55 / 71
ハネムーン後の物語「隠し子騒動?」
1
しおりを挟む無事に新婚旅行も終わり、元の生活が戻ってきていた。
職場の菓子工房では、今日も甘い香りが漂っている。
菓子を作り終わって、機材の洗浄を終えて、白エプロンのポケットに入れておいた、可憐な菫の刺繍が施されたハンカチを取り出すと汗を拭いた。
「さて、今日の仕事はもう終わりね」
外は夕暮れに染まりつつある。
そう思って、看板を下げに行こうと、外へと出向いたところ――
「あの……」
私の腰ぐらいまでの身長の、まだ小さな少女の姿がそこにはあった。金色の髪に碧い瞳の持ち主である彼女はふんぞりかえっており、小さい頃のギルフォードのことを思い出させてくる。ふふっと微笑んだ後、私はその場にしゃがみ込んで、少女と視線を合わせた。
「お客様かしら? 何かごようですか?」
穏やかに微笑みかけたつもりだったが、少女の顔は沈鬱なものに変わる。かと思えば、眉を吊り上げて、こちらを睨みつけてきた。
「あなたがルイーズ・フォード?」
もう結婚したので、ルイーズ・フォードは旧姓であり、現在はルイーズ・グリフィスになっているのだが、間違いではない。
「ええ、そうです」
すると、少女は指先を私にびしっと突き付けて叫んだ。
「あなたが、あの人の奥さんだなんて、相応しくないんだから! 何よ、子どもっぽい見た目をして!」
「え……!?」
唐突な否定に仕事終わりで疲れていた頭が一気に冴えた。
間違いなく私の名を呼んでの否定だったので、おそらく「あの人」というのは、ギルフォードのことだと思うのだが……
(この女の子がどうして、私のことやギルのことを知っているの?)
困惑していると、雑踏の中から一人の女性が顔を出した。
「こら、リサちゃん、やめなさい!」
すると、少女によく似た人物――おそらく母親だろう女性が現れた。
「ごめんなさい、ルイーズ先輩、お仕事の邪魔をしちゃって……ほら、リサちゃん、帰るわよ」
現れた黒髪の美人女性が、学生時代の後輩だと気づく。
(確か、ギルの取り巻きの一人の……)
頭を下げた彼女は、少女の身体をひょいと抱き上げた。
「何よ、ママ! 離して!」
「いいからルイーズ先輩を困らせないでちょうだい、リサちゃん」
「何よ、ママ! そんな弱気だから、パパに遊ばれたのよ!」
「こんな大通りでおかしな発言はしないでちょうだい、ごめんなさい、ルイーズ先輩、また」
そうして、母子は嵐のように去っていった。
残された私はしゃがみこんだまま、夕陽が沈むのを見つめる。
(今の話……)
先ほど現れた母子の会話を咀嚼する。
(あの金髪の女の子、私がギルの奥さんにふさわしくない、そうして、ママはパパに遊ばれたのよって言ってたわね……あの子の髪の色、ギルの……まさか……ギルの隠し子なんじゃ……?)
悪い想像を膨らませた結果、一人で勝手に衝撃を受けたのだった。
0
お気に入りに追加
1,782
あなたにおすすめの小説
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。
猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。
『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』
一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
【完結】うちのお嬢様が婚約者の第2王子から溺愛されているのに真実の愛を求めて婚約破棄しそうです。
みやこ嬢
恋愛
★2024年2月21日余話追加更新
【2022年2月18日完結、全69話】
「わたくし、婚約破棄しようと思うの」
侯爵家令嬢のフィーリアは第2王子との婚約に不満がある様子。突然の婚約破棄発言の裏には様々な原因があった。
これは一時的な気の迷いか、それとも……
高位貴族の結婚事情。
周りとの温度差。
婚約者とのすれ違い。
お嬢様の幸せを誰より願う専属メイドの2人が婚約破棄回避のために尽力する。
***
2021年3月11日完結しました
2024年2月21日余話追加しました
【R18】悪役令嬢は騎士の腕の中で啼く――婚約破棄したら、爵位目当ての騎士様に求婚されました――
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※ムーンライト様で10月中旬に連載、完結した作品になります。
※R18に※、睡姦等
伯爵令嬢のリモーネは、クラーケ侯爵と婚約していた。しかし、クラーケは将軍の娘であるセピア公爵令嬢と浮気。あげくの果てに彼女は妊娠してしまい、リモーネとクラーケの婚約は破棄されることになる。
そんな中、頼りにしていた父が亡くなり、リモーネは女伯爵になることに。リモーネの夫になったものが伯爵の地位を継げるのだが、位の高いクラーケとセピアのことが怖くて、誰も彼女に近づかない。あげく二人の恋路を邪魔したとして、悪役としての汚名をリモーネは受けることに……。
そんな孤独な日々の中、彼女の前に現れたのは、立身出世まっしぐら、名高い騎士に成長した、幼馴染のシルヴァお兄ちゃん。リモーネは、彼から「爵位が欲しいから結婚してほしい」と求婚されて……?
お人好しのなりゆき悪役令嬢リモーネ×言葉足らずの無愛想で寡黙な年上イケメン騎士シルヴァ。
浮気男との婚約破棄後、偽装結婚からはじまった幼馴染同士の二人が、両想いになるまでの物語。
※ざまあというか、浮気男たちは自滅します。
《R18短編》優しい婚約者の素顔
あみにあ
恋愛
私の婚約者は、ずっと昔からお兄様と慕っていた彼。
優しくて、面白くて、頼りになって、甘えさせてくれるお兄様が好き。
それに文武両道、品行方正、眉目秀麗、令嬢たちのあこがれの存在。
そんなお兄様と婚約出来て、不平不満なんてあるはずない。
そうわかっているはずなのに、結婚が近づくにつれて何だか胸がモヤモヤするの。
そんな暗い気持ちの正体を教えてくれたのは―――――。
※6000字程度で、サクサクと読める短編小説です。
※無理矢理な描写がございます、苦手な方はご注意下さい。
【R18】ひとりえっちの現場をヤンデレに取り押さえられました。
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
タイトル通り。
孤児出身の助手エミリアが自慰行為をしていたら、上司で魔術師長のファウストに現場を見つかってしまい――?
R18に※、全15話完結の短編。
ムーンライトノベルズの短編完結作品。
【R18】突然すみません。片思い中の騎士様から惚れ薬を頼まれた魔術師令嬢です。良ければ皆さん、誰に使用するか教えていただけないでしょうか?
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※ムーンライトノベルズ様の完結作、日間1位♪
※R18には※
※本編+後日談。3万字数程度。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる