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ギルフォードside(過去〜現在)

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 そうして、それからまたしばらくして、学生時代最後のバレンタインを迎えた。
 女性達が押し寄せてくるのが嫌で、学園の中にある森の一角でギルフォードは隠れて休んでいた。ちなみに、ここはギルフォードとルイーズしか知らない場所でもある。
 彼は進路に悩んでいた。
 父の事業は長兄が継ぐことになっている。

(俺はどうしようかな。ひとまず大学には行くんだろうが)

 進路を決めきれないでいると、ルイーズが現れた。

「ギル、やっぱりここにいたのね」

 ギルフォードは身体を起こす。

「ルイーズ……」

 うっかり口づけて以来、初めての会話だ。

「タイが歪んでいるわよ。ギルったら、だらしないんだから」

 そう言うと、器用な手つきでルイーズが直してくれた。ちゃんとタイをつけていないと、彼女が毎回直してくれる。だから、いつもわざと適当に緩めているのだ。

(本人にばれたら、殺されるかもしれないが……)

 ちょこんとギルフォードの隣に、ルイーズは腰かけてくる。
 相変わらず彼女は麗しくて、彼の心臓は壊れそうだった。
 髪をかき上げながら、彼女が問いかけてくる。

「ねえ、ギルは卒業したら、どうするの?」

「決めてねぇ……俺はお前の菓子づくりみたいに、滅茶苦茶好きな何かがあるわけじゃないからな」

「そうなの? 貴方、小さい頃から、人に好かれているし、お父様やお兄様みたいに商才を発揮できそうだけど」

 ルイーズがはにかんできた。
 頬にえくぼが出来て可愛らしい。
 最近、彼女を見ていると、特に落ち着かなくなった。

「そうか?」

「ええ……」

「ルイーズは、菓子を作るのか? それとも――」

 ――彼女は貴族だ。
 貴族同士の責務で、どこかの貴族と結婚してしまうのだろうか。

(ルイーズの親父さんは過保護だから、そんなことはないか。俺の耳にもそんな話は届いていないし……)

 そんなことばかりに囚われていたら、彼女の横顔が憂いを帯びていることに、若いギルフォードは気づけなかった。

「私は、まだ決めかねていて……そうだ、ギルにこれを……」

 そんな中、彼女が彼に何か箱を渡してきた。
 渡された中に入っていたのは、数粒のチョコ。キラキラと細工がしてあって、愛らしかった。
 バレンタインではカードを大事な者同士贈り合うのが主流だが、得意のチョコをつけてくるなんて粋な計らいである。

「ギルはモテるから、他の女生徒たちからもカード、いっぱいもらっているでしょうけれど……」

 恥ずかしそうにしているルイーズが、やはり可愛らしかった。

「うまい。ずっと食っていてぇな……」

「ありがとう、ギル」

「お前も一粒食え」

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