた……)
自分も、私に嫌がらせをしてくるご令嬢達とさして変わらないことをしてしまっていた。
「ごめんなさい、アルベルト様……私……貴方のことを誤解してました……」
私が謝ると、目の前の美青年はキョトンとしている。
なぜたか心臓がまたドキドキしてきた。
(優しくて、真面目なアルベルト様のことを、私は――)
気づきかけた何かを、私は必死に否定する。
チョコを食べた後、二人で並んで通りを歩いた。
道行く人々が、私達をちらちら見ている。
ざわめく人混みの中、露天商のむさ苦しいおじさんが声をかけてきた。
「そこのハンサムなお兄さんと、眼鏡のお嬢ちゃん! どうだい、こちらのカワイイ宝石がついたアクセサリーは! 今なら大安売り! それどころか、おじちゃん、まけちゃうよ!」
(宝石というより子どものおもちゃ……)
おじさんをアルベルト様が面白がって見ていた。
「おじさん、この素材なら、もう少し安くしないと。宝石じゃないだろう? 最近の子ども達は目が肥えているよ。それに商人同士の協定もあるんだし、ぼったくってたら、協会長から注意されますよ」
「ああ? なんだいケチつけようってのか……って、グリフィス家の坊っちゃんか……じゃあ、仕方ないか、菓子のおまけみたいなやつだからな」
露天商はそういうと、子どものおもちゃのアクセサリーだと認めて、値段を適正価格に変更する。
その時、たまたまハートの形をした玩具のペンダントが目に入る。
(わあ……可愛い……!)
胸がきゅんとなった。
(子どもの時に欲しかった玩具のペンダントにそっくり……!)
しかし家が貧乏ゆえに買ってもらえなかった。
いつも露天に並んでいた玩具を見に、街へ来ていたものだ。
結局買えずに、何時の間にか店先から消えていた。
(……ダメダメ、今ここで無駄遣いしたら、明日のパン代がなくなっちゃう!)
即座に湧いてきた気持ちを、すぐに否定して、私達はその場を後にする。
だけど、どうしても心が惹かれてしまって、ちらちらと後ろを振り返ってしまった。
(合理的とは程遠い私……!)
心の中で格闘していると――。
「メアリー、ちょっと待っててくれ」
そうして、私を置いてアルベルト様は人混みの中に消える。
どこかに行ったかと思うと、何か小包を持って帰ってこられた。
「さあ、行こうか――」
また彼に連れられて歩き出したのだが、あいにく雨が降りはじめる。
「ちょっとだけ、そこで休もうか」
「はい」
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